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鬼姫様に選ばれる者
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柊先生の車で自宅まで送って貰い、あっけなく解散。わたしは走り去る車を見えなくっても見送っていた。
車中では怪我がないか等、柊先生による最小限の質問しかされず、助手席へ乗り込む四鬼さんは沈黙。頬杖つき窓の外を眺める様は怒っていて、心当たりが有り過ぎるため触れられなかったのだ。
ちなみにスーツの男性は別の車に乗せられ、その後の行き先を聞いても先生ははぐらかす。
ワンピース似合っていますよ、なんて誤魔化す笑顔に引っ掛かりるのは【私】の影響か。わたしの中の【私】をひとまず【鬼姫】と呼ぼう。鬼姫は柊先生に良い感情を抱いていなそうだ。
「はぁ、疲れた」
せっかくオシャレをしたのに台無し。四鬼さんが気分を損ねるのも無理はない。
四鬼さんや彼の周囲に秘密がバレている以上、同じ体質の人がいる件を考えなければいけない。考えたところで解決に至る訳ないが、本当に血を飲まないと生活出来ないのが自分だけじゃないなら嬉しくはある。たとえ強盗未遂の犯人が同胞だとしても。
このまま突っ立っていないでシャワーを浴びよう。頭を冷やせばいい案が浮かぶかも、そう考えついた時、涼くんの家のドアが開いた。
わたしは反射的に庭へ隠れる。
「今日は突然お邪魔しちゃってごめんね!」
あ、高橋さんの声だ。
「私もマネージャーとしてサッカーを勉強しておきたくて。涼君なら資料を沢山持ってると思ったの」
「大したものじゃない。図書室にある本ばっかりだぞ。高橋はまだ本調子じゃねぇし、部活に合流するのは早い」
当たり前だが涼くんの声もする。わたしは植木の隙間から2人の様子を覗いてみた。
高橋さんは制服姿で紙袋を下げ、会話から読み解くに中身はサッカー関連の書籍だ。
「分かってる。でも事件の犯人が掴まらないとサッカー部の練習はないでしょ?」
「練習が無いから暇な訳じゃねぇ。キャプテンに高橋のフォローをしてやれって言われたからだ。お前、キャプテンに何か言っただろう? 学校の送り迎えまでしろとか、ありえない」
「ありえなくない。だって浅見さんの送り迎えはしていたよね? ご両親に頼まれて?」
「そうだ。桜子と高橋は違う」
クラスメートの前で桜子呼びをするのは、いつ振りだろう。というか、わたしの前でも滅多に名前を言わないので緊張する。
「あたしと浅見さんはどう違うの?」
「そりゃあ高橋はマネージャー、桜子は幼馴染みだろ」
無論、高橋さんはそんな関係性を尋ねてはいない。形式めいた答えじゃ彼女の気質が治まるはずなく食い下がった。
「涼君は浅見さんが好き?」
直球過ぎる。高橋さんの熱さがわたしまで伝わり、熱くなってきた。
涼君がわたしを好きかどうか、実際どうなんだろう。迷惑しか掛けていないので考えないようにしており、わたしは出来るなら血の事を抜きにして昔みたいな仲に戻りたい。
「桜子が好きだ」
「!」
血を必要とする者と交流すれば、涼くんの血を飲まない方法が分かるかもしれない。そうなればわたしも後ろめたさがなく、涼くんと向き合えるじゃないか。
「ーーって答えれば高橋から開放されるなら、喜んで好きだと言うけど?」
あぁ、一瞬でも期待してした自分が惨めだった。首を横に振ると帽子が植木へ引っ掛かる。回収しようと手を伸ばせば小刻みに震えて、もういいや、後から取ろう。
気配を消すのもバカバカしく、わたしは足音を隠さず家へ入った。
高橋さんはともかく、涼くんは帰宅を察知したであろう。この時間に帰ってくる隣人がわたししかいないと把握しているはずだ。でも、どうだっていい。
そのまま浴室へ直行。熱めのシャワーがメイクを溶かしていく。目を擦れば黒い涙が落ち、先ほどの涼くんの返事を繰り返す。
【高橋から開放されるなら、喜んで好きだと言うけど?】
いっそ嫌いと言われた方がマシだったかもしれない。これでは好きも嫌いも判断するのすら面倒くさがられたみたいだ。あげく、いつものポーカーフェイスで伝えていた。
