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8、side黒鉄、生き返った日

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ゆっくりとまぶたを開け周りを確認する、世界には塵が積もれば山となるなんてことわざがあるらしい。

一理あると感じさせる光景が広がっていた。

屑鉄が積もって一山作られ、歪なバランスで保っていたが、時間とともに崩れてまた新たな屑鉄が頂点に乱雑に積まれていく。

大半は上に引っかかることもできず、騒音を立てながら落ちていき、最後に甲高い音を立てて地面に叩きつけられる。

地面に落ちた屑鉄は二度と陽の目を見ることはなく、一生を終える、いや、終わったからこそここに行き着いたのか。

運良く万が一、頂点に残れたとしても次に弾かれたらそこまで、後は転がり落ちるだけで地面という最底辺へ落ちていく。

確かに集まれば山になるだろう、しかしそれに価値はあるのか?

小さい事でもコツコツとやれば山になる、そこに善悪の区別はない、なぜならこうして乱雑に処理したごみ山がいくつも集まってできたのが、不毛の地、廃品解体処理屑鉄投棄場

生き物はおらず、魔物だってここには近づかない、ここにあるのはただのガラクタのみ、最初からか途中からかは判別がつかないが、無駄、無意味、無価値、存在否定の烙印を押され、原型を止めることすら許されない、せめて嵩張らないように朽ちてくれ、捨てた人間の心理はこんなところだろう。


(…………俺は……そうだな………さしずめ人間の形をした塵………)


無価値な屑鉄塗れの世界で唯一、人が眼中に入れてくれる存在かもしれない、邪魔臭いという理由で。

なんとなくそれでも誰か見てくれるだけマシか、そんな歪んだ価値観になんの疑問も持たずに納得する。

彼はそもそも人間ですらない、人でもなければ魔物でもない。

神を目指して、中途半端に人の力を超え、天使どころか、悪魔にもなれず、なら自分達は一体何なのか、彼なりに出したのがさっきの答え。

形があり、木材やら硝子よりも硬度を誇っていた、鉄や鋼が今やただのガラクタ、元の姿など面影もない、いや、硬く、一度形を決めてしまえば後は変えづらい、だからこそここまで執拗に潰されるということなのだろうか?

ともかく、有形物ですらこの有様なのだ、最初から形などない無形な記憶などいくらでも歪み、改竄され、無から有にすらなる、さながらいらない物を叩き、潰し、切り刻み、有形物をバラす解体処理工程のよう、一つ違うのは減ることはあっても増えることはないということだけ。

それでも妄想に浸れる分まだ意味がある気がする、無形物にすら負ける鉄と鋼、その事実に辟易する彼。

何にもわからない彼が自信を持って言えるのはこの世で最も脆いもの、それは鋼と鉄。

硝子も木材も石も、存在を許されるが、鋼と鉄だけは許されず削られ、燃やされ、溶かされ、屑鉄という残りカスになる事すら出来ない物もある。

哲学とも言えない幼稚な考えを頭の中で展開するが、胸の中の憂鬱が増しただけだった。

(……………鉄と鋼なんて……脆すぎる………)

上から他のに比べると巨大な塵が落下してきて奇跡的、または必然的に当たらなかったのか、それすらわからない。

彼女と同じ最底辺に落ちてきたものを横目で確認する。

自身と同じ、人間の形を型取った塵、ただ自我あるかないかそれだけの違いしかない。

「……新入りか……よろしくな………」

「………………」

体の大半が壊れ、歩くこともできない彼はこうやって、もう意識すらない機械人形オートマタに話しかけるのが日課になっていた、そうでもしなければ孤独に耐えられないからだ………もちろん、もはやただのガラクタと化している人形は無反応………。

「………返事が来るわけないか……」

「よろしく先輩~」

「ーーーー??!!」

気楽な女の声が響き渡る、自分と同じ、奇跡的にまだ稼働しているオートマタが返答したのかと思い、視線をオートマタに移すが、ピクリとも動いていない、騒音が多いのでさっきまでは気が付かなかったが、足音が鳴っている、こちらへ近づいてきている………。

「………ヘッッ、なんだ?、俺を解体しにきたのか?、ご苦労様だぜ」

「違うよ、珍しいオートマタの反応があったから見にきたんだ、にしてもこりゃひどい、好き勝手ゴミ捨てて、自然は大切にしなきゃいけないんだけどな~」

「………それで?、解体じゃないなら俺にいったいなんの用だ?」

「ん?、なんの用かって?、修理しようと思って」

「………何でわざわざそんなことするんだ?」

「だって、きみ珍しいタイプのオートマタだからバラしたら元に戻せなくなりそうだし~それだったら修理して、きみの性能を見せてほしいな~、幸い近くに材料はたんまりあるし、歩けるようにするぐらいだったら今すぐできると思う」

「………物好きな女だぜ」

「ねぇねぇ、貴方の名前はなんていうの?」

「悪いな、覚えてない」

「ええ?………それじゃあ私が名付けてあげる」

「おいおい、勝手なこと言ってんじゃーーー」

「うーーん、そうだ、黒髪黒目だから『黒鉄』、君の名前は黒鉄だ!!」

「………話聞けって」

ツナギを着て、額にはゴーグル、腰のホルダーにいろんな種類のスパナやドライバー、工具が差してある女は満面の笑みで俺の体を修理を始める。

「………ね」

「んぁ?」

「黒鉄?、起きて、次の町に着くよ?」

「………悪い、寝てた………」

「珍しいね、黒鉄がうたた寝するなんて、なんかニヤニヤしてたけど、どんな夢見てたの?」

「………教えない」

「ええ??!!、何でなんで、教えてよ~」

「………モフモフな毛に浮気するエマには教えてやるもんか」

「そ、それは、人類ならしょうがないっていうか~」

「教えないったら教えない」

「そんな~」

俺はきっとあの時からエマに惚れていたんだろう、機械人形オートマタのくせに、分不相応にも彼女に恋してしまったのだろう……だけど人間ではない俺に告白する資格なんてない、だからせめてネジ一本に至るまで、彼女ために使い切ると、あの日決意した。




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