余暇人のVRMMO誌〜就活前にハマっていたマイナーゲームにログインしなくなって五年、久しぶりにインしたら伝説になってた〜

双葉 鳴

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序章『New Arkadia Frontierへようこそ』

13話

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 スライムの問題が解決したら、次はキノコ系だ。
 他にも植物も居るが、あいつらは単独で強いうえ一対多にむき過ぎている。多勢に無勢になる事が多いので後回しだ。

 それ以前に厄介なのがキノコの胞子だ。
 植物の蜜や種由来の物より即効性が高く、森の空気に混ざってることもあり一番警戒しなければいけないのがキノコだった。

 今回キノコの検体を持ち帰るためにご一緒してくれるメンバーは探索の第一人者であるうぐぐいすさん。
 他には猛毒茶屋で名前が売れてきているミーシャ。
 次いで大衆食堂のマスターであるカリ音さんだ。
 料理に精通してるのもあり、目利きの腕前を披露してくれることとなった。

 場所は街に隣接してる森フィールド、エリア2。
 エリア1を選ばないのは、向こうは虫系が中心でキノコ採取に向かないのもある。
 それと僕の戦闘スタイルは乱戦に持ち込まれると危険だというのもある。
 スキルに戦闘用のものがないからね。
 だからといって全く戦闘できないわけでもないが、それはおいおい検証していくとする。

「しっかしムーン氏、こんな場所に本当にあるのかい?」
「ええ。こんな場所だからこそあるのですよ」

 開けた空間、獣の少ない水場。
 エリア1に比べてモンスターからの襲撃が少なく、運営側が用意した休憩場に一見みえるが、あの運営がそんなプレイヤーに都合のいい場所を用意するわけがない。
 PC時代なら素通りしてしまいそうなマップの作りだが、VRにしたことで実感する。
 ここは誘い出すための餌場だ、と。

「ここからは全員防塵マスクをしてください。紙に反応がありました」

 それをみてパーティメンバー全員が顔を見合わせる。
 一見して長閑な風景、少し休憩できそうな場所。
 こんな場所に敵からの攻撃が来ているなど思いもよらないという顔だ。

「センパイ、敵性反応と言っても姿が見えませんけど?」
「キノコの胞子が風上から流れ込み、ここで蔓延していると言えばわかるかな? モンスター大好きな運営が、用意した餌場だよここは」
「そんな、そんなことしてくるんですか、ここの運営は?」
「ミーシャちゃん、多分センパイの言う運営は開発者のことであってGMさんではないよ?」
「えっと?」
「ゲームの開発者の意図にまで気づける運営会社はそうそう居ないんだわ、これが」
「そうなんです?」
「そんなところ。風上は、こちらのようだ。可能ならゴーグルもつけて粘膜に付着するのも防いどこう」
「念入りですね?」
「ここの運営、もとい開発ならVRを悪用してくる事なんて手に取るようにわかるよ」

 そこまでするのか、と言われたが。PC時代でさえ風の描写があった。
 一見してランダムのように見えたが、微妙に流れが違う。
 その法則性を見抜いた時、開発側の意図が透けて見えた。
 ああ、ここの開発は自分の作り上げたモンスターが活躍できる場をプレイヤーで実験するつもりなのだ、と。

「案の定、キノコが増えてきたな。うぐぐいすさん、これらの採取は?」

 首を横に振られる。多分モンスターとして襲って来ない限りは見逃していたとかだろう。
 ゲームだからクエストで採取イベントでもない限り見向きもされないのだろう。
 こう言うちょっとした収穫物にこそ意味がある。

「何本か持っていこう」
「このキノコに意味が?」
「僕の趣味は奥が深くてね。見た事がない種類なら味見も兼ねて持ち帰るんだ。もちろん厳重に隔離した状態でね?」
「見た目、食べられそうとは思いませんが」

