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側にいられない

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 わたしは涼くんが大事。涼くんが弱くなったって言うなら、わたしが守りたい。そして、なにより絶対に鬼にしたくない。

「わたしね、四鬼さんと正式にお付き合いするんだ。涼くんは人の彼女にキスしたい?」

「ーーは? 付き合う? お前こそ、四鬼千秋に脅されてない? おじさんの会社での立場が悪くなるとか?」

「わたしは脅されてない。段々と四鬼さんを好きになりたいと思ってるし、四鬼さんにも好きになって欲しい」

 これは本心。どうせ嘘をついても見破られてしまうだろう。

「俺の告白の答えがこれって事?」

「返事は要らないと言われたけど、はっきりしといた方がいいよね。わたしは涼くんの側には居られない」

 わたしが側にいたら涼くんの血を求めてしまう。涼くんが鬼となればサッカー選手の夢を諦めなきゃならないんだ。

 まだ間に合う。涼くんには人として生活する道がある。

「これ、探してた薬。教壇の下に落ちてた」

 固まる涼くんの手を取り、包みを乗せた。わたしは泣かない、視線をそらさないで振る舞う。

「高橋さんとは別れて。正直、わたしの為に付き合うとか困るんだ」

「今朝、俺が高橋と付き合ったと知って泣いたんじゃないのかよ?」

「自意識過剰だよ、涼くん」

「嘘だ! お前はそんな奴じゃないだろ?」

「噓じゃない、そういう奴なんだってば」

 お願い、こんな物言いに呆れ果て、早く教室を出ていってよ。

「何か隠してるはずだ。話せよ、悩んでるんだろ? 1人で抱えないで俺を頼れ。力になる。助けてやるからさ」

「いい、涼くんには言わない、言いたくないの」

 突き放す言葉で涼くんを遠ざける。

「桜子……」

「これ見て」

 それから仕上げとばかりに首筋を晒す。柊先生がつけたキスマークだけど、勘違いするはずだ。
 首に涼くんの視線が絡まり、締め上げられているみたい。苦しい。

「わたし、もう子供じゃない。涼くんに守って貰わなくて大丈夫」

 不本意な言葉を告げる喉が痛みを訴えてきた。しかし、ここまできて後には引けないので、出来うる最大限の笑みを添えておく。

 パキンッーー涼くんが薬を砕いたのと同時、甘い香りは立ち消えた。

「そっか」

 たったひと言の返し「そっか」には沢山の意味が含まれていて、勝手にすればいいじゃないか、四鬼さんと仲良くしたらいい、そんな人間とは思わなかったーーそして桜子悪かったな、って思ってる。
 こんな時に限って、ぶっきらぼうな態度を取らなかった。

 教室を出ていく涼くんがスローモーションに映る。この大きく頼もしい背中へ縋り助けてって言えば、面倒そうな顔しながらも手を差し伸べてくれる映像が浮かぶ。

 何が沖縄? 水着? はしゃいでいた自分に嫌悪する。

 こうして涼くんを散々傷付けておいて楽しむ資格などなく、まして涙を流す権利はない。
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