箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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世話焼き侍従と訳あり王子 第七章

5-1 エドゥアルド

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 エドゥアルド二世は在位二十三年になる。エリオットが生まれた年に父――エリオットにとっては祖父――が心不全で急逝し、王位継承順位に従って即位した。王子の誕生、王の死、新王の即位と、シルヴァーナにとって、それはせわしない一年だったに違いない。

 即位の宣誓で、エドゥアルドは「新しく迎える命、そして神の御許へと去る命、すべての命を慈しみ愛する王であることを誓う」と述べた。
 サイラスをおおむね善良とするなら、エドゥアルドはただ善良だ。裏表なく、分け隔てなく。ティーンエイジャーにありがちな、パブでのスキャンダルも一度としてなく。そしてそれが少々つまらないと国民に思われているとしても、間違いなくよき王として君臨してきた。

 エリオットにとっても、穏やかで我慢強い父だ。小さなころ、膝に抱き上げてくれたことも覚えているし、期待に応えられない息子に失望を見せることもなかった。唯一、感情をあらわに怒ったのは、あの事件で犯人を罵ったときだけだ。

 あれはおっかなかったな……。

「久しぶりだな、エリオット」
「あ、はい」

 慌てて居住まいを正す。遠くへ意識を飛ばしているうちに、招待状を出したところからのだいたいの経緯と、準備の進捗についてサイラスが説明してくれたらしい。背もたれがエリオットの身長ほどもありそうな椅子に腰かけたエドゥアルドが、サイラスとよく似た瞳でじっとこちらを見ていた。

 いや、サイラスが似ているのか。
 エドゥアルドは、さきほど会った叔父に比べるとがっしりした体格だ。長身と言うわけではないけれど、玉座について国民のよりどころとなるにふさわしい威厳と風格がある。

 残念ながらエリオットは、その外見をひとつも受け継がなかったが。

「…‥十年も不義理をしておいて、いまさら押しかけてごめんなさい」
「お前がここへ来てくれてうれしいよ、エリオット。神に感謝したいくらいだ」
「父さん、それならわたしに感謝してください。エリオットに招待状を出したのはわたしですからね。お忘れなく」

 父子だけしかいない部屋でリラックスしているのか、執務机の前に置かれたソファの肘掛けに腰を下ろし、サイラスが肩をすくめる。

 忘れるわけねーだろ。一生恨むわ。

「十年ぶりなんだから、挨拶くらい殊勝な親子を演じようって気づかいだろ」
「それは悪かった。緊張しているようだから、フォローのつもりだったんだが」
「台無しだよ」

 エリオットは机と応接セットの間に立ち、じっとりした目でサイラスを睨む。思いがけないものを見たような顔で、エドゥアルドが兄弟を交互に見比べた。

「わたしは邪魔なようだから、失礼するとしようかな」

 見事に『殊勝な親子』の仮面をひっぺがしたサイラスは、「じゃあ父さん、またディナーで」とひらひら手を振って本当に執務室を出て行ってしまった。
 あまりにあっさり取り残されたので、もう少しで舌打ちするところだった。

「まったくあいつは……」

 エドゥアルドは呆れたように笑った後、ソファを指し座るようエリオットに言った。

「しかし、サイラスの言う通りだな。わたしは臆病で、十年たってもお前を呼び寄せるどこか、迎えに行くこともできなかった」
「迎えに来てもらうほど、もう子どもじゃないよ。べつに、ラスに呼ばれたから来たわけじゃないし」
「そうか」
「うん」

 探り合うような会話が途切れる。エドゥアルドは困っているだろうな、と思った。当然だ。この人たちと共有すべき十年と言う時間を、いち視聴者としてテレビやネット越しに消費してきたエリオットは、この場で父と語り合う言葉を持たない。

 しかし、すべての命を愛すると誓った王は、言葉通りエリオットのことも愛そうと努力した。つまり、会話を続けることだ。

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