柊先生の車で自宅まで送って貰い、あっけなく解散。わたしは走り去る車を見えなくっても見送っていた。
車中では怪我がないか等、柊先生による最小限の質問しかされず、助手席へ乗り込む四鬼さんは沈黙。頬杖つき窓の外を眺める様は怒っていて、心当たりが有り過ぎるため触れられなかったのだ。
ちなみにスーツの男性は別の車に乗せられ、その後の行き先を聞いても先生ははぐらかす。
ワンピース似合っていますよ、なんて誤魔化す笑顔に引っ掛かりるのは【私】の影響か。わたしの中の【私】をひとまず【鬼姫】と呼ぼう。鬼姫は柊先生に良い感情を抱いていなそうだ。
「はぁ、疲れた」
せっかくオシャレをしたのに台無し。四鬼さんが気分を損ねるのも無理はない。
四鬼さんや彼の周囲に秘密がバレている以上、同じ体質の人がいる件を考えなければいけない。考えたところで解決に至る訳ないが、本当に血を飲まないと生活出来ないのが自分だけじゃないなら嬉しくはある。たとえ強盗未遂の犯人が同胞だとしても。
このまま突っ立っていないでシャワーを浴びよう。頭を冷やせばいい案が浮かぶかも、そう考えついた時、涼くんの家のドアが開いた。
わたしは反射的に庭へ隠れる。
「今日は突然お邪魔しちゃってごめんね!」
あ、高橋さんの声だ。
「私もマネージャーとしてサッカーを勉強しておきたくて。涼君なら資料を沢山持ってると思ったの」
「大したものじゃない。図書室にある本ばっかりだぞ。高橋はまだ本調子じゃねぇし、部活に合流するのは早い」
当たり前だが涼くんの声もする。わたしは植木の隙間から2人の様子を覗いてみた。
高橋さんは制服姿で紙袋を下げ、会話から読み解くに中身はサッカー関連の書籍だ。
「分かってる。でも事件の犯人が掴まらないとサッカー部の練習はないでしょ?」
「練習が無いから暇な訳じゃねぇ。キャプテンに高橋のフォローをしてやれって言われたからだ。お前、キャプテンに何か言っただろう? 学校の送り迎えまでしろとか、ありえない」
「ありえなくない。だって浅見さんの送り迎えはしていたよね? ご両親に頼まれて?」
「そうだ。桜子と高橋は違う」
クラスメートの前で桜子呼びをするのは、いつ振りだろう。というか、わたしの前でも滅多に名前を言わないので緊張する。
「あたしと浅見さんはどう違うの?」
「そりゃあ高橋はマネージャー、桜子は幼馴染みだろ」
無論、高橋さんはそんな関係性を尋ねてはいない。形式めいた答えじゃ彼女の気質が治まるはずなく食い下がった。
「涼君は浅見さんが好き?」
直球過ぎる。高橋さんの熱さがわたしまで伝わり、熱くなってきた。
涼君がわたしを好きかどうか、実際どうなんだろう。迷惑しか掛けていないので考えないようにしており、わたしは出来るなら血の事を抜きにして昔みたいな仲に戻りたい。
「桜子が好きだ」
「!」
血を必要とする者と交流すれば、涼くんの血を飲まない方法が分かるかもしれない。そうなればわたしも後ろめたさがなく、涼くんと向き合えるじゃないか。
「ーーって答えれば高橋から開放されるなら、喜んで好きだと言うけど?」
あぁ、一瞬でも期待してした自分が惨めだった。首を横に振ると帽子が植木へ引っ掛かる。回収しようと手を伸ばせば小刻みに震えて、もういいや、後から取ろう。
気配を消すのもバカバカしく、わたしは足音を隠さず家へ入った。
高橋さんはともかく、涼くんは帰宅を察知したであろう。この時間に帰ってくる隣人がわたししかいないと把握しているはずだ。でも、どうだっていい。
そのまま浴室へ直行。熱めのシャワーがメイクを溶かしていく。目を擦れば黒い涙が落ち、先ほどの涼くんの返事を繰り返す。
【高橋から開放されるなら、喜んで好きだと言うけど?】
いっそ嫌いと言われた方がマシだったかもしれない。これでは好きも嫌いも判断するのすら面倒くさがられたみたいだ。あげく、いつものポーカーフェイスで伝えていた。
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