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側にいられない

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 あれからどうやって部屋に帰ってきたか覚えてないが、わたしは宿泊訓練前日まで体調不良で寝込む事となる。

 頭痛、吐き気、倦怠感といったあらゆる不快な症状に襲われ、ベッドからまともに出られない。柊先生の処方した薬も効かなかった。

「桜子ちゃん、大丈夫?」

 お母さんに仕事を何日も休ませる訳に行かず、今日は1人だと四鬼さんに言うと柊先生を連れて看病にきてくれる。

「寝たままですいません」

 酸素が全身に巡らないのか手足の先は冷たく痺れた。着込んでも寒気がおさまらなかった。
 2人の顔も滲む。度々体調を崩してきたものの、これ程苦しいのは初めてかもしれない。

「具合が悪いだし気にしないで。それより柊、なんで薬が効かない?」

「可能性のひとつとして、禁断症状でしょうか」

「禁断症状?」

「浅見さんは薬や性的接触ではなく、夏目君の血を直接飲んできました。いきなり血を絶ち、身体がついていかないのかもしれません。本来ならば徐々に血の摂取量を減らしていくべきだったのですが……」

「つまり夏目君の血が必要? 僕の血じゃ駄目なのか?」

「今の浅見さんはいわゆる飢餓状態。残念ですが食らい尽くされる危険がある以上、千秋様の血は使えません。ちなみに採血された血では症状の緩和せず、直に吸血しないといけないかもしれませんね」

「涼くんの、血は、飲みません」

 わたしは必死に会話にまじり、固い意思を伝えた。この苦しみがどんだけ長引こうと涼くんの血は絶対に飲まない。

「気持ちは分かるけど意地を張ってる場合じゃないよ。君は大分弱ってる。このままだとーー」

「嫌です。絶対に嫌ですから」

「明日から夏目君は宿泊訓練に参加するはず。今日を逃せば最低でも2日間は治療が出来ませんが?」

「だとしても嫌です」

 吸血を治療と言葉を置き換え、わたしが生きるため、必要な処置とフォローする。しかし気持ちは変わらなかった。
 案じてくれる2人に背を向け、布団をかぶる。

「血を飲まないなら、せめて食事は取らないと。何か召し上がりますか?」

「柊! それじゃあ解決になってない。桜子ちゃんが辛いままじゃないか!」

「嫌がっているのに無理やりするのは逆効果です。一旦食事をして様子を見ましょう」

 代案を出されたが食欲は全く無い。お母さんも色々用意してくれたけれど、ひと口も出来なかった。
 頭が痛い、吐きそうだ。寒気がする。

「ーーっ」

 ついに苦しくて涙が出てきた。ここ数日、涼くんから連絡はない。当然なんだけれど心細いというか、寂しいというか。

「泣かないで。柊が言う通り、何か食べてみようよ? 食べられそうなものあるかな?」

 布団越しに背中を擦られる。鼻がつまり啜ってしまい、泣いているのが隠せない。

「四鬼さんが作ってくれる?」

「え、あ、あぁ、僕はこう見えて料理が得意かもしれない」

「かもしれないって何ですか。千秋様、料理などした試しがないでしょう? 私がお作りしますよ。お粥で宜しいですか?」

 お粥、か。だったらーー。

「たまごが入ってるのがいいな、昔よく涼くんが作ってくれて……」

 美味しかったなぁと、ボーッとする頭に浮かべた。優しい味がしたのを覚えている。もう食べることがないとしても、あの味は忘れたくないーー忘れたくないな。

「ごめんな、さい。疲れてしまって、寝てもいいですか?」

 倦怠感に押し潰されて目をつむり、夢の世界へ誘われ落ちていく。
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