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五章

10_龍果の魅力を伝えよう⑨

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 俺と似ても似つかない教祖に詰め寄ると、当人は俺に対して何ら思うこともなく「姉さん、この人誰?」だなんてフェルスタへと訪ねていた。


「ユースキー、あなたのオリジナルよ?」

「え、マスターから聞いてた人相とまるで違うよ?」

「きっと彼との思い出を美化しすぎたのね。マスターはそういうところあるから」

「成る程、俺に任務丸投げして本物が帰ってくるまで郷には帰ってくるなと言いつけるわけだ。あれ、じゃあ俺帰れる? やった」


 顔は似ても似つかないのに、口調や思考は俺そっくり。
 俺の横で委員長や薫、杜若さんまでが「思考パターンは似てるね」だなんてヒソヒソ声で語り合う。
 本人を前にしてそういうに良くないと思いまーす。


「え? 帰れるかどうかはご本人に引き継ぐ意思があるかどうかよ? マスターからそう聞かされてなかった?」

「き、聞いてねーぞ!」

「マスターのお考えもその時によって変わるのですよ、ユースキー」

「なあオリジナル、勇者教会の教祖になり変わってくれる気なんて……」


 雨に濡れた子犬の様な仕草で縋りつかれたが、そっちの事情なんて知らねーよ。俺はこっちで別のことをやりたくてきてんだから。


「え、無理。俺この世界に料理を学びにきてるんだぜ? なんで望んで行動を縛られに行かれなきゃいけねーんだよ。意味わからんわ。あと、俺たちはそんなことしてくれなんてササモリさんに頼んだ覚えはないぞ? 向こうが勝手にやったことを俺に頼るのは筋違いだ!」

「そんな!」

「ご愁傷様、ユースキー。あなたの監督不行き届きでオリジナルが替わってもいいくらいの実績はあげられなかった様ね。160年も時を与えたのに」

「いやいやいや、姉さんもやってみればわかるって! あいつら食べ物があって当たり前って顔しながら自分は一切の努力もせずにモノを欲する奴らばかりだよ? こっちがどんなに苦労して料理人を焚き付けたかわかる? 元々公職についてた奴が自分を高い地位につけろって嫌味ばかり言うんだ。任せたら任せたで自分勝手に教会を好き勝手使い始めるし、辞めさせたら逆恨みで教会に悪いイメージつけさせようとするし散々なんだよ!」

「と、いうことらしいわオリジナル」

「これ、俺のせいなの? そもそも国を解体したのはグーラじゃんか。それでもまとまってた頃があったじゃんよ」

「オリジナルが帰ってから一瞬で瓦解したんだよ。食えてたものが急に食えなくなってみろ、民の全員がストライキを起こしたぞ。生活水準って下にあった頃はまだ我慢できるけど、一度上げてから落とされるのは我慢ならないものなんだそうだ」


 そりゃ、まぁそうか。


「それでも雄介に当たるのは筋違いだよ。ササモリさんが勝手にやった事じゃない?」

「マスターだってグルストンやムーンスレイ、ドラグネスの民に頼まれて仕方クク引き受けて俺が誕生したんだ。マスターを責めるのだって筋違いだよ。まぁ俺という偽物が現れた程度じゃたみは納得しなかったけどな。オリジナル、俺が生まれる以前にあんたがどんな問題を起こしたのか俺はよくわかってない。一体何をしたらたみが一丸となってこうも暴れ出すんだ?」

「そんなもん俺だって知らないんだが」


 全くもって身に覚えがない。
 全員がササモリさんと同様に思い出を美化してるんじゃねーのか?


「でも確かに、魔素革命を引き起こしたのは後にも先にも阿久津君が初めてよね。もしかしてそれのこと?」

「それ、それそれ! 謎の元素『魔素』さえあればどんなに美味しくない素材でも美味な料理に早替わりする謎料理で満足してた民からオリジナルは魔素そのものを奪ったんだ!」


 ああ、あったなぁ魔石ガチャ。
 役に立たないスキルとそれを成長させるための魔素がもらえる。みんなスキル育てないで料理にばかり注ぎ込んでた弊害か。
 ますます俺への責任転嫁じゃねーか。


「魔素なら魔石で還元できんだろ?」

「そもそも魔素なんて元素はマスターですら発見できなかった未知の元素なんだよ。還元以前の問題なんだオリジナル」

「マジか」

「マジだよ。お陰で魔素切れを起こした民からの苦情が全部マスターに届いたんだ。エルフが情報を秘匿してるんじゃないかって思い込みで訴えられたんだ」

「無視すりゃ良かったじゃんか。亜空間に住んでるんならできたろ?」

「亜空間に住んでるん民からのクレームなんだよ、これが。自給自足を辞めたエルフがどんな暮らししてるかオリジナルなら知ってるだろ?」

「ああ、豊かな食生活から一転、ショートブレッド生活に変われば人々は暴動を起こすな。そりゃ悪かった。でも俺が帰ってきたから任意設定ガチャは起動するだろ?」

「起動しちゃまずいから全部教会側で回収させてもらったよ。せっかく苦労してここまで育てたのにこれが復活したらみんなこれに頼りだすじゃん?」

「そりゃそうだよね、それに頼っちゃったらなんのために教会を建てたのかわからなくなる」


 薫に突っ込まれて理解する。
 人々の心の拠り所を一個人じゃなく団体に結びつけたのに俺が帰ってくるたびに一個人に戻す様だと民達に齟齬が起きるのだそうだ。
 なのでレシピの公開などを幅広く教えてほしいなど乞われたが、正直作り方については俺が教えて欲しいくらいだ。
 そこら辺融通利かないんだよな、俺のガチャ。


