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責任とってくれよ

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 頭の中が血への渇望で支配され、冷静な判断を下せなくなっている。
 すると先生は抵抗をやめ、ネクタイを自ら解いて首元を露出させた。 

「先生?」

「優しくして下さいね、浅見さん。知識としては知っていますが、鬼に噛まれるのは初めてなんですよ」

 そんな誘惑に浅ましく喉が鳴らしてしまう。

「どうぞ」

 血が飲める絶好のチャンスを得たのに、何故か止まったはずの涙が込み上げてくる。

「浅見さん?」

「ほん、とは涼くんの血がいい、涼くんの血が飲みたいよ」

 言いながら先生の膝を滑り落ちた。

「浅見さんも夏目君以外の血を受け入れないと生きていけませんよ」

「それでも涼くんの血がいいんです!」

「無茶を言わないで。夏目君を鬼にする気ですか?」

「っ! 嫌です! それだけは堪えられない! 鬼になったらこんな目に遭うのに」

「彼は覚醒しつつありますが、まだ鬼にはなってません。高橋さんの手当しましたが、血を吸った形跡はありませんでした」

 血を飲んでいない? 視野が一瞬拓ける。

「良かった、涼くんは鬼になってない」

 ますます力が抜け、床に寝そべってしまう。血が足らなくて動けないが、目の奥も冷えたのでこのまま眠ってしまいたい。

「安心するのは早い。鬼にならないとは言ってません。吸血の他に活力をつける方法を教えましたよね?」

 先生も椅子から降り、しゃがんだ状態でわたしを見下ろす。鬼姫の力による金縛りが解けたみたい。先生は打って変わり捕食者となり、放ってあったネクタイを拾うと目を覆われた。

 視覚が奪われた事で五感が冴える。先生の冷たい指先が頬へ添えられた。

「いけませんね、こうも罠にかかりやすくては」

「罠? わたしをどうするんですか?」

「やはり体験して頂きます」

 制服のスカーフを引っ張られるも手足が鉛みたいに重くて操れない。汗ばむ髪を後ろへさらわれた。

「夏目君に与えていたドリンクには鬼化を防ぐ作用があります。それが幸いしました」

「涼くんは鬼になってないって、言いましたよね?」

「今のところは、です。彼は高橋さんに噛みつきました」

 つん、首筋を押された。

「性交渉中、興奮が極まった等々でパートナーに噛み付いてしまう方もいるにはいますが、夏目君は初手で噛んだそうですよ。さぞ高橋さんも困惑したでしょうね、お察しします」

「涼くんと高橋さんがーー」

 昨日、涼くんはわたしへ好きだと告げたばかりなのに。高橋さんともうそんな行為をしたなんて。

「庇う訳ではありませんが、弱った時に優しくされれば靡いてしまいがちです。それからこういう事をするのに好意が必ずや必要かと言えばそうでもない」

 ふわっと甘い香りが接近してきて、先生がわたしの首に柔らかな痺れを与えた。

「な、なにを?」

「夏目君が高橋さんに付けたよう、私もつけてみました。キスマークです」

「キスマーク!」

 キスマークという刺激的な単語に目隠しを外そうとしたが、先生に手を握られてしまう。

「夏目君に血は必要ないと告げたのでしたね?」

 親指から小指の順、形と長さを確かめるよう先生はなぞる。わたしもなぞられながら先生の華奢で細い指を確かめる。見えないからこそ生なましい数え方だ。

「言いましたよ。涼くんを鬼にする訳にはいかないですから!」

「それが彼を追い込んだんでしょうね。浅見さんは鈍感で本当にいけない。いいですか? 夏目君はあなたが好きなんですよ?」

「せ、先生、知っていたんですか?」

「夏目君の好意を否定しないんですね?」

「涼くんから聞いたんですか? わたしは昨日初めて知りました」

「……はぁ、可哀想に」

 可哀想、それがわたしへ向けた同情ではないのは感じられた。

「浅見さん、ベッドへ」

「ベ、ベ、ベッド!?」

 カーテンを引く音がする。

「あまりにも夏目君が不憫で萎えてしまいました。貧血症状を和らげる薬を用意しますので、飲んだら軽く眠って下さい」

 わたしは現状床に転がっておりベッドに上がる余力はない。しかし自分で移動しなきゃ、先生に何をされるか分からない。

 キスマークのあたりがジンジン痺れ続け、そこから力を奪われているみたい。これが吸血以外に活力を得るという事かもしれない。

 ーーと、気付けた時は後の祭り。
 わたしの意識がぷつりと途絶えたのだった。
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