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五章
11_勇者教会を立て直そう①
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「見つけましたぞ! 邪教徒め!」
ユースキーとの和解後、そんな声が大通りに響き渡った。
例の宣教師が怒りに肩を振るわせながらこちらに歩いてくる。
すぐ隣にいる教祖様のことなど眼中に入らないのだろう。
「捉えなさい! 我が勇者教を脅かす存在です!」
周囲がザワりと殺気立つなか、遮る様によく通る声が響いた。
「鎮まれ! 一体なんの騒ぎだ」
「やや、これは教祖ユースキー様! 丁度良いところにおいでくださいました」
「お前は?」
「ハッ、勇者教会第13支部を任されているゼニスキー・チョロマカスにございます」
小太りの男はニヤニヤとした顔でおべっかを使うが、ユースキーはそれを良しとしない態度で話の続きを促した。
名は体を表すというが、小太りの宣教師にとてもお似合いな名前だ。
それを聞いた薫がカモを見つけたハンターのような表情でニコリとした。
「そうか、ゼニスキー」
「ハッ」
「しかしこの男は我が故郷の同胞である。いったいどんなことをして邪教徒などと触れ回っているのだ? それなりの理由を用意しているのであろうな?」
「ハイ?」
ユースキーの言葉に理解が追いつかないと言う顔をするゼニスキー。まさかここに来て自分が捌かれる側になるとは思いもしなかったと言う顔をしている。
「ところで雄介、お前はこの男に何をしたんだ?」
「ああ、実はな……」
俺はそこのエセ宣教師との馴れ初めを語る。
とある村の特産物を巡って詐欺まがいの取引を持ち出し、勇者教会の名前を使ってやりたい放題していたと。
「そ、その男の言葉を鵜呑みにするのはおやめください! 邪教徒の戯言にございます!」
「口を開く許可は出していないぞゼニスキー」
「ぐっ」
「で、その特産物の効果がどうも精神に作用するタイプの効能があってな」
「それは……それをそこの男がこぞって集めていたと?」
「ああ、教会の名前を使ってな。この仕事は教会の名誉になると洗脳まがいの触れ込みでだ」
「下衆め、教会の名を地に堕としおって……」
ユースキーの表情に怒りが灯る。
フェルスタの弟というだけあり、どちらかと言えば表情が動かないユースキー。
が、オリジナルが俺だからか少し砕けた雰囲気が目立つところがある。
でも怒った時の迫力は俺以上で、腐っても160年この地で教祖をやって来ただけの貫禄を持っていた。
「ち、ちちち違うんです! そこのものは嘘をついていて!」
「くどい! 本日付けでお前を第13支部より解雇とする」
「チィ、下手に乗って居れば。皆の者、出会え! ここで教祖を打ち倒し我らが教会を乗っ取ってやるのだ!」
あーあーあー、やっちゃった。
悪党ってのはどうも短絡的でダメだね。
「杜若さん」
「ええ」
「いや、必要ない」
やけっぱちになったゼニスキーとその部下達。
俺が加勢しようかと声掛けすると、その行動を制するようにユースキーが一歩前に出る。
「残念だよ、ゼニスキー。お前にもっとこの世界をよくしようという信念があれば良かったのに」
襟を正し、目を閉じて。
その場所にゼニスキーの部下が武器を持って飛びかかる。
ユースキーの姿がその場から掻き消え、打撃音のみがその場に木霊した。
そして静寂が訪れる。
これ、時間を止めたのか?
いや、俺たちが時間をさらに伸ばしたように、感知できない程の時間軸に移動して棒立ちの兵隊を一撃の元に伸したのだ。
エルフの技術によるものだが、その知識のない現地民からしてみたらこれが勇者の力かと恐れ慄くばかりだろう。
風評被害極まれりだ。
一番被害の出ない解決方法ではあるが、勇者の力っていうのは皆に伝わってないのだろうか?
