箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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番外編 重ねる日々

おそととおうち

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「殿下、おやつですよ」
「や!」

 強く拒否されたロダスが、肩を落として同僚を振り返った。しかしベイカーもフランツも、すでにテレビの番組やぬいぐるみで釣ろうとして失敗している。

 我らが王子は、長椅子の裏に隠れてご機嫌ななめだ。

 フェリシア王妃と絵本の展覧会に出かけたのだが、ギャラリーからスマホや大砲のように大きなカメラを向けられたのが怖かったようだ。ハウスに帰って来て安心したものの、怯えは不機嫌に転嫁されている。

 しばらくそっとしておこうか、それとも──と思ったところで、戸口にフェリシアが現れた。

 侍従たちの様子から、また息子が秘密基地に籠城しているのを察したフェリシアは、長椅子の背もたれから向こうを覗き込む。

「あらあら、子熊ちゃんがいるのかしら」
「……いお、くまじゃないもん」
「まぁ、子熊ちゃんかと思ったらエリオットだったのね。こっちへいらっしゃい」

 やはり母親は特別らしい。取り付く島もなかったエリオットは、もぞもぞと這い出して来ると、椅子に座るフェリシアの膝によじ登って、ぎゅっと抱き着いた。

「ママ」
「なぁに?」
「おそとのひとは、どうしてみんな、いおのお写真するの?」
「そうねぇ」

 フェリシアが、エリオットの柔らか髪を撫でる。

「ベイカーも、あなたのお写真を撮るでしょう? どうしてだと思う?」
「ベーカーはぁ、ママとパパにどうぞするんでしょ?」
「そうよ。パパとママはいつも、あなたがどうしてるか知りたいの。サイラスのこともそう。そしてね、お外にいるひとたちもそうなの」
「どうして?」
「シルヴァーナのひとたちにとって、あなたは家族だから」
「かぞく?」

 エリオットは目を丸くすると、フェリシアの胸に手を突っ張って仰け反る。精いっぱいの驚きを表しているらしい。

 最近ようやくベイカーのカメラにピースができるようになった王子にとって、いきなり国民は家族だといわれても理解が追い付かないのは当たり前だ。

 しかしフェリシアのお腹にいるときから見守り、無事の誕生を喜び、日々の成長を感じるベイカーとしては、彼女の言葉に深く頷いてしまう。

 細い眉をかわいらしく寄せ、唇を尖らせて考え込んだエリオットは、やがてこういった。

「おそとのひとは、おうちにいないよ。いおと、ごはんも一緒しないでしょ?」

 王子は意外と理屈っぽい。

「あら」

 フェリシアの瞬きも愉快そうだった。

 小さな頭で考えた家族の定義は、同じ家に住んで食事を共にすることのようだ。

 幼児の理屈としては百点を差し上げたいところだが、彼の母君はなかなか容赦がない。

「でもエリオット? ヘインズのおじいちゃまも、このお家にはいないわよ?」
「じーじ……」

 難問だ。たしかに祖父であるヘインズ公爵は、頻繁な行き来はあるもののハウスに同居しているわけではないから、エリオットの定義では家族でないことになってしまう。

 ぺしょっと萎れたエリオットを、フェリシアは膝の上で抱え直した。

「一緒のお家にいなくても、一緒にご飯を食べなくても家族なの。お外のひとたちは、パパやママのようにはいつもあなたと一緒にいられないから、お写真を側に置いておきたいのよ」
「んー……」

 ぽん、ぽんと背中を叩くフェリシアの言葉を聞きながら親指を噛んでいた幼子は、疲れたのかうとうとし始める。

 ブルーグリーンの瞳がまぶたに覆われる寸前、ぽつりとエリオットがいった。

「……いお、おそとこわい」
「大丈夫よ。ママもパパもサイラスも、あなたを守るわ」

 一瞬だけ痛ましげな表情をよぎらせたフェリシアは、力の抜けた小さな体を強く抱きしめる。

「陛下」

 親子の側に寄り添うと、フェリシアがひとつ息を吸ってベイカーにほほ笑んだ。

「難しい子で、ごめんなさいね」
「いいえ陛下」

 ベイカーはきっぱりと否定した。

「おそれながら、我々は殿下をお任せいただいたことを誇りに思っております」

 フランツとロダスも大きく頷く。

 たしかにエリオットは怖がりで繊細で、大人の物差しでいうところの「難しい子」かもしれない。しかしそれは、彼が劣っているということではないのだ。決して。

「殿下にとって、世界は大きな波のようなものかもしれません。陛下が殿下を守られるならば、我々は喜んでその列に加わりましょう」
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