余暇人のVRMMO誌〜就活前にハマっていたマイナーゲームにログインしなくなって五年、久しぶりにインしたら伝説になってた〜

双葉 鳴

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序章『New Arkadia Frontierへようこそ』

14話

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「エリアボス!?」
「お供が少ないところを見るに生まれたてかな?」

 僕は初めてだけど、フィールドごと景色が変わるのはエリアボスに挑む準備が整った場合だとうぐぐいすさんは語る。

「こ、このメンツで大丈夫なんでしょうか?」
「足場が悪いな、こんな場所じゃ踏ん張れねぇぜ」

 エリアボスと聞いて狼狽えるミーシャ。
 カリ音さんに至ってはバトルアックスを振り回すのにキノコでできたぶよぶよした足場ではバランスが取れないと嘆いていた。
 そう、僕達はエリアボスの真上にいるのだ。
 フィールド全体がボスなので、どの場所から攻撃してくるかわからない恐怖があるのだ。
 まぁ、キノコが相手なら全く怖くないが。
 それよりも、試したことのない毒が採取できるかもしれないと僕はウキウキしている。
 取り敢えず足元のキノコをちぎってその場で抽出、ポト蜜と合わせて一口舐める。

「うーん」
「ちょ、センパイ! 何してるんですか? ボス戦ですよ?」
「だからこその耐性チェックだよ。残念ながらこのボスには僕の耐性を貫通してくる猛毒は無いようだ、残念」

 ピコン、ピコンとポップアップする耐性欄は、新しい反応を示すことなく沈黙する。

「なら倒してしまって良いですね?」
「あ、火炎系は使わないで。一部持って帰って研究材料にするから」
「わかりました!」
「うぐぐいすさん、カッコいいです!」
「ねー」

 エリアボス『ヒュージファンガス』に一人赴く後輩殿に対して後衛から応援を送る。
 実際のところ僕達が切り込まないのは訳があるのだ。
 
「と、始まったかな?」

 ボスへ一定数ダメージを与えることによって変わる攻撃方法。
 こいつをメモするのが僕の仕事だ。
 フィールド全体のキノコが伸び縮みして、まるでもぐらたたきのモグラの気分を味わえる。
 空高く弾き飛ばされれば、もちろん落下ダメージを受けるのがNAF。

 うぐぐいすさんは慣れているのか背負ったリュックから射出型のワイヤーフックを投げつけ、大きく突き出たキノコに突き刺してロープアクションを繰り広げる。
 体重をかけた圧力攻撃。これもNAFならではの攻撃手段だ。

 攻撃と言ってもスキルによって効果は異なる。
 普通ナイフで斬りかかるなら効果の程は『斬』『突』などの基本技能。しかしうぐぐいすさんのワイヤーフックなら『刺』と体重をかけての『圧』がかけられる。
 キノコは斬っても再生するので違う攻撃手段を持ってるうぐぐいすさんに頼んだのだ。
 僕に毒が効かなかったことからわかるように、僕の毒もボスに対して効果が薄い。
 ここで複合毒を作るのが手っ取り早いが、流石にそこまで余裕をくれないのがボス戦である。
 
「ただいま戻りましたー」
「お帰りなさいです!」
「お疲れさん、ドリンクでもどうだい?」
「毒じゃなければ頂きたいところです。今回ちょっと耐性付与装備に回せる装備欄が不足していて」
「あー、ワイヤーフックは背中~右腕装備なんだっけ?」
「ですです。便利なんですけど地味に装備枠取るので」
「あー、俺はもう慣れっこなんだが、植物毒*Ⅰも無理か?」
「出来れば今ダメージは受けたくないですね。毒によってはスタミナ消費が激しいのもあるし」
「……まぁな」

 じゃあ勧めんなよ、という顔でうぐぐいすさんがカリ音さんをジト目で見る。

「そんなクランマスターに朗報。実はシロップ型の毒消し薬を発明していてね。まだ世に発表してないけど毒*Ⅰならあらゆる由来の物も中和できると思うよ?」
「是非お願いします!」
「味は少し辛いかもしれないけど」
「えっ……」

 カリ音さん特製栄養ドリンクに、例の解毒シロップ【エビチリ味】を付与する。
 それをマジマジ見ながらちびちび飲み進めるうぐぐいすさん。

「なんかコレ、確かに辛いんですけど変にドロッとします。何ですこれ?」
「エビチリの風味とコクをトッピングしたシロップだよ。毒はあるけど美味しいお肉に使う前提で開発した」
「え、何で今それをドリンクに入れたんです?」
「良かれと思って」
「そうですか……」

 微妙に沈んだ空気の中、何とか飲み終えたうぐぐいすさんが再びボスへと突貫する。
 どうやらスタミナが大きく回復したようだ。
 戦闘系のスキルはHP消費型、MP消費型、スタミナ消費型、エネルギー消費型と大きく分かれる。
 とても良く動き回る彼女はまさにスタミナ消費型のスキル構成で、途中で移動しなくてもいいようにワイヤーアクションタイプなのだそうだ。

「そのシロップ、俺にも分けちゃくれないか? いまだにエビは見つからないが、純粋にチリソースの方に興味がある」
「どうぞ」

 さすが大衆食堂のオーナー。
 日本料理を生業としつつも別ジャンルへの探究心が凄まじい。
 今では中華の鉄人とか言われているくらい中華料理のレパートリーを増やしていると聞く。

