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死なばもろとも
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「やぁ優子ちゃん、お久しぶり。暫く会わないうちに随分と気が強くなっちゃって」
丸井敬吾が立花を引き摺りながら登場。ぐったりとした立花は無理に散歩をさせられる犬のよう。
優子が近付こうとすると敬吾は容赦なく立花の腹を蹴り上げた。
立花のうめき声と優子の悲鳴が重なる。
「あまり義兄さんをいじめないであげて。義兄さんはさ、人生を捧げて優子ちゃんを守っているんだ。2人は運命共同体ってやつでしょ?」
磨かれた革靴に敬吾の笑みが反射し、敬吾こそ暫く見ないうちに顔立ちが変わっていた。無邪気さで悪意を緩和せず、この状況に嬉々としている。
「知ってると思うけど、義兄さんは君を生かしておく為に丸井家に従った。幾ら先代が跡目を継がせたいと頼んでも家に入らなかったくせに。僕の小間使いになるなんて義兄さんにとって屈辱でしかないよね」
「敬吾さん! そういう話はお嬢様の耳に入れるものじゃない」
徳増が話の流れに割って入ろうとするも、敬吾はかぶりを振ると黙った。
「えー、どうして? って僕に命令しないでよね! 気に食わない事すれば優子ちゃんを殺しちゃうから」
「そんな真似をした瞬間、私が敬吾さんを殺めますので問題ありません」
「うわぁ、怖いなぁ」
腹違いの兄弟は命のやり取りを軽く扱う。
徳増と敬吾、彼等の容姿は非常に整っており個展の一部となっても遜色ない。ただし、2人は血の通わない芸術品である。
そして、自分も同じであった。優子は美しく綺麗な檻の中で育てられた事に今は嫌悪を示す。
「敬吾さん、立花さんを開放して下さい」
「だから僕に命令するの?」
「お願いをしています」
「お願い? 優子ちゃんは人に物を頼むのに、そんな姿勢でするのかな?」
敬吾の顎が床をさす。
「君といい、立花といい、暁月に取り込まれちゃって僕は寂しい。暁月に抱かれてそんなに気持ち良かった? 快感を与えるだけなら義兄さんや僕にだって出来るよ?」
「わたしに触らないで! 頭を床に擦りつけて懇願すれば立花さんを開放してくれるんですよね?」
敬吾の触れてきそうな兆候を全力で跳ね返し、まず片膝をつく。徳増は優子が土下座を強いられているのに腕組みしたまま。
「優子ちゃん、暁月が本物の王子様ならこういう時に駆け付けてくるものだよ?」
「秀人様をこんな事に巻き込みたくないので、駆け付けてくれなくてもいいです」
両膝をつき、両手も続く。
もちろん土下座など、これまでしたことがない。曲げようとする腕が固いが、立花の命の重さで折れていく。
床の質感を額で感じると腹に力を込める。
「お願いです、立花さんを離してください!」
これで了承が得られなければ強硬手段をとろう。
「うん、いいよ!」
しかし、あっさり承諾され、敬吾は立花を優子の隣へ蹴り飛ばしてきた。
「立花さん! 立花さん!」
「……馬鹿だなぁ、俺の為に」
立花の瞼は腫れ上がり、見えているのか、いないのか分からない。優子は手布を出すもすぐさま真っ赤に染まってしまう。
身を起こそうとしても相当ひどく暴行されており、絵描きとしての命である右手が機能していない。
「っ、どうしてこんなーー酷すぎる」
優子は立花を抱き締める。全身で支えないと倒れてしまうのだ。
「画家の生命線を断ち切ってしまえば死んだも同然だからですよ。人には命より大事なものがありますから」
徳増は優子から立花を剥がし、しゃがむ。優子と目線を合わせた。
「立花の手が生命線であるよう、私の生命線は優子様。私は貴女に家族愛でもなく夫婦愛でもない想いを寄せております」
丸井敬吾が立花を引き摺りながら登場。ぐったりとした立花は無理に散歩をさせられる犬のよう。
優子が近付こうとすると敬吾は容赦なく立花の腹を蹴り上げた。
立花のうめき声と優子の悲鳴が重なる。
「あまり義兄さんをいじめないであげて。義兄さんはさ、人生を捧げて優子ちゃんを守っているんだ。2人は運命共同体ってやつでしょ?」
磨かれた革靴に敬吾の笑みが反射し、敬吾こそ暫く見ないうちに顔立ちが変わっていた。無邪気さで悪意を緩和せず、この状況に嬉々としている。
「知ってると思うけど、義兄さんは君を生かしておく為に丸井家に従った。幾ら先代が跡目を継がせたいと頼んでも家に入らなかったくせに。僕の小間使いになるなんて義兄さんにとって屈辱でしかないよね」
「敬吾さん! そういう話はお嬢様の耳に入れるものじゃない」
徳増が話の流れに割って入ろうとするも、敬吾はかぶりを振ると黙った。
「えー、どうして? って僕に命令しないでよね! 気に食わない事すれば優子ちゃんを殺しちゃうから」
「そんな真似をした瞬間、私が敬吾さんを殺めますので問題ありません」
「うわぁ、怖いなぁ」
腹違いの兄弟は命のやり取りを軽く扱う。
徳増と敬吾、彼等の容姿は非常に整っており個展の一部となっても遜色ない。ただし、2人は血の通わない芸術品である。
そして、自分も同じであった。優子は美しく綺麗な檻の中で育てられた事に今は嫌悪を示す。
「敬吾さん、立花さんを開放して下さい」
「だから僕に命令するの?」
「お願いをしています」
「お願い? 優子ちゃんは人に物を頼むのに、そんな姿勢でするのかな?」
敬吾の顎が床をさす。
「君といい、立花といい、暁月に取り込まれちゃって僕は寂しい。暁月に抱かれてそんなに気持ち良かった? 快感を与えるだけなら義兄さんや僕にだって出来るよ?」
「わたしに触らないで! 頭を床に擦りつけて懇願すれば立花さんを開放してくれるんですよね?」
敬吾の触れてきそうな兆候を全力で跳ね返し、まず片膝をつく。徳増は優子が土下座を強いられているのに腕組みしたまま。
「優子ちゃん、暁月が本物の王子様ならこういう時に駆け付けてくるものだよ?」
「秀人様をこんな事に巻き込みたくないので、駆け付けてくれなくてもいいです」
両膝をつき、両手も続く。
もちろん土下座など、これまでしたことがない。曲げようとする腕が固いが、立花の命の重さで折れていく。
床の質感を額で感じると腹に力を込める。
「お願いです、立花さんを離してください!」
これで了承が得られなければ強硬手段をとろう。
「うん、いいよ!」
しかし、あっさり承諾され、敬吾は立花を優子の隣へ蹴り飛ばしてきた。
「立花さん! 立花さん!」
「……馬鹿だなぁ、俺の為に」
立花の瞼は腫れ上がり、見えているのか、いないのか分からない。優子は手布を出すもすぐさま真っ赤に染まってしまう。
身を起こそうとしても相当ひどく暴行されており、絵描きとしての命である右手が機能していない。
「っ、どうしてこんなーー酷すぎる」
優子は立花を抱き締める。全身で支えないと倒れてしまうのだ。
「画家の生命線を断ち切ってしまえば死んだも同然だからですよ。人には命より大事なものがありますから」
徳増は優子から立花を剥がし、しゃがむ。優子と目線を合わせた。
「立花の手が生命線であるよう、私の生命線は優子様。私は貴女に家族愛でもなく夫婦愛でもない想いを寄せております」
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