「つーか、そもそもさ。なんで勇者教会って名称なのに教祖が俺一人なんだよ。他にも三上とか夏目とか居たろ?」

「これに限っては民からの要望が一番多かったのがオリジナルだったからね」

「人から助けてもらった時の記憶なんて覚えてたってせいぜい十数年かそこいらでしょ?」

「食事の記憶だっておんなじくらいだろ。じーさんばーさんがどれほど美味かったか語ったところで孫にとっちゃ過去の話じゃん?」

「そりゃそうだけどさ、そこんところ実際どうなの?」

「一番恋しがったのがうちのマスターでした」


 あ、ハイ。
 フェルスタの回答で全てが繋がった。
 要はササモリさんが日本食に恋焦がれて俺の偽物を作ったと?
 じゃあなんで民からの要望がどーたらって注釈入れたんだよ。


「結局ササモリさんが諸悪の根源と言うことでは?」

「まぁ、そう言われたらそうなんですが」

「ちょっ、姉さん!? 俺それ聞いてないんだけど!」


 偽物が話が違うぞと暴れ出す。
 すかさず杜若さんの『精神安定』が散布され、ユースキーは強制的に落ちつかされた。


「……言いたいことはたくさんあるが、その前にオリジナルの帰還を心待ちにしていた民達にも色々メッセージがあるだろう。その点については何か言い分くらいは聞くぞ? こんなに待たせたんだ。何か一つくらいあるだろう?」

「え、特にないけど?」


 信じられない、と言わんばかりにユースキーが目を見開いて震え出す。


「姉さん、こいつ本当に俺のオリジナルなの!? こんな無責任な男が!」

「無責任具合ではあなたと然程違いはない様に思うけど?」

「え、俺の扱いってそんななの!?」


 ユースキーの驚愕の表情に、俺以外の全員が頷いた。
 まあ元気出せよと肩ポンしたら、その手を振り払われた。
 解せぬ。


「で、そっちの要件って俺に教祖になって貰いたいだけか?」

「概ねはな」

「でも教祖を放棄したら貴方の生まれた意味がなくなることになり、廃棄は免れないわよ!?」

「え、そうなの!?」


 知らなかったのかよ。
 どれだけ適当な理由で作られたのか、わかったものではない。
 とにかくだ。


「頑張れよ、ユースキー。陰ながら応援してっから」

「他人事だなぁ!? オリジナル!」

「そのオリジナルっていうのやめない? 俺は雄介。阿久津雄介ってんだ」

「ユースキー・アークスだ。本当に教祖になってくれたりなんかは?」

「くどい! 俺には俺のやりたい事がある。ま、どうして持ってんなら相談役ぐらいにはなってやるぞ。そうだ、お前飯は食えるか? ちょっと味見をしてもらいたいもんがあるんだけど」


 そう言って俺は龍果のベリーソース煮をユースキーへと手渡した。これは食えるものなのかとフェルスタに聞くが、ぐっと親指を立てるだけで聞きたい答えは返ってこなかった。


「く……これでもこの世界の料理は食べてきた。毒でもこのボディなら!」


 やはりキモい見た目に遠慮しがちにフォークを上空で彷徨わせる。どこに差し込めば良いのかと迷った末にど真ん中をぶち抜いた。思った以上に柔らかく、フォークをそのまま肉に沿わせるだけで簡単に切れてしまった。


「柔らかい。でも味はわからないぞ」


 各号決めて一口。
 すると不味いと思い込んでいた味がいつまで経ってもこない。
 むしろこれは美味いんじゃないかとさえ思えてきたのか、今度は迷いなくフォークでもう半分を口に入れて咀嚼していた。
 今度こそその顔に笑みが浮かぶ。


「美味い!」

「そりゃ良かった。俺たちはこうやってあらゆる地域の作物をオリジナルのレシピで作っていこうと思ってるんだ。今までのガチャ品は素材さえあればできたが、レシピの方はイマイチだ。でもこの方法なら俺が作るからコツも伝えやすい。お前も大変だろうが、偶に息抜きしてさ。ササモリさんからの任務を達成してくれよ」

「そこまで乞われちゃしかたねーな。それで妥協してやるか」


 なぜか折れてやると言わんばかりの態度でユースキーが微笑む。
 これで一件落着だな!
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