余暇人のVRMMO誌〜就活前にハマっていたマイナーゲームにログインしなくなって五年、久しぶりにインしたら伝説になってた〜

双葉 鳴

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一章『NAF運営編』

23話

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 出来る彼女のお陰で僕の日常は守られた。
 だからと言って好奇心が損なわれたわけでもなく、通常通り興味の向く方へと目を向ける。

 うぐぐいすさんから語られた企業向けのイベント『投資』も気になるが、それ以上に新しいプレイヤーが来ることに逸るプレイヤーが多い。主にクランが新規メンバー獲得に向けて準備を進めてる風景が目に映った。
 ウチ? ウチは一芸特化だからあんまり躍起になって探してないよね。本人が楽しんで、なおかつ周囲に影響を出す。それができる人がメンバーに多いのだ。

 と、風景の一部に何やら見慣れない武器を扱うお店がある。
 このゲームって、武器を選ぶにも獲得してるスキル依存だからただ『剣!』てだけじゃ攻撃もへったくれもないのである。
 剣を手に取る最低条件は『突き_Ⅰ』『斬る_Ⅰ』『重力_Ⅰ』などのスキルが必要だ。そこからどのスキルを伸ばすかで武器の方向性が変わってくる。
 武器の重さを取るか殺傷性を取るか、突きを主体にするかだな。

 スキルを必要としない武器もあるにはあるが特注だ。
 その代わりなんの殺傷能力もないので自己責任ときている。
 僕の注射器なんかもそれだ。
 中の薬液がスキルの代わりにモンスターに効果を与えるのだ。
 とはいえ、『調薬術』『錬金術』なしで薬品を作るのは僕くらいだろう。あれば色々と時短にもなるし便利だが少なくない枠を取る。
 どうせなら枠は耐性に振りたいので選択肢に無いのだ。
 故に他人は僕を変人と呼ぶ。まぁ慣れたものさ。

「お兄さん、冷やかしなら勘弁してくれよ?」

 店番をしてたプレイヤーが不機嫌そうに語る。
 こんな場所で店を出しているのだ、ようやく人前に出せるレベルで腕が上がったのだろう。しかし先のイベントでそれなりに注目を浴びたと自負してる僕を知らない層も居るものだな。
 一陣10万人、二陣30万人。その全部の枠が埋まってこれから三陣で50万人の人を呼ぶのもあるので、はじまりの16人に興味ない人もいるのだと思えば納得もいくか。

「失礼、僕を知らない人もいるのだなと思って」
「有名人気取りかい?」
「噂に尾鰭がつくのを鬱陶しく思ってるよ」
「いいねぇ、アタシも早くその舞台に立ちたいもんだ。それで、どの武器を買ってくれるんだい? 注文も受け付けてるよ!」

 むむ、口調を聞くまで目の前の人物が女性であるとは思い至らなかった。とはいえそれを指摘するのも野暮だ。
 むむむと顎に手を置き考えたフリをしつつ自分の要望を出した。
 無論、特注だ。

「へぇ、刺殺系の武器ねぇ。お兄さん見た目からは戦闘できる様には思えないのに」
「存外に失礼なやつだな、君は。確かに戦闘は得意ではないが、まるで無理と決めつけるのは如何なものか」
「まぁねNAFはスキルの成長次第で如何様にも戦えるもんさ。だからアタシの様な駆け出しにもチャンスがある」

 ニッと笑う仕草は確かに少年より少女っぽいものがあった。

「しかも小回りが効いて重さは無いほどいい……難しい注文だね」
「難しいかな?」
「イメージが着地しないというか」
「ならヒントを与えよう」
「普通にイメージを教えてくれたらいいんだが?」
「武器というよりも医療用器具だ」
「おいおい、ここは武器屋だよ? そういう商品はウチじゃ扱ってないよ」

 僕の欲してる武器を察して苦渋の表情を見せる少女。

「無いものを揃えるのが特注なのではなかったかな?」
「アタシだってそうしたいさ。でも精巧なガラス容器を作るのだって一苦労だ。それに加えて耐久性のある針だって!」

 言いたいことはたくさんある。だが、客に向かって叫べばそれこそ本末転倒。
 安請け合いするのは問題だが、技術を学ぶ機会があるなら貪欲に学びたいかどうかを尋ねる。

「君の技術では再現は難しいと?」
「生憎とね。まだ金属加工を齧ってようやくものになった程度さ」
「では問おう、そのチャンスが有ればモノにしたいか?」
「そりゃしたいさ。アタシはこっちの道一本で食ってくつもりだからね。お客さん第一号がお兄さんの様な偏屈者で困ってたってのもあるけど、アタシはまだまだ駆け出しだ。なんでも勉強したい」
「ふむ。一応知り合いにガラス職人がいるので口利きしても良いよ。ただし、やるからには本気で学ぶこと。彼も暇じゃないし、ログインできる日は週一回だ。貴女が本気で学ぶ姿勢を見せるなら相談に乗るけどどうする?」
「まるで悪魔との取引だ。お兄さん、アンタ一体何者だい?」
「さて? 一応有名人の一人ではあるのだが、君は知らないというしその程度の男さ……あ、バリーさん。今暇? 暇じゃない? 取り敢えず話だけでも聞いてよ。お手間は取らせないからさ」

