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覚醒☓因果

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 目を開けるとーー見知らぬ天井。

「ここは?」

 掠れた声で呟き、辺りを見回していたらドアが開いた。

「浅見さん? 意識が戻ったのね? あぁ、先生をお呼びしなくては!」

 わたしの加減を確認する女性は看護師の格好をしている。ということはここは病院か。
 未だ意識がぼんやりしており、考えが纏まり難い。
 確か教室で高橋さんと話をしていてーー。

「あぁ、良かった。気が付いたんですね」

 白衣の男性が入ってきた。あぁ、この声には覚えがある。

「柊先生?」

「無理して起きなくていいですよ。浅見さんは3日間、眠ったままだったのですから。親御さんにも連絡しましたので、じきにいらしてくれるでしょう」

 柊先生はわたしの手を取ると脈をみ、額同士で熱を測った。くすぐったさと急接近に身を捩ればクスっと笑われてしまい、医師の顔をして再度近寄られる。

「気分はどうです? 吐き気はしませんか?」

「ボーッとしてます。ここは病院ですよね? なんだかホテルみたい」

 わたしが寝かされている部屋は個室で、ソファーやテーブルなどの大型家具が設置してある。看護師さんが入ってこなければ病院と気付かない豪華な内装だ。

「この部屋はいわゆるVIPルーム、特別な患者さん仕様ですからね。お水を飲みますか?」

 冷蔵庫や簡易のキッチンまで備え付けてあり、柊先生がコップを用意する。

「VIPルーム? どうしてわたしがそんな所に?」

「それは追々と。それより吐き気は?」

 介助されつつ、ゆっくり身体を起こす。水を受け取りひとくち含めば、心地よい冷たさが流れていく。

「吐き気はありません。ただーー」

 記憶に手を当てたところ、病衣へ着替えさせられていた。採血の跡もある。  

「ただ?」

「夢を見ていた気がします」

「夢ですか?」

「あっ、吐き気とは関係ないですよね、すいません」

「いえいえ、宜しければ聞かせて下さい」

 椅子をベッドの脇まで持ってきて、柊先生は穏やかに促す。

「あの、先生はこの病院で働いてるんですか?」

「四鬼病院に籍はありますが、患者は受け持っていません。どちらかというと私は研究者です。
あぁ、私のつまらない身の上話より、浅見さんの夢の話が聞きたいですね」

 内容は全部覚えていないけれど、夢の断片を拾い集める事で落ち着けるかもしれない。

 目を覚ましたらこんな環境に居て、ふわふわしてしまっている。

「時代劇みたいな、今よりずっと昔の景色で男女が桜を見ていました」

 互いの血を飲む約束をした件を覚えていたが、話さないでおく。

「桜ですか。綺麗でしたか?」

「はい、とても。わたし、桜が大好きなんです」

「お名前も桜子さん、でしたね?」

 持参したファイルを開き、柊先生はわたしの受け答えを書き留める。

「みんなに愛される桜みたいな人になれますようにって。あはは、名前負けしてますよね」

 シーツを握り締めたわたしに、柊先生が首を横に振った。

「みんなに愛されるのもいいですが、1人にずっと愛されるのも良いと私は思いますよ。そして浅見さんにはそのお相手がいらっしゃいます」

 その時、またドアが開く。柊先生はさっと立ち上がり、訪問者へ頭を下げた。
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