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「えぇ、良子様と会いました。私を好いていると告げられましたよ。
お許し下さい、私はお嬢様がこうして真っすぐお尋ねになれば嘘などつけません。不誠実な真似して貴女に嫌われたくない」

 唇を噛む優子は姉を非難したくない表れだ。

「……それでお姉様とは?」

「気持ちには応えませんでしたが、口付けは交わしました。口付けといってもお嬢様が暁月としたような無意味なものですが」

 徳増は良子との口付けを淀みなく語り、秀人との口付けを指摘され震える頭を撫でた。

「心配なさらないで、お嬢様の高潔さはあの男に口付けされたくらいでは揺るぎません。しかし肌を重ねるとなると……」

「今はわたしの話はいいよ! あなたは気持ちがないのにお姉様と口付けしたの?」

「えぇ、しましたよ、流れ的に」

「流れって」

「雰囲気を壊して、恥をかかせてはいけないと思いましたので」

「お姉様に限らず、そういう口付けはしない方がいい。愛のない口付けなんて徳増も相手の人も傷付く」

「それはお嬢様に置き換えても同じなのでは? 暁月との口付けで傷付くという事ですよ」

「わたしは、別に、傷付いてなんて」

「ならば私も傷付いていませんよ」

「……じゃあ、わたしが傷付いていると言えば?」

「私も傷付いていることになります。あのような真似は二度と致しません。お嬢様もしませんよね?」

「それは」

「お嬢様もしませんよね?」

 優子は返事に困る。夫である相手との口付けを拒否できない。

「なにも金輪際、あの男を受け入れるなと言ってるのではありません。せめてお嬢様があの男を受け入れたいと自然に思える日まで、お身体を許さないで下さい」

 優子とて、出来るなら身も身体も秀人に捧げたいと感じるまで関係性を築きたい。しかし、せっかちな秀人がそれを認めないだろう

「でも秀人様がそれではーー」

「私に策があります。まぁ、策と言うには時間稼ぎにしかなりませんけれど。お嬢様に考える猶予はできます。大丈夫、私にお任せ下さい」

 そういうと徳増は優子を抱き寄せた。徳増の抱擁は柔らかく、泣きたくなるくらい優しい。親鳥が翼で雛を温めるように柔らかい。

「わたし、徳増に頼ってばかり。ごめんなさい」

「どうか謝らないで下さい。私は嬉しいですよ。なんならお嬢様が私なしでは生活できなくなればいいとさえ思ってます」

「え?」

 優子がはっとして顔を上げる。徳増は本気とも冗談とも取れる笑顔で優子の髪を撫でた。

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