83 / 120
もう誰も
3
しおりを挟む
■
「優子!」
優子の実家では父親が連絡なく運び込まれた娘を見るなり、泣いて抱き締めた。やせ衰えた身体から大きな声を上げる。
「ああ、どうしてこんな」
優子は父の胸へぐったり身体を預け、固く目を瞑ったまま浅い呼吸を繰り返す。頬を叩くも目覚めない。
「娘に何があったというんだ?」
「それは俺の口からは……とにかく医者にみせてやって下さい」
「誰か! 誰かいないか!」
指示を終え、立花は名乗らず去ろうとしたが駆けつけてくる人数に足を止めた。それから屋敷内を見回す。
病に伏せる男が侘びしく暮らしている割に手入れは行き届いており、厨房から温かな香りが漏れていた。
「娘をこんな目にあわせたのは……徳増かい?」
父親は治療に向う娘を見守り、立花に背を向けた姿勢で静かに言う。
「何故、徳増と? 暁月かもしれませんよ?」
「いいや、少なくとも秀人くんではないだろう。彼はそんな人間じゃない」
振り返り、立花を見据える瞳には秀人への信頼が伺える。
なるほどね、立花は合点がいった。
徳増は優子のためならば金に糸目はつけないだろうが、良子を殺めたよう身内などどうでもいい。現在、この屋敷は秀人の援助を受けて成り立っているのだろう。
資金援助を条件に政略結婚をしたにしろ、かなり手厚い援助と言えよう。複数人の医者が在中し、湯を沸かす使用人の姿もある。
「彼は妻との関係も気にかけてくれてね。折を見て4人で食事をしようと手紙をくれたんだ。その矢先……それで答えてはくれないのかい?」
立花は口を結んだまま傾げた。あの秀人が殊勝な根回しをするものだと吹き出しそうだ。
「それで? 徳増がやったのかと尋ねているんだが?」
「俺が徳増の関与を証言すると? 長らく徳増の所業を黙認してきたあなたなら、俺の答えは分かるでしょ?」
「娘をこんなにされて黙っていられるか!」
「……娘ねぇ。ちなみに長女はその食事会に呼ばないのですか? 仲間はずれは可哀想ですよ」
「っ、それは君に関係ない! 秀人くんがなんとかしてくれる」
どうやら、父親は暁月の後ろ盾があれば徳増をどうにかできると信じているらしい。これには立花から冷たい反論が出た。
「長年家令として娘に尽くした徳増より、いい暮らしをさせてくれる暁月を選ぶんです?まぁその暁月もこれまで通りとはいかなくなるでしょうが」
「どういう意味だ?」
「4人でお食事するのはいつの話ですか?」
「? あぁ、明日だが? それが何か?」
「ということは暁月はこちらに戻っている最中か。やばいな、巻き添えは食いたくないぞ」
立花は知りたい旨を知るなり踵をかえした。
「おい、待ちなさい!」
静止を聞き入れず、立花は屋敷を後にする。
庭先から窓辺を見上げ、優子を案じるみたいな表情を浮かべた。
「優子!」
優子の実家では父親が連絡なく運び込まれた娘を見るなり、泣いて抱き締めた。やせ衰えた身体から大きな声を上げる。
「ああ、どうしてこんな」
優子は父の胸へぐったり身体を預け、固く目を瞑ったまま浅い呼吸を繰り返す。頬を叩くも目覚めない。
「娘に何があったというんだ?」
「それは俺の口からは……とにかく医者にみせてやって下さい」
「誰か! 誰かいないか!」
指示を終え、立花は名乗らず去ろうとしたが駆けつけてくる人数に足を止めた。それから屋敷内を見回す。
病に伏せる男が侘びしく暮らしている割に手入れは行き届いており、厨房から温かな香りが漏れていた。
「娘をこんな目にあわせたのは……徳増かい?」
父親は治療に向う娘を見守り、立花に背を向けた姿勢で静かに言う。
「何故、徳増と? 暁月かもしれませんよ?」
「いいや、少なくとも秀人くんではないだろう。彼はそんな人間じゃない」
振り返り、立花を見据える瞳には秀人への信頼が伺える。
なるほどね、立花は合点がいった。
徳増は優子のためならば金に糸目はつけないだろうが、良子を殺めたよう身内などどうでもいい。現在、この屋敷は秀人の援助を受けて成り立っているのだろう。
資金援助を条件に政略結婚をしたにしろ、かなり手厚い援助と言えよう。複数人の医者が在中し、湯を沸かす使用人の姿もある。
「彼は妻との関係も気にかけてくれてね。折を見て4人で食事をしようと手紙をくれたんだ。その矢先……それで答えてはくれないのかい?」
立花は口を結んだまま傾げた。あの秀人が殊勝な根回しをするものだと吹き出しそうだ。
「それで? 徳増がやったのかと尋ねているんだが?」
「俺が徳増の関与を証言すると? 長らく徳増の所業を黙認してきたあなたなら、俺の答えは分かるでしょ?」
「娘をこんなにされて黙っていられるか!」
「……娘ねぇ。ちなみに長女はその食事会に呼ばないのですか? 仲間はずれは可哀想ですよ」
「っ、それは君に関係ない! 秀人くんがなんとかしてくれる」
どうやら、父親は暁月の後ろ盾があれば徳増をどうにかできると信じているらしい。これには立花から冷たい反論が出た。
「長年家令として娘に尽くした徳増より、いい暮らしをさせてくれる暁月を選ぶんです?まぁその暁月もこれまで通りとはいかなくなるでしょうが」
「どういう意味だ?」
「4人でお食事するのはいつの話ですか?」
「? あぁ、明日だが? それが何か?」
「ということは暁月はこちらに戻っている最中か。やばいな、巻き添えは食いたくないぞ」
立花は知りたい旨を知るなり踵をかえした。
「おい、待ちなさい!」
静止を聞き入れず、立花は屋敷を後にする。
庭先から窓辺を見上げ、優子を案じるみたいな表情を浮かべた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
17
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる