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側にいられない

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「悪あがきしてるのね」

 夢の中、身体の不調がなくなり、わたしは鏡を覗く錯覚に陥る。真っ白の空間で鬼姫と向き合っていた。

「痩せ我慢などしないで夏目涼の血を飲めばいいのに」

 鬼姫は笑う。

「嫌。涼くんを鬼にしたくないの。鬼になれなくて死んでしまう事もあるんでしょ? どちらにしろ堪えられないよ」

 わたしが怒る。

「鬼になっても死んだとしても仕方ないの。鬼の一族は血が無いと生きていけない。必要な犠牲よ」

 鬼姫はわたしと同じパジャマを着て、声や仕草も似ている。彼女はわたしの一部なんだ。でも別々の考えを持っていており、ひとつになれてはいない。

「私はいっそ夏目涼が犠牲になればいいと思うわ。だって夏目涼のせいであなたは運命に抗おうとする。いい? 四鬼の花婿を愛せばいい、それで幸せになれる」

「涼くんを犠牲にしろなんて、どうしてそんな酷い言い方をするのよ!」

「あら、酷いのはどちら? あなたは四鬼の花婿をないがしろにしているじゃない。四鬼様を1度は受け入れたのでしょう?」

「それは……」

 先に言葉に詰まったのはわたしだ。

 四鬼さんと付き合う以上、涼くんの事で心を揺らすのは良くないと分かっている。彼の思い遣りに感謝し、応えたいとも思っている。

「あなたを襲った鬼がいるでしょ? あんな風に姿かたちを変え、血を漁りたくないのなら夏目涼の血を飲みなさい」

「それだけは出来ないよ」

「ねぇ、私を見て? あなたと同化しつつあるでしょう? あなたは着実に鬼姫になっている」

「それって、わたしを乗っ取る気?」

「乗っ取る? いいえ、私が吸収されるの」

「吸収……」

「私の知識や記憶があなたに溶け出しているはずよ。感じない?」

 わたしを抱き締めようとしてきて反射的に避けてしまった。空振りとなった鬼姫の腕は急に透け、光の粒になる。

「鬼姫? どうしたの?」

 腕だけじゃなく、鬼姫の全身が光で包まれていく。

「歴代の鬼姫は四鬼の花嫁となり幸せになれた。桜子、運命を違わないで。約束された結婚だけがあなたを幸せにするわ」

「教えて鬼姫! 涼くんを鬼にしたくないの、どうしたらいい? それが分かれば四鬼さんとちゃんと向き合える。こんな気持ちのままじゃ幸せになんてなれない、なりたくないよ!」

 狡い聞き方ね、光の中で鬼姫が微笑む。
 何故だろう、彼女の笑みに何処か違和感を覚える。

「あなたが夏目涼の血を欲しなくなる、それが鬼にしなくて済む唯一の方法ね」

「だからそれはどうすれば? 涼くんの血が欲しくなくなるの?」

 胸の内を晒け出せば、涼くんの血が恋しくて醜いまでに焦がれている。何をしたらこの飢えを手放せるのか、必死に詰めよった。
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