 ミーシャが正気か? と言う顔で僕をみた。
 なんのための検証だと思っているのだろうか?
 死んでも生き返れるプレイヤーならではのゾンビアタックだろうに。
 僕のプレイヤーレベルは1。イベントらしいイベントもこなしてない。
 そもそも、僕の研究は情報を抜き出しさえすれば、あとはクランで共有される。
 キャラロストありきのプレイスタイルだ。
 キャラは複数作れるし、倉庫はID毎に設定可能。
 預けておけば死んだキャラの遺品も回収できる。
 手記用のノートやペンはクランで支給される。
 どんな冒険においてもメモ取りは重要だとクランメンバーが口を揃えて言っているからだ。
 製紙工場まで抑えてるのは流石だと思った。

「と、どうやらお客さんのようだ。総員、戦闘態勢」

 キノコをいくつか採取してると、それを好機と見たアクティブモンスターが仕掛けてくる。
 このゲームはターン毎の戦闘はなく、敏捷による行動順の速さによる先制攻撃もない。
 スキル発動率の速さと威力がものを言うMMORPGの世界である。

「ウルフ! 数は五匹、二匹はこちらで請け負います!」

 言って、うぐぐいすさんが飛びかかる。
 先制攻撃ではない。ヘイト誘導からの僕へのヘイト剥がしがメインだ。僕が知る限り、彼女も攻撃メインのスキル割り振りではない。

「なら一匹は俺が貰う。嬢ちゃんはどうする?」
「私、魔法を使えますので!」

 言って、ミーシャがガチャリと銃を構えた。
 うん、スキルね。
 このゲームに詠唱を必要とする魔法と呼ばれるものは存在しない。
 あるのは魔石を媒介にしたマジックスクロールと、それをより連射可能にしたマジックバレットの二種類。
 ミーシャは後者のマジックバレットを扱うガンソーサラーなのだろう。扱いは難しいが、当たれば割と大ダメージを与えられるので後衛で持つものは多いと聞く。
 これも魔導技術体系を網羅した産業革命さんあってのものだろうね。
 PC時代はスクロールが主体だったし。
 しかし動き回る的にヒットさせるのは難しい。
 ウルフは超直感による危機感知でそれを回避する。
 しかし回避した先で弾け飛んだ木の幹がその威力の程を表している。威嚇にはもってこいの威力だ。

「はい、お疲れさん」

 僕は取り出した注射針でウルフの回避先に先回りし、そいつを防御力の薄そうな首に刺して注入した。
 中には僕が耐えられるほどの重混合毒。
 どれほど近隣のキノコ毒に耐性を持っていても、それ以外の毒素を分解する事はできまい。
 突如起こる眩暈、急な息切れ、手足の痺れ、眠気、体を蝕む毒がウルフを襲う。

「そこです!」

 先ほどまで元気いっぱいだったウルフが突然瀕死になってその場に蹲っているので、ここがチャンスとミーシャの二発目のマジックバレットがウルフの脇腹を抉った。

「キャインキャイン!」
「おっと、貴重な検体は丁寧に扱わないとね」

 ぶすり、と注射器から今度はその毒がたっぷり通った血を抜いた。
 これは重要な研究材料だ。ウルフ種の血液はウルフ種によく混ざる。
 今後ウルフ種と接敵したらこれが特効薬となるので大切に扱わなければならないからね。

「今のでトドメ、ですかね?」
「あと一匹、センパイ!」
「大丈夫。そろそろ効く頃だ」

 注射を打つ前にもう一匹にはすれ違いざま麻酔針を打ち込んでおいた。僕もただボケっと突っ立っているわけじゃないんだよ。

 僕のモンスター学はVRでより鮮明に急所の位置を把握することに成功した。頚動脈の場所は人間とは少し違う位置にある。
 しかし何度もみて触ったおかげで、今や見ただけで大体の位置を把握している。
 ウルフと接敵するのはこれが初めてではないのだ。
 
