余暇人のVRMMO誌〜就活前にハマっていたマイナーゲームにログインしなくなって五年、久しぶりにインしたら伝説になってた〜

双葉 鳴

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一章『NAF運営編』

22話

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「え、そんな理由で頑張ってたんですか?」

 それはイベントが終了した翌日、もといディナーの時間。
 結局毒耐性を*Ⅲまでしかコンプリートできなかった僕は、何をそんなに頑張っていたのかと話題を振られて自白した。
 そして開口一番にいただいた言葉がこれだ。

「そんな理由と君は言うが、僕なりに考えての行動だよ?」
「いやぁ、それくらいのリスクヘッジを我が社がしていないとでも?」

 全くもってその通り。
 完全に僕の思い込みである。

「うん、まぁあれこれこじつけて考えていた部分はあるよ。でも根っこはさ、きっとポッと出で現れたR鳩さんに負けたくないって気持ちが強かったんだろうな」
「あの人も特殊ですからね」

 特殊で済ませていいものなのか?
 本日のおかずはクックシェフで仕込んだ豚の角煮。
 それを箸で切り分けながら、和カラシを添えて頬張る。
 うん、美味しい。
 彼女は実際に自分で作れないことを気にしていたけど、オールインワンでこれが出来上がるなら誰でも頼るでしょ?
 僕だってこんなのがあれば絶対これ任せになるし。

 二人でおかずに舌鼓を打ちながら、こちらで用意した酸辣湯をお供にご飯と一緒にいただいた。
 締めにアルバートさんのところで入手したスイーツを頂き、僕の心のモヤモヤの続きを話した。

「私からすればですね、明斗さんが来ていただいただけでもう勝ち確だったんですよ」
「勝ち確とは大仰だね」
「これはあまりプレイヤーに告知していないのですが──」
「うん」

 千枝さんは言葉を溜めた後、社外秘の情報を僕に伝えた。
 本当は部署に配属した時点である程度の情報は渡す予定だった。
 しかし途中で渡さずともこれだけの支援をしてくれるのならばと、こちらを過信してしまった。
 よもや僕が運営に口出しする様にまで考えるとは思わなかった様だ。
 そうの上でこう答える。

「実はNAFでは企業側からの協力者が一般参加者の過半数を占めています」
「そうなの?」
「はい。これはまだ試験段階なのですが、第二陣参加時に実装した投資システムも、企業が絡んでいます」
「ああ、もしかして僕みたいな一般プレイヤーの掘り出しを積極的にしてる感じなんだ? 支援をしながらゆくゆくはヘッドハンティングすると」
「わかりますか? ちなみに明斗さんは私含むうちのクランメンバー全員が欲してました」
「へ?」

 いや、意味がわからない。
 たしかに僕は好かれてた、とは思ってる。
 でも社員として欲しいかどうかは別じゃない?
 相談役ぐらいならまだわからなくもないけど。

「大変だったんですよ~? 他の皆さんを説得するの。みんな自分がどの様な立場にいるのか忘れて優遇しようとするんですもん、その上で重役に据えようとすれば周囲がいい顔するはずがありません」
「それは確かに、僕は小心者なのでいきなり重役は萎縮してしまうな」
「ですから私は明斗さんの動きやすい役職をご用意しました」
「それがGM達のケアマネジメントだと?」
「はい。明斗さんてなまじ優秀なので競わせると軋轢を生むんですよ」

 とても身に覚えがある。
 数日早い同僚や、先輩社員から目の敵にされたもんな。

「ならば、誰とも競わない役割がいい。それでいて気配りが冴え渡る仕事、明斗さんがやりがいを感じる仕事はなんだろうと考えた時、人と人をつなぐことをとても楽しそうに話していたのを思い出して、社長命令で任命しました」
「職権濫用じゃないの」
「実際、あの子達で回せないくらいの仕事量が舞い込んできても、不貞腐れることなく回せているのは明斗さんの気配りがあるからこそなんですよ?」
「それはまあ、嬉しいよね」
「なので私の目に狂いはないのです」

 むふんと胸を張る千枝さん。
 とても気分が良さそうだ。

「それに率先してキャラロストをする利点を示してくれました」
「利点というか、まあ性分だよね?」

 モンブランの件だ。
 たしかにあれがきっかけでR鳩さんが危険食材にのめり込んだ。

「ぶっちゃけますと、どうやってプレイヤーにキャラロスト含めて毒による死を受け入れてもらえるかは懸念案件でした」
「では僕の挑戦はプレイヤーを誘う呼び水になり得たと?」
「とても効果抜群です。その布石としてミーシャさんの猛毒喫茶は目から鱗ものでした。その上でお涙頂戴のエピソード付き。この人は一体どれくらい先が見えて行動してるんだろうと経営者として悔しかったんですよー?」

 テーブルに突っ伏してぶー垂れる千枝さん。
 いつのまにか僕の自慢から恨言にシフトしてない?
 まぁいいけど。
 無自覚で周囲にそういう影響を与えていたことを自覚する。