「ただいま帰りました~!」

 カリ音さんとのチリソース試食中にうぐぐいすさんが戻ってくる。
 どうやらボスの部位破壊に成功したそうだ。
 圧力が弱点と見定めた彼女は重点的に突き刺して体重をかけた圧力攻撃による部位破壊だ。
 細胞を重点的に痛めつけたので再生はしないだろう。

「これ、これかけて食べたら美味しそうです! ドリンクは罰ゲームですね、あれ」
「うん、でもボスの毒、毒*Ⅱも混ざってるよ?」
「種類を指定してくれたら幾つでも装備するつもりでいますよ!」

 何と、彼女は意外と食いしん坊だったらしい。
 ニヤリ、と口角を上げて凄みを見せる彼女からは執念じみた何かを感じた。

「いや、あれは白飯に乗っけて食いたい味わいだ。辛味とコクがまた絶品でな。あー、俺もエビチリ食いたくなってきた」
「そんなに美味しいんです、それ?」
「取り敢えず食べる前にあれ倒しちゃおうか? 別パターンの攻撃方法も検証したいし、ボスそっちのけでご飯の話するのも相手に失礼だろう」
「絶対ですよ、絶対ですからね!」
「おーし、そうと決まったら早速始末するぞぉ!」

 二人してやる気がみなぎる。
 僕はメモ取りに集中し、ミーシャは解毒シロップに集中していいか、ボス戦に集中していいかどっちつかずの顔になった。
 どっちでも直感の向く方向でいいんじゃないかな?

 ◇

「何の特徴もないボスでしたね?」

 討伐後、うぐぐいすさんがヒュージファンガスの特徴を端的に述べた。

「まぁ僕達は全員毒が耐性持ってたしね。お供も居なかったし、入室タイミングが早すぎたのもあるよ。もし育ってたらもっと厄介になってたと思う。でも、今回キノコがボスだったと言うことは、次のボスは何だろう?」
「生態系の変化、ですよね? 虫系は森の浅瀬に寄ってますし、ウルフとか?」
「ウルフは前回のボスだろ? ウチにボスの肉捌いてくれって持ち込みあったぜ? デカくなろうとウルフはウルフだったけどな!」
「まぁ、あとはプレイヤーたちが勝手に解決するだろう。ドロップ品は……要らないようなら全部僕がもらっていいかい?」
「私は構わないです」
「俺も今回気になる毒はないな」
「私も、今回欲しいのはウルフのモツくらいしかなかったですし、キノコも新しい発見は無かったですしね」

 そりゃ序盤の序盤だからね。手に入る毒はあらかた市場に出回ってるさ。

「それはさておき、実食ですよね?」

 うぐぐいすさんがじゅるりと涎を拭う。

「君も大概食いしん坊だねぇ?」
「だって好みの味だったんですもん! 逆に何で先輩がこの味知ってるんですか!?」
「この味と言われても……僕が学生時代にアルバイトしてたお店の味だぞ? 高齢で腕が上がらないとお店を畳んでしまったが、僕はそのお店のエビチリが特に大好きで……」
「それ! それ! 私の行きつけのお店だったんです。お店が閉店になってすごく悲しかったんですよ!」
「もしかしてそれ、大河飯店か?」

 あれ? 割とご近所さんが多いのか?
 ミーシャもバス一本乗り継いだ駅前の商店街の花屋さんの孫だし。
 うぐぐいすさんは僕の徒歩圏内でいける会社の後輩らしいし。

「それです! え、カリ音さんも知ってるんですか?」
「名前だけはな。俺の師匠が太鼓判推してた店でさ、一度行ってみたかったんだけど行けずじまいでさ。そっか、これがその店の味なのか」
「なんだかすごいお店で働いていたんですね?」
「全くの偶然だぞ? 賄いがつくからアルバイトしてたようなもんだし。実家から出て一人暮らしの貧乏学生だったからな、まぁお金がなくていろんなバイトしてたね」
「へぇ、多趣味なのはそういう理由かい?」

 カリ音さんの両目が僕を射抜く。
 なんのことやら。

 ◇

 それぞれの討伐証明を持って、ボスの切り替わりをギルドに報告した。
 そのあと満を辞して昼休憩中のカリ音さんのお店で食事を取る。
 ありあわせの食材に例の解毒シロップをかけての試食会を行った。
 ご飯もあるし、プリッとした味わいの鶏肉もある。
 惜しむらくはエビそのものがないくらいか。
 お米はあるので春巻きで包んでカリッと揚げた物も頂いたが、それも美味しかった。
 久々に大勢で卓を囲んで食事した。

 VRになって新しく追加された味覚。
 そこに鼻腔を突き抜ける嗅覚、視覚による効果。
 噛むたびにバリバリと春巻きの薄皮を食い破る音。
 喉越し、この全てを味わってこそ味は完成するのだと僕はこの日思い知った。

 今までの食事はまだどこか空で、味だけ再現してその気になっていた。でも違うんだな。
 大勢で卓を囲って、こうやってワイワイしながら食べる食事がまた楽しいのだ。
 勤務中、味わうことのできなかった感動を、今僕はゲーム内で噛み締めている。

 かつてあった場所の味を再現した事がきっかけで、こういう出会いもあるのだ。
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