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責任とってくれよ

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 保健室の前に着き、そっと降ろす前に先生が脇腹を撫でてきた。

「きゃっ! な、なにを」

 偶然ではない手付きにたじろぐと微笑む。

「こ、こういうのはセクハラって言うんですよ! セクハラも一族が揉み消してくれるんですか?」

「セクハラはどうでしょう? 女性という食料には優しくしないと叱られてしまいます」

 のらりくらり、先生はかわす。ぎゃあぎゃあ言っているだけで力が入らないと見破られている。

「飼い鳥は風切羽を切ってしまうのだそうです。そうすれば飛べなくなり、飼育しやすいですからね」

「わたしは鳥じゃありません」

「例えがお気に召しませんでしたか? ならば仔猫にしましょう。あなたの首には鈴が付けられています。何処にも逃げられませんし、逃しません。ですので、どうか鬼の男等を気まぐれに構い、愛らしく鳴いて下さい。浅見さんに出来るのはそれくらいでしょう」

 話しているうち、涙が引っ込んでしまった。一族に飼い殺しにされると言われれば涙も乾く。

「夏目涼君の件を知りたければ中へどうぞ」

「こんな警戒させることばかり言われたら入れませんけど?」

「では美味しいお茶をご用意しますよ」

「も、もっと入りにくいです! また変な効果があるのを飲ませる気ですか?」

「変な効果とは心外ですね。きちんと研究をして裏付けされたものですよ。そうそう、夏目涼君が飲んでいたスポーツドリンクも私が開発しました」

 そういえば涼くんは血を与えた後などにスポーツドリンクを飲んでいた。

【? それ、見慣れないスポーツドリンクだね】
【だろうな、市販はされてない】

 あの時のやりとりを呼び起こす。

 そして、スイッチが入った。

「涼くんに何をしたんですか? 先生」

 自然と低い声が出た。涼くんに妙な真似したら許さない。
 後ずさりする先生を詰める形で入室して、睨む。

「これは凄いプレッシャーですね、肺が圧迫される」

 先生は胸を抑え、椅子へ座る。わたしも睨みから外さないよう正面に着席。赤く染まっているであろう瞳を突き付けた。

「先生、答えて。涼くんに何を?」

「っ……言います、言いますので力を鎮めて。血が沸騰しそうだ」

 ただ睨んでいるだけなのに、この悶えよう。いつも飄々とする先生が脂汗をかいて苦しむ様がわたしの鬼に火を灯す。
 ガッと先生の前髪を鷲掴み、苦悶を隅々まで眺めてみた。

「先生、苦しいの?」

 分かりきった質問をわざとして、先生の喉を動かしたい。血管が浮き出てきた首を凝視する。

「挑発し過ぎましたね。お許し下さい、鬼姫様」

「血が飲みたいな」

 素直な欲求を口にするのと同時に絶望する。
 わたしはどうしたって吸血欲求に逆らえない。血が飲みたい、血が飲みたい、血が飲みたい。

「本当は涼くんの血しか飲みたくないけど、鬼にしたくないから飲めない。はは、でも涼くんが高橋さんを噛んじゃったんだって? わたしのせいで涼くん、鬼になっちゃったんですよね?」

「そ、それは誤解で、す」

「血を飲まないと考えが纏まりそうにないです。もう先生の血でいいや」

 先生の膝の上に片足を乗せ、あーんと口を開く。きっと先生の血は涼くんの血より美味しくないだろう。

 でも涼くんは高橋さんと付き合うし血は貰えない。困ったなぁ。
 いやいや、そうじゃなくて。わたしのせいで鬼になってしまったかもしれないんだ。

 こんな事をしている場合じゃない。
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