 見るからに動きを止めた場所へカリ音さんの痛恨の一撃が落ちる。
 麻酔の効いたウルフは胴体と首が泣き別れする羽目になっていた。

「流石です、センパイ。戦闘面でも物怖じせずとは!」
「まぁ序盤だし、流石にね?」
「ムーンライトさん、戦闘もお手の物なんです?」
「僕はモンスターの生態系を調べるのも趣味でね?」
「見た目ヒョロイのに全然戦える風には見えねぇもんなぁ?」
「まぁまぁそれはいいじゃない。ドロップ品はどうしよう?」

 ゲームなのでモンスターを倒せば肉体は消え、肉体ダメージに応じたドロップ品が出る。
 食肉に向かなくても、肉体破損率が低くても肉が出るのがこのゲームのいやらしいところだ。
 肉から毒物や病原菌が発見されることもあるのだ。
 耐性のないものが食えば一発でアウトだろう。トイレの世話になるか、死に戻りして教会の世話になるかは持ってる耐性によって変わる。
 このゲームは耐性ゲーなところもあるからね。
 その上獲得できるスキル数は有限だ。なので僕は攻撃に回すスキルを持つ余裕がないときてる。

「私は特に必要としません」
「俺もウルフ肉は食い飽きた!」

 食ってるんかい。いや、毒はないし大味だけど、旨くはないだろ、その肉。

「お肉は必要ありませんが、肝の方に少々興味がありますね」

 ミーシャがソワソワしながらドロップしたモツに興味を示す。
 肉は枝肉の状態ではなく部位単位で出る。
 腹肉や胸肉、前足、後ろ足。モツなんかも普通に出てくる。
 どう考えてもモツは罠だろうに。

「一応聞くけどどんな用途に?」
「実は最近錬金術にハマってまして。素材にモツが必要なのです!」

 錬金術……まぁ僕も嗜む程度だがモツが必要なレシピなんかあるっけか?
 僕が頭を捻っていると、うぐぐいすさんが助け舟を出してくれた。

「ああ、確かモツの吸収作用を用いた毒物の抽出だったっけ?」
「ですです! 毒でも美味しいのですが、よりグレードを上げる事でその風味はより豊かになるんですよ!」

 結局毒物の話だった。
 彼女の毒贔屓はだんだんエスカレートしていくな。
 最終的に僕以上の毒ジャンキーになるんじゃないか?
 ミントさんのところに通って、シロップも調合できるようになったと言っていた。
 多分僕に次いで毒耐性持ってるんじゃないの、この子?

「じゃあ肉は僕がもらっていい?」
「言っておくが食ってもうまくねぇぞ?」
「もちろんさ。でも実験するのなら肉は都合がいいんだよ」
「実験だぁ?」

 カリ音氏の疑わしげな視線を跳ね除け、僕達はキノコが生い茂る奥地へと向かっていく。
 すると地理に詳しく、序盤のマップは全部埋めたと豪語するうぐぐいすさんが不安そうに声を漏らした。

「……こんな場所、知らないわ」
「全部見て回ったんじゃなかったの?」
「マップらしいマップは周りました。でも、こんなキノコだらけの場所は知りません!」
「ならばこのキノコがトリガーだったか?」
「条件付きフィールド!?」

 声をあげるうぐぐいすさんが驚愕するよりも先に、周囲の木々がざわめいた。
 霧が濃くなっていく。いや、これは霧というよりは……

「これは、誘い出されたかな? 囲まれてる」

 周囲からは蛙の合唱のような、ゲッゲッ、ともギッギッなど木々が軋むような音が鳴らされていた。
 そして敵性感知紙が点滅状態から真っ赤に切り替わる。

 ──それは僕達の足元からせり上がるように現れた。
 見上げるような巨体。いや、菌糸類の集合体が知性を宿した瞳で僕達を見下ろしていた。
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