 フレンド一覧唐ログイン情報を確認してコール。
 丁度産業革命さんと新しいスライムアートについて語らっていたらしい。スライムを隔離するのに真空管は必須だ。
 それを作り上げるのにガラスを用いる事が多い。
 だがまるで実が結ばないとの事で話題だけ振ってこちらに来てもらった。

「お待たせ、ムーンライト君。で、要件て何?」
「おーっす。何時ぞやは世話になったな」

 ガラス職人のバリー藤堂さんの他に、呼んでもないのに産業革命のガロンさんまでついてきた。
 流石にガロンさんは知ってるのか、少女の表情が強張った。

「さ、産業革命のマスターさんとお知り合いなんですか?」
「一度仕事でアイディアが採用された程度だよ。ね?」
「三列式簡易トイレな! いまだに注文殺到で参ってるぜ」
「え、アタシも活用してるよ!」
「武器屋なのにアレを活用とは、お前さん、もしや引き篭もりの類だな?」
「本業は鍛治の方だよ。どうだいお兄さん方、アタシの作品買ってかないかい?」

 このメンツ相手に営業かけられる胆力は流石だね。
 でも、今はそれより別の話をしようか。
 ほら、ガロンさん達も困った顔してるし。

「まぁまぁまずは自己紹介させてよ。こっちはガロンさん。もう知ってるとは思うけど産業革命のマスターさんだね。で、もう一人が天地創造のバリー藤堂さん。君の求めてるガラス職人だよ。彼に頼めば僕の要望である注射器なんかも作れると思うんだけど如何だろうか?」
「天地創造!?」
「なんかめちゃくちゃ驚かれてるけど、ムーンライト君は自己紹介してるの?」
「お前さんだって天地創造のメンバーだろ?」
「え、そうだったんですか!」
「いや、最初に言ったよ? 有名人だって。でも自己紹介は特にしてなかったね。改めまして天地創造のムーンライトです。うちのマスターに推されまくって根も葉もない噂が蔓延してる1人さ。以後よろしく」

 肩をすくめながら会釈すると、少女は腰を抜かしながら惚けていた。
 新規プレイヤーを困らせるんじゃ無いとガロンさんから肘で突かれたが、僕だってまだここにきて三ヶ月目のフレッシュな新規ですが?
 そう言ったらお前さんは堂々としすぎて全然フレッシュに見えないとお小言を貰った。酷いや。

「新人を揶揄ってたんですね、酷い」
「僕だって新人に毛が生えた程度なんだけどね? なんならキャラロストしてこれで三人目だし」
「ムーンライト君は名誉新人詐欺だからね。うちのマスターの流した噂が大きすぎて初日からおっかなびっくりしてたらしいじゃない?」
「うわぁ、見たかった当時のお前」

 名誉新人詐欺って何さ。
 話を聞けば少女は企業関連でこっちにやってきたプレイ歴5ヶ月目の新人であるお茶漬け侍さん。
 鍛治クラン『朝食は洋食派』に属しているそうだ。

 色々ツッコミどころは多いが、鍛治に注力してるのは事実なので早速バリーさんに交渉してみることに。

「え、別に構わないけど。ムーンライト君には一つ貸しかな?」
「良いんですか?」
「アンタは藤堂より、ムーンライトの方が遭遇率低い事を自覚した方がいい」
「え、そうなんですか?」
「そんな事ないよ。君と同じく引きこもり体質で、ここ三ヶ月で表に出たのはトータル5回。普通じゃない? ああ、イベントの対応はNPCの方だ。僕も対応したけど最初の一回くらいであとは全部NPCだね」
「普通ではないんだよなぁ」
「こんな奴だぞ? 頭おかしいとしか思えん」
「そう思ったら、今年の運を全部使い切った様な気がしてきました」
「それじゃあ早速工房に行こうか。俺のログアウト時間が差し迫ってきてる。基礎は教えるけど、基本スパルタだから後は君の頑張り次第だよ。まぁ頑張って」
「はい!」

