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99話 本陣に戻ると…2

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 魔獣を狩っても、狩っても、すぐにまた新たな群れがあらわれ、また魔獣を狩る。

 その繰り返しを続けるうちに… 元々体力の無いオメガの身体を持つアスカルは疲弊ひへいし、魔力切れを起こしかけていた。
 魔王との戦いでも、黒騎士たちを援護しながら、ずっと戦い続けていたのだから、仕方の無いことである。
 

「・・・っ」
<だめだ! このまま、歯を食いしばって魔獣たちと戦っても、僕はもうすぐ動けなくなる!! 何とかしなければ! 何とか…っ!>

 アスカルが長弓で3本ずつ放っていた氷の矢が、2本しか放てなくなり… その矢も強度が不安定で、結局一本ずつ放つようにして、ギリギリで魔獣を仕留める。


「グランデ―――ッ!! 奥方が限界だ! 何か良い手は無いか?!」
 隣で戦う王太子アニマシオンも、アスカルの変化に気付いていたが、自分の身を守るだけでも精一杯で、アスカルに休めと言える状況では無かった。


「クソッ!」
 ギシギシと歯ぎしりをしながら、グランデは自分たちに向かって突っこんで来る、魔獣の群れを切り伏せた。

 グランデもアスカルの体力が限界に来ていることは、気付いていたが… 魔獣の数が多く、救護所を守りながらの戦いは、あまりにも条件が悪かった。

 エンチュフェ隊の負傷した3人の部下たちも、救護所で治療を受けると、すぐに表へ出て来て、救護所を守る戦いに参加していた。

 治療を受けても万全ばんぜんではないため、思うように戦えない様子だが、負傷した黒騎士たちはそれでもアスカルと同じく体力の限界に近い状態でみとどまっている。

 騎士たちが総崩そうくずれになるのも時間の問題だった。


「救護所だけは、何とか守らなければ! クソッ!!」


「グ… グランデ様! 救護所に… 小結界を! 張ってみては…?!」
<そうだよ… グランデ様の言う通り、救護所を優先して守る手段を考えれば… 僕たちにも、余裕が少しできるはず…?!>

 ハァッハァッと荒い息をはきながら、アスカルが途切とぎれ、途切れにさけんだ。

「出来るのか、アスカル?!」

「時間… 必要ですが…! 結界石の予備、用意してあるから…!  予備品テントまで… 取りに行けば… ここから近いし…! このままよりは… ずっと良い…!」


 そこへ、白騎士の副団長が、消失した第三結界壁の外側で戦っていた、青騎士の負傷者を何人も連れて、転移魔法で救護所の前に移動して来た。

「何てことだ! ここまで、魔獣が来ていたのかっ…?!」
 グランデたちが、大地の裂け目から移動した直後と同様に、白騎士の副団長も、突進してくる魔獣の群れにあわてて剣を振り、電撃を放ち焼き殺しながら、負傷者たちに怒鳴った。

「お前たち! 動ける者は救護所まで走れ―――っ!」

 白騎士の副団長に怒鳴られ、負傷した青騎士たちの歩ける者たちは、お互いを支え合いながら、ヨロヨロと歩き救護所へ向かう。

 だが、何人かは意識が無いらしく、地面に横たわったままだ。


「おい、サル! 援護するから、お前たちは負傷者を救護所へ運ぶのを手伝え!」
 グランデは隣で戦う、王太子の補佐官サルと、青騎士たちに怒鳴った。

「…ああ、わかった!」
 さすがに補佐官サルも、魔獣退治の専門家に従う気になったらしく、素直にグランデの命令を聞き、転移して来た白騎士の副団長の隣に立ち、魔獣から負傷者を守りながら救護所へ運ぶ。


「どうやら、運が向いて来たようだ!」

 グランデは白騎士の副団長の顔を見て、ニヤリと笑った。






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