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世話焼き侍従と訳あり王子 第二章

2-6 肖像権なんてありません

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 一人一台携帯端末を持つのが当たり前の現代社会、テレビなんて見なくても誰だって「エリオット王子」の画像を検索できる。王室も広報が運営するSNSアカウントで一家の動静をアップしているし、奇特なファンがネット上に投稿した画像を集めたサイトなんかもあふれている。王族らしくない表現をするなら、国民全員がパパラッチとも言える時代だ。

 幸いエリオットは早くに表舞台から退場したから、せいぜい子どものときのガチガチに緊張した顔くらいしか公開されていないが、ロイヤルウェディングと言う一大行事を控えたサイラスは検索ワード急上昇中だろう。

 中身はまったく似ていなくても、同じ両親を持つだけあって外見的にいくつかの共通点があることは認めざるを得ない。宅配業者やすれ違うフラットの住人に、万が一でも「あれ?」と思われたら終わりだ。だからまず、一番印象に残りそうな髪の色を変える。

 触れるのを禁止する場所に洗面台のキャビネットをあげたのは、買い置きのカラーリング剤が詰まっているからだ。いま使った空き箱なども、適当に放置すれば即座に発見されるだろうから、一階にある共有のごみ置き場まで捨てに行かなければ。

 待てよ?

「あいつはいったいどこまで知ってるんだ?」

 ハケを手に取ったところで、ふと初歩的なことが気になった。

 エリオットが把握している限り、ことの経緯を知るのは両親と兄、母方の祖父であるマイルズ。いろいろな根回しをするのに不可欠な侍従長、あとは当時のエリオットの筆頭侍従くらいだ。当然、学生くらいの年齢だったバッシュが知っているとは思えない。けれど、人の口に戸は立てられないのが常識だ。十年の間に、使用人の間でさまざまなうわさを耳にしているはず。

 バッシュの中で、エリオットは本当に王子と名前が同じなだけの「ヘインズ公爵」なのだろうか。

「でも、おれが王子だと知ってて平然としていられる感じには見えないんだよな」

 なにせあの「クソニート」発言だ。すました顔をしているくせに、ぞんがい感情の振れ幅は大きいと思う。

 疑問と言えば、本人曰く衣装係から昇進したばかりの侍従に、なぜ白羽の矢が立ったのかも謎だ。

 ただのメッセンジャーで終わる予定だったから、とか?

 いまのところ、招待状以外で王宮からの接触はない。サイラスも侍従長も、本当にこの件をバッシュに一任しているのだろうか。
 家事の腕を見る限り優秀なハウスキーパーだが、交渉人としての腕前は未知数だ。一体どうエリオットを説得するつもりなのだろう。

 ぼんやり考えていたせいでハケに取ったクリームが垂れそうになり、エリオットは慌ててこめかみ当たりの生え際に、床のワックスと同じくらい鼻に来る薬剤を塗り付けた。

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