社内恋愛を始めたところ、腹黒上司が激甘彼氏になりまして

八千古嶋コノチカ

文字の大きさ
15 / 19

しおりを挟む


「松下部長がーー結婚?」

 そのニュースを聞いた瞬間、私は手元の資料を落としてしまった。

「あの部長もついに身を固めるらしいな。逆玉の輿みたいだぞ」

「逆玉の輿?」

「なんでも相手は取引先のご令嬢で、ゆくゆくは部長が会社を継ぐらしい。岡崎にしてみたらチャンスじゃないか」

「え?」

「部長のポジションが空くだろ?」

 この際、同僚の嫌味などどうでもいい。無視を決め込んで資料を拾うと、そのまま朝霧部長のデスクへ移動する。

 彼は私の顔を見るなり襟足を掻く。いかにも気まずそう。

「松下部長の件なら俺もよく分かりません」

「分かりませんとは? 松下部長が退社されたら我社の損失がどれだけ大きいか、お分かりになりますよね?」

 両手をデスクにつき、聞き返す。
 取引先相手との縁談ならば上層部が知らないはずがない。一枚、いやニ枚も三枚も噛んでいるに違いなかった。

 その証拠に社内に情報が拡散されるのが早すぎる。外堀を埋めて松下部長を逃さないつもりか。

「と言われても……プライベートな話ですし、幸せと仕事を天秤にかけるのはナンセンス。松下部長も今すぐ辞めたりしないと思いますし。それよりコンペの進み具合は如何ですか?」

「それは松下部長が抜けた穴を埋められる出来栄えかと聞いてます?」

「あぁ、そういう意味として受け取って構いませんよ、岡崎君」

 部内の空気が張り詰める。先輩後輩の位置関係が今や部下と上司、周りも色々気を揉むだろう。

「不本意であるのは察します。しかし、岡崎君が今やるべきことは明確なはず。仕事に集中して下さい」

 朝霧部長の言い分は正しい。松下部長の縁談話に気を取られている場合じゃなく、企画書を仕上げないといけない。

「申し訳ございませんでした。仕事へ戻ります」

 両手を股につけて頭を下げる。すると周囲の緊張が解け、雰囲気は回復した。

 私も朝霧部長もお互いの距離感をいまいち掴みきれていないだけで、いがみ合いたいんじゃないのだ。リスペクトを忘れず適切な関係を構築したい。

「……それで注意したばかりですが、少々頼まれてくれませんか?」

 茶封筒を持ち出す朝霧部長。

「はい、構いませんよ。そちらをどなたにお渡しすれば?」

「第三会議室へ持っていって欲しいです」

「第三? あちらは使用禁止では?」

「そうなんですがーー行けば用件が分かると思います」

 言い淀む朝霧部長は追求しないでおく。お使いを引き受けるのは皆へアピールになるし。
 面白ろ可笑しく部長の結婚について噂してきた社員をちくりと睨み、部屋を後にした。

 松下部長が結婚ねーー廊下を歩きながら、どうしても考えてしまう。いよいよ年貢の納め時か、それとも取引先のご令嬢が運命の人だったとか。部長に結婚のイメージを持っていない、いや持ちたくない為、信じられず疑う。

 だが、結婚を控えていたから私をポップアップストアへ連れて行き、企画書のアドバイスをしたのなら辻褄は合った。会社に残す元部下を案じて行動したのだ。

 部長にはこれまでも数多の見合い話があったと推察する。それをのらりくらり避ける様子も容易に思い浮かぶ。

 身を固めないことで何を言われても気にせず、部長は独身を謳歌し続けると思っていたのに。

 なんだか裏切られた気分。

 恋愛的な意味合いではないものの、私は彼に待っていて欲しい旨を伝えたはず。それなのに寿退社をしようとするなんて。

「失礼します」

 使用禁止のはずの第三会議室から明かりが漏れていた。ノックをして扉を開けるとーー。

「やぁ、お疲れ様」

 そこに松下部長がいた。軽く手を上げ挨拶してくる。まさか渦中の人物がこんな場所にいるとはーー私は瞬時に反応出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?

無色
恋愛
 子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。  身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...