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鬼姫様に選ばれる者

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 四鬼さんがわたしの秘密を知っていた、自分も同じと言ってきたこと。強盗未遂の犯人に再び襲われたが男性の姿であったこと。わたしの中に鬼姫がいること。
 涼くんへ相談したい事柄は沢山なのに、言う気が失せ流れていく。




 シャワーを浴び終えて心境までさっぱりしないものの、帽子を取りに戻る。置き去りにしたそれは寂しそうに待っていて、植木から丁寧に外す。ワンピースもお母さんに頼んでクリーニングして貰おう。

 ご馳走されたクレープを落とし、腰が抜け服を汚してしまったが、鬼姫を確認して以降、四鬼さんの様子はおかしくなったように思える。
 話し掛けられる雰囲気ではないとはいえ、お詫びもしないままなのは心苦しい。

(四鬼さんに謝らないと)

 帽子を抱き、決心する。と、そこへ横槍が入った。

「おい」

 涼くんの呼び掛けは上から降ってきた。彼は2階の部屋からこちらを見下ろして、遠距離でも不機嫌さが伺える。

「それ、お前の? 似合わないだろ」

 帽子を顎でさす。

「……」

「無視かよ。今日、勝手に帰ったりしてどういうつもりだ? 俺が怒られるんだが? 放課後は何してた?」

「……」

「おい! 聞こえるだろ? 不貞腐れてるんじゃねぇよ!」

 ぶっきらぼうな物言いは今に始まったんじゃないものの、今の心理状態だと言葉が刺さってきつい。
 言い返して口喧嘩になろうものなら、長期戦を覚悟しなければいけないだろう。

「……」

 だったら何も言わない方がマシ。

「高橋との話を盗み聞きしてたよな?」

 こちらは我慢してやり過ごしたかったのに、盗み聞きなんて言い掛かりはひどい。

「そっちが大声でイチャイチャしてたんでしょ? わたしだって聞きたくて聞いてない!」

「イチャイチャ? お前こそ、その似合わなそうな帽子は四鬼千秋にでも買わせたのかよ? お前さぁーー」

「もう! お前、お前言わないでよ! 四鬼さんは桜子ちゃんって呼んでくれるし、帽子も似合うって言ってくれた!」

 苛立ちが限界を越え、遮る。普段は涼くんに遠慮し、極力歯向かわない。けれど今日は色んな情報が錯綜していつも以上に余裕がなかった。

「積極的で活発な高橋さんが涼くんには合ってるんじゃない? わたしが嫌いなら嫌いって言えばいいのに!」

 わたしの訴えに涼くんは髪をくしゃりと掻き、聞こえる大きさの溜息を吐く。

「嫌いなんて言った事は1回もないだろ。高橋と合うなんて言われても、だから何? としか。四鬼千秋にちやほやされて勘違いしてるんじゃないか?」

「どうしてそんな意地悪ばかり言うのよ! そういう言い方が嫌われてるって気持ちにさせるんだってば!」

「四鬼千秋ならこんな言い方はしない? いちいち比べるなよ。それとも俺じゃなく、あいつに血を貰えばいいと思っている?」

 血が飲めれば誰でもいいんだな、涼くんの目付きは蔑む。

「ち、違ーーっ」

 涼くん以外の血を飲みたいと思っていないのを主張すればするだけ、わたしと涼くんを結び付けるのが【血】となり、どれだけ家族みたいに大事に想っていようと空振りに終わる。

「お前が高橋を押し付けるのって、四鬼千秋と付き合いたいのか?」

「押し付けてなんかない。涼くんと仲良くしたいから協力してって言われたんだよ」

 あんなアプローチされて高橋さんの好意に気付かないはずもないが、一応濁しておく。

「俺は仮に四鬼千秋に協力してとか頼まれても、絶対力は貸さないけどな。とにかくあいつ等に関わるのはやめとけ。いいな? 約束破ったら血はやらねぇ」
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