 お茶漬け侍さんがバリーさんに引ずられて工房へと消えた。
 僕はガロンさんとその光景を見送って、雑談に移行する。

「で、相談なんだが」
「なんでしょう」

 遭遇率の低いらしい僕は、ガロンさんから相談という名の無茶振りを受けた。いつもの事である。

「ならこれをこうして」
「しかし緩衝材が……」
「でしたら茶豆さんが新しい木材の開拓に成功したと聞きます」
「木材かぁ? 金属衝撃を受け止め切れるとは思えん」
「物は試しです。僕も話を聞いただけなので実際に見にいきましょう。あ、茶豆さん? ええ、ちょっと新素材についてお伺いしたいことがありまして。ええ、ええ。では30分後、工房に向かいます」
「毎度思うが、よくアポイントメント無しで面会して貰えるよな、お前」
「人徳です。うちのクランメンバーにはたくさん貸しがあるので」
「藤堂のやつの貸しは案外大きかったりするのか?」
「どうでしょう? 僕をどう扱うかはあの人次第じゃないですか?」

 ──40分後。

「いやぁ、今日は助かったぜ。あんたに頼めばトントン拍子で話が進んですぐ終わる。クラメンが頼りにしてるのもわかる気がするわな」
「僕も暇だったからちょうどよかったですね」
「本当なぁ、そのタイミングで出会う確率の方が低くて参るんだわ。じゃあ、出来上がりを楽しみにしててな!」

 ガロンさんは振り回すだけ振り回して帰った。
 さて、僕は何をしようとしてたんだっけ?
 一度話が脱線すると本筋に帰るのが面倒くさくなるんだよね。
 その日は花屋さんに顔を出してログアウトする事にした。


 数ヶ月後、すっかり予約を出してた事を忘れた僕宛に注射器が届く。
 バリーさんのところに預けてたお茶漬け侍さん渾身の一作らしい。
 それは注射器というより短銃のシルエットをしていた。
 説明書を見るなり、二種類の戦闘スタイルが確立されている様だ。

 まず薬品を専用のビーカーに注ぐ。
 上部に立てて設置した場合、霧状に噴霧することができる。
 要はスプレーガンの如く。

 もう一方は弾丸として単発の注射針に少量づつ入れておけば中近距離で発砲、着弾。射出した勢いで刺した場所に薬液が注入される仕組みだそうだ。
 凄いね、画期的だ。まるで使い所が見当たらない。
 一体何のために注射器を作ってもらったのか意味がわからないぞ。

 こんなもの、相手の防御力を貫通して静脈に毒物を混入させる以外に何か用途があると思ってるのだろうか?

 しかし物は試しだ。
 僕はそれを手にして用途を探すべく数ヶ月ぶりに外に出ることにした。腰に銃を装備する姿はまるで探索者の如く。
 肩で風を切りながらまずは手頃なターゲットのスライムに猛毒弾をお見舞いした。

 ミス!
 ミス!
 ミス!
 ミス!
 ミス!
 ヒット!

 六発撃ってようやくヒット。だめだ、僕の命中率がゴミすぎてまるで当てられる気がしないぞ。
 遠投なら少しはマシだと思っていたが、多分似た様な結果になるに違いない。

 猛毒+キャラロストキノコによって水分をキノコに吸い尽くされたスライムを回収する。
 僕の発明したスライムアートコンテスト参加賞を獲得した『スライム収納袋』を投げつける。
 着弾点で弾けて粉末状に潰したコアと、中の水分を獲得してスライムを再生し、手元にある粉末状のもう半分に固定ダメージを当ててアイテム化。

 これらの利点はスライムが特定アイテムを消化しようと試みてる状態で倒すことによって手を触れずとも安全にアイテムを回収することができる画期的なアイディアだと思ったのだが、ネタが使い古されすぎて斬新さはないとされて参加賞となった曰く付きの商品だ。

 僕は便利だと思うんだけど、普段使いには向かない様だ。
 触っても大丈夫なコアをもう一方のカプセルに閉じ込めて、中身をペンで書き込んでいく。
 まぁこの手間が参加賞になった所以でもある。

 ピストルモードは僕に合わないと判明したので、今度はスプレーガンモードで探索に移った。
 意外とこの注射器が楽しくてその日は探索に勤しんでしまったことをここに記しておく。

 ◇

 一方その頃、ムーンライトから投資を受けたお茶漬け侍は、その金額に冷や汗を垂らしていた。

「確かに代金は貰ってなかったけど、流石にこの額は……」

 イベント参加企画としてプレイヤーに配られた投資コインは5,000ポイント。しかしムーンライトの支払った額は150,000ポイントだった。
 これはただ課金したは良いけど使い道がなかった額をいっぺんに払ったためである。
 そうとは知らないお茶漬け侍は、その期待に応えようと更なる魔改造注射器開発に熱意を燃やしたとか何とか。
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