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34話 黒騎士、唸る グランデside
しおりを挟む当主の部屋を出て、グランデはガツガツと荒々しい靴音を響かせながら、腰に幅広の剣帯ベルトを装着し、小さな金具をいくつか引っ掛け剣を下げた。
足を進めるごとにカチッ… カチッ… と腰に下げた剣から金属がこすれる音を立て、グランデは庭へ出る。
中庭へ向かう途中の、木が生い茂り昼寝をするのに気持ち良さそうな、木陰の下までくると… グランデはギリギリと歯ぎしりをしながら、ピタリと立ち止まり…
「ぐううううううぅぅぅぅ―――っ…!!!」
ギュッ…! と拳をにぎりしめ、グランデは激怒する野獣のように、低い唸り声をあげた。
「クソッ!! 何てことだ!! アスカルにオレとの結婚を拒まれるなんて!!」
話の雲行きが怪しくなり、不穏な空気をまといだしたアスカルに…
はっきりと結婚を断られるのを避けたくて、グランデは話の途中であわてて寝室を逃げ出したのだ。
<確かにオレは野蛮人で、お世辞にも上品とは言えないが… クソッ!! オレは他の貴族たちのように、何人も番をつくるような不誠実な人間ではないぞ?!>
グランデに言い寄られるのではないかと心配し、自分がオメガであることを、必死になって隠そうとしていたアスカルの、不安を取りのぞいてやりたくて… “相手ぐらいいる” と言ってやっただけだった。
『いくらお前が綺麗なオメガでも、オレは使用人を口説くほど、飢えてはいないから心配するな! それに王都に行けば、オレの相手ぐらいいる』
<当主が消えた邸を、誰に褒められることも無いのに、父親と一緒に何年も、地道に守り続けて来たアスカルに、オレは確かに、敬意と好感を持っていた…
けしてヤラシイ気持ちを、持っていたわけではないぞ?! まぁ… あれだけの美人は、王都でも見たことがないから、まったくその気が無かったと言えば嘘になるが… オレもアルファだから、少しぐらいドキドキするのは当たり前だ! オレのアスカルは、本当に綺麗だからな!>
「それにアスカルは可愛いし、仕方がない! うん!」
怖い顔で地面をにらみながら納得し、グランデは大きくうなずいた。
<それよりもだ!! なんてひどい誤解をされているんだ?! オレは番が1人いれば、じゅうぶん満足できる男だし… 同時に何人も愛せるような、器用な性格でもないのに!!>
当然アスカルは、グランデにとって、初めての番だった。
「チクショ―――ッ!!」
<何といっても伯爵位だ!! オレが継いだ爵位も悪い!! 伯爵夫人にはなれないと… アスカルは言っていたからな?! つまりオレが以前のように平民だったら、アスカルは気持ち良く妻になることを承諾したかもしれない!! ああクソッ! 何てことだ! ああクソッ!!>
グランデは、ガッ…! と頭を抱えてその場にうずくまり、苦悩に悶える野獣のように、唸り声をあげて怒鳴った。
「ぐうぬぬぬぬぅぅぅぅぅぅ―――っ…!!! 何でこうなるんだ?!!!」
「ひいぃっ!!!」
小さなさけび声が背後で聞こえ… あわててグランデは振り向き、悪魔のような形相で、さけび声をあげた庭師見習いの少年をにらみつけた。
「神… 神っ… 神様… どうか悪魔から…お救い下さい…っ!!」
少年はグランデの背後で泣きながら… ぶるぶる震える両手を合わせ、神に祈りを捧げていた。
「・・・・っ!!」
悪魔の形相のグランデの頬が、うっすらと赤く染まった。
大男で圧が強く、顔が怖いグランデは… 時々、悪魔憑きと間違われることがあるのだ。
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