「まったくそんなつもりはなかったんだ。ただ遊んでただけだよ」
「素でそれをやってのける明斗さんだからこそ、誘った甲斐がありました」
「では、僕が思ってる様な最悪は起きえないと?」
「多少はあるでしょう。でも、その程度のリスクを乗り越えられない者が大金を獲得できるチャンスを得るなど有り得ない! それに枠を放棄してくれるならこちらも大助かりです。四陣、五陣の企業枠も埋まりつつありますからね」

 キリリ、と表情を引き締める千枝さん。
 そうか人々が離れにくくするための布石も兼ねていたのか、投資システムは。
 実際にPC版に実装されてたら僕以外にも拾い上げられていたプレイヤーはいたかもしれないんだ。
 結局最後まで居残り続けた僕らに焦点が当たったけど、次は他の誰かの番だ。と、そういうことなのだろう。

「どこまでも僕は千枝さんの掌の上か」
「すぐに斜め上に飛んでいくので囲うのが大変なんですよ?」
「自重するのは僕のスタイルじゃないさ」
「はい、明斗さんは明斗さんの思うがままに遊んでいてください。運営の事は私にドーンと任せてください。多少の軌道修正はしますが、開発の悪意について詳しいのは始まりの16人の皆さんですから」

 おや、運営をしているのだからてっきり開発から全面協力してもらってるのかと思ったけど。

「その言葉から察するに、開発は非協力的?」
「PC版の頃から変わってませんよ?あの人達。自分の作り上げた作品に自信を持つのはいいんですが、それを一般的に遊ばせる気がないんです。ある程度開拓するのにどれだけ手を焼いたか! 正直始まりの16人というチート人材使ってようやくですよ!? 頭おかしいんです、あの人達!」

 千枝さんが憤ってらっしゃる。
 どうどう。背中をさすって落ち着かせ、ハーブティーを飲ませる。
 今夜の晩御飯は濃いめだったので、口の中がさっぱりする様に仕向けた。
 スイーツもいただいたが、それでも角煮の脂身は胃の中から消えてなくならない。酸辣湯も濃いめだったしね。
 角煮と相殺どころか相乗効果で胃の中でも絶賛暴れてるからね。

「では僕の興味本位は開発の対抗策になりえていると?」
「草野さん、向こうではミントちゃんですね。彼女も企業枠での参加ですが、明斗さん程の調薬知識がなくてですね~」
「あれ? 意外と企業枠多いんだね」
「クランマスターなんてほぼ企業枠ですよ? 冒険してるクランは一般の方が多いですね」
「あー……その時点で出来レースなんだ」
「正直に言えば、環境が極悪なのでそれぐらいの出来レースがないとプレイヤーが寄り付かないんですよ。そこで私が率先的に明斗さんの手記をピックアップしていきまして」
「あー、だから僕だけ情報が一人歩きしてる感じなんだ?」
「いつかお誘いしようと思ってたんですけど、招待メールは既読がつかず、物理的に配送させて頂いても連絡が来ないまま一年が立ちました」
「その節は本当にご迷惑おかけしました」

 正直家に帰ったら寝るくらいしかしてないので、郵便物の中身を見る余裕もなかった。
 携帯も機種変どころかOS更新すらしてない。
 視野狭窄になるくらいに追い詰められてたんだ。
 辞められてよかったよ、あんな場所。
 辞めたというよりは首を切られたんだけどさ。

「明斗さんに悪気がないのは把握してます」
「もしかしてうちの会社が企業縮小したのって……千枝さん絡みだったり?」

 答えは返って来ず、にこりと微笑まれた。
 これは余計な詮索はしたらダメなやつだ。
 はぁ、全く。
 僕なんかより全然優秀な彼女である。
 彼氏面で彼女の仕事に口を出すものじゃないな。
 これじゃあ大黒柱としての立つ瀬もないや。

「それと今回のイベントの参加報酬に、投資コインも配布する予定です」
「参加報酬までつけるんだ? でも参加したかどうかの判別はどうやってつけるの?」
「イベント期間中にログインした全員を対象にするつもりです」
「ほう、じゃあ僕も?」
「課金者にも普通に配られます。まぁ投資のチュートリアルみたいなものですね。と、言っても注目プレイヤーにしか投資できません。自分のものになるわけじゃなく、消費期限があります。あくまでこういうことができるってプレイヤーに教えるものですね」
「ああ、課金者には見慣れてるものでも、無課金で遊ぶ人は用途不明なものってあるもんね」

 つまり本格的に企業が参戦してくるってわけね?
 三陣からが本命か。
 一般プレイヤーよりも企業枠を最優先しすぎるのもあれだけど……僕は僕の興味の向くまま遊ばせていただこう。

「明斗さんはこの後?」
「もちろんログインするさ」
「あまり夜更かしは控えてくださいね?」
「うん、おかげで肩の荷が降りたよ。ずっと自分の中で燻らせてていいものじゃないからね」
「私なんかで良ければいつでも相談に乗りますよ?」
「ふふ、じゃあこれからは溜め込む前に相談させてもらうよ」
「勿論、彼女ですから!」

 僕は彼女に拾われて、本当によかったよ。
 心からそう思えた。
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