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世話焼き侍従と訳あり王子 第六章
6-2 適材適所
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「ご気分は」
「座ってれば平気」
親指を立てて見せれば、イェオリもそれ以上の問いは重ねない。
軽いめまいが治まるのを待つ間、エリオットは話しの続きを振った。
「イェオリは、ちゃんと座って食べてる?」
「はい。わたくしは、侍従としてはずいぶん楽をさせていただいておりますので」
「楽?」
「えぇ。ヘインズさまはこちらにお泊りではありませんし、お迎えに上がるのもお昼頃でございますので、ほぼ日勤のみとなっております。侍従はフットマンより多忙のはずですが、わたくしに限ってはフットマンのころより余裕のある仕事をさせていただいております」
「でも……」
「なにか?」
「そのわりに、あんまりベイカーを見かけないから」
王宮に顔を出したのが五月の終わりだから、出入りするようになって三週間くらいだ。そのあいだ、エリオットの側についているのはたいていイェオリで、ベイカーは離宮と大聖堂に同行したくらい。あとは毎回挨拶に来る以外、姿を見なかった。
侍従がどこでなにをしているかは、エリオットが考えることではない。けれどわがままで呼び寄せた負い目があるから、もし避けられているとかだったらどうしようと思っていたのだ。
「それでしたら、わたくしどもが業務を分担しているせいです」
ひそかな不安に、イェオリはあっさりと答えた。
「現在は、ご成婚の儀に関する打ち合わせや段取りの仕事をベイカーが、ヘインズさまのお供をわたくしがさせていただくと言う形をとっております。お側に呼んでいただきながら不在がちで、ベイカーも心苦しいと申しております」
「あぁ、そうか」
エリオットは浅く腰かけた肘掛け椅子に沈み込んで、数回頷く。
知らないところでさまざまなお膳立てがされているのには慣れているが、今回は数年かけた準備にエリオットが飛び入りしてきたも同然なわけで。イサンドル大聖堂でのオールグレンとの顔合わせや、マーガレットの読書会など、多少の無理を通すにはベテランのベイカーが適任なのは明らかだ。
むしろ、言われるまで思い至らなかった自分に驚く。
どんだけ余裕ないんだって話しだな。
「ご報告が遅れ、ご心配をおかけしたことをお詫び申し上げます。ヘインズさまがご希望でしたら、今後はベイカーがお側に控えるようにいたしますが……」
「いい、いい。ベイカーとイェオリで、上手く回ってるならこのままで」
ここで「じゃあそうして」なんて言ったら、イェオリに不満があるみたいじゃないか。
主人が望むなら潔く身を引く。侍従として文句ない行動かもしれないけれど、もっと自己主張してもいいのにと思う。
あいつくらいガツガツしてても……って、イェオリはそう言うタイプじゃないよな。
「あ、でも座って休憩ができなくなったらすぐ言って。離宮からヘルプ呼んでもらえるように頼むから」
「座ってれば平気」
親指を立てて見せれば、イェオリもそれ以上の問いは重ねない。
軽いめまいが治まるのを待つ間、エリオットは話しの続きを振った。
「イェオリは、ちゃんと座って食べてる?」
「はい。わたくしは、侍従としてはずいぶん楽をさせていただいておりますので」
「楽?」
「えぇ。ヘインズさまはこちらにお泊りではありませんし、お迎えに上がるのもお昼頃でございますので、ほぼ日勤のみとなっております。侍従はフットマンより多忙のはずですが、わたくしに限ってはフットマンのころより余裕のある仕事をさせていただいております」
「でも……」
「なにか?」
「そのわりに、あんまりベイカーを見かけないから」
王宮に顔を出したのが五月の終わりだから、出入りするようになって三週間くらいだ。そのあいだ、エリオットの側についているのはたいていイェオリで、ベイカーは離宮と大聖堂に同行したくらい。あとは毎回挨拶に来る以外、姿を見なかった。
侍従がどこでなにをしているかは、エリオットが考えることではない。けれどわがままで呼び寄せた負い目があるから、もし避けられているとかだったらどうしようと思っていたのだ。
「それでしたら、わたくしどもが業務を分担しているせいです」
ひそかな不安に、イェオリはあっさりと答えた。
「現在は、ご成婚の儀に関する打ち合わせや段取りの仕事をベイカーが、ヘインズさまのお供をわたくしがさせていただくと言う形をとっております。お側に呼んでいただきながら不在がちで、ベイカーも心苦しいと申しております」
「あぁ、そうか」
エリオットは浅く腰かけた肘掛け椅子に沈み込んで、数回頷く。
知らないところでさまざまなお膳立てがされているのには慣れているが、今回は数年かけた準備にエリオットが飛び入りしてきたも同然なわけで。イサンドル大聖堂でのオールグレンとの顔合わせや、マーガレットの読書会など、多少の無理を通すにはベテランのベイカーが適任なのは明らかだ。
むしろ、言われるまで思い至らなかった自分に驚く。
どんだけ余裕ないんだって話しだな。
「ご報告が遅れ、ご心配をおかけしたことをお詫び申し上げます。ヘインズさまがご希望でしたら、今後はベイカーがお側に控えるようにいたしますが……」
「いい、いい。ベイカーとイェオリで、上手く回ってるならこのままで」
ここで「じゃあそうして」なんて言ったら、イェオリに不満があるみたいじゃないか。
主人が望むなら潔く身を引く。侍従として文句ない行動かもしれないけれど、もっと自己主張してもいいのにと思う。
あいつくらいガツガツしてても……って、イェオリはそう言うタイプじゃないよな。
「あ、でも座って休憩ができなくなったらすぐ言って。離宮からヘルプ呼んでもらえるように頼むから」
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