そりゃ160年前の人の能力なんて事細かく覚えちゃいないか。
「失礼、ウチの部下達が迷惑をかけた。本日は無礼講だ。教会秘蔵の商品をお出ししよう。皆励んでくれ」
ユースキーの言葉を聞き、民衆が沸いた。
人心掌握もお手のものか。
「そういや、さっきの宣教師か教会は禁製品を溜め込んでるって噂があるけど?」
「ああ、雄介の魔素でしか再現できない野菜、果実、魚類、獣肉がごまんとある。先の決戦の傷跡で疲弊していたのは民に限った話じゃないんだ」
「ああ……確かになぁ。俺のガチャは魔素さえ貰えればそれを再現させられた。でも現物がないと?」
ユースキーが深く頷く。
「それ、雄介が提供するんじゃダメなの?」
「と、いうと?」
「阿久津さんのスキルは魔素を使って復元するだけでは飽き足らず、栽培するのにも魔素を用います。だからその過程を省けば果実を無限に取り出すことも可能です」
「それは本当か! 出来上がった料理だけでなく、作物や果実も手に入るのか?」
ユースキーが俺の両手を持って必死に縋り付いてくる。
その、なんだ。民衆の視線が痛いからやめてくれると助かる。
「できるぞ。なんだったらいくつか出すが?」
「そうしてくれるとありがたい。助かった。これでこの地も少しは栄える」
「その前に、もうちょっと体裁立てたいよな」
「体裁とは?」
「教会の体裁だよ。委員長、今のバザーを見てどう思う?」
「そうね、旧グルストン王国のバザーと同程度というところかしら?」
それの何が悪いのかと訝しむユースキーに俺は言ってやる。
「お前らにイベントのなんたるかを叩き込んでやる。とりあえずフェルスタ、弟借りるぞ!」
「どうぞご自由に。マスターへのご連絡などは?」
「後で蕎麦を食いに行くと伝えといてくれ」
「いつ頃おいでになりますか?」
「行く前に連絡入れるよ。アクセスコードは前のやつでよかったか?」
以前、ドリュアネスの地でササモリさんから預かったアクセスコード。エルフならそうそう変える事はないと思うけど一応念の為聞くと。
「国を分つときに新しいコードを作ったから変更したわ。新しいコードはこちら……と、デバイスそのものが古いわね。次からはこちらを使ってちょうだい」
「さんきゅ」
「で、だ。ユースキー」
「なんだよ」
「お前達の教会の教義に少しテコ入れさせてもらうが良いか?」
そんな訝しげな顔すんなよ。
教祖はやらないけど協力してやるってんだ。
肩を組んで教会のある方へと歩いてく。
「で、テコ入れとは何をするんだ?」
「イベントだよ。料理人を募って大会を開く、どうだ?」
「料理人の審査ならもうやってる」
確かにしてるだろうな。だがそれは料理人の腕を競うものではなく、手持ちの素材を苦肉の策で仕上げたものだ。そこに公平性はない。
「チッチッチ。そいつは違うぞユースキー。素材は教会で提示して、料理人は制限時間内でどんな料理を仕上げるかで競う」
「む? 確かにそれはした事がないな。詳しく話せ」
「もちろん料理人は事前に募り、素材は渡しておく。全く触ったことのない素材だ。その日に渡して作れは不親切がすぎる」
「確かに。ではどうする?」
「料理人は5日前にエントリーだ。その間にどんな料理を作るかを競い合うことも目的としている。初めて扱う素材をどう仕上げるか、その料理人の今まで打ち込んできた技術が試されるわけだ。料理人もそうだが、審査員も本気で望まなきゃいけないやつだ」
「だがそれは誰が審査する? 教会の神官は舌が超えてるぞ、そこらの料理人の素人料理に点数はつけてやらぬが?」
「バッカお前。食文化の発展は教会の目標だが、そもそもの前提が違