箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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番外編 重ねる日々

サービスチャージ

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「日本には、サービスチャージがないんだったな」

 カフェのカウンターでコーヒーの代金を払いながら、バッシュがそう言った。

「えぇ」

 イェオリは先に店員からソイラテを受け取って、軽くうなずく。

 文化の違いについて話すとき、よく話題にのぼるトピックスのひとつが、サービスチャージ──いわゆるチップ──についてだ。シルヴァーナでは、各サービスに一般的なサービスチャージが求められる。

 たとえばこのカフェだと、会計時に示されるタッチパネルでチャージ料を選択するシステムになっていた。

 だいたいどこへ行ってもそんなふうだから、イェオリもすっかり慣れてしまったけれど、広い視野で見ればサービスチャージが文化として根付いているのは、欧米や中東の一部であって、必ずしもグローバルスタンダードではない。

「旅館でもない限り、個人に対してサービス料を払うという習慣はありませんね」

 店内の隅に見つけた席で、イェオリはニスで光るテーブルにカップを置いた。

 そうしながら思い出したが、日本にいたころ、親族が葬儀会社の運転手へ心付けを包んでいるのを見たことがあった。しかしシチュエーションが特殊すぎて、サンプルとしては不適当な気がするから黙っておく。

 高い脚をものともせずスツールに腰かけたバッシュは、少し考えてから尋ねた。

「働く側としてはどうなんだ? サービスを提供していることを、評価されていないとは感じないのか?」
「サービスの提供が仕事ならば、その対価は仕事をさせる雇用主が支払うものでしょう」
「もっともだな」バッシュはコーヒーをひと口啜る。

 少し主張が強かっただろうか。

 こちらの雇用システムに物申したいわけではないし、日本のサービス業の賃金に問題がないわけでもないのだが。

 イェオリはカップを持ち上げて、湯気とともに立ち昇るラテの香りをゆっくり吸い込んだ。

「なら、おれたちの仕事は日本式ってわけだ」

 目を向けると、バッシュはクレーンのように上から掴んだカップを、手首でゆっくり回している。

 こちらの意見に迎合しての言葉ではなく、ただそう思ったから口にした、と言う気軽さだ。単純に、彼は議論をするのが好きなのだ。それも相手を言い負かすためではなく、自分の思考の選択肢を増やすためのコミュニケーションが。

「確かに、我々のサービスは雇用主が対価を払っていますね」
「だろう?」

 お茶をいれるとか荷物を運ぶとか、侍従侍女やフットマン、メイドのサービスに対して、つどチップを払う必要があったなら、ロイヤルファミリーは一ユーロ硬貨を山ほど持ち歩かなければならない。

 膨らんだガマ口の財布を開けて硬貨を数えるエリオットを想像したイェオリは、こみ上げる可笑しさを、甘いラテと一緒にカップのふちから飲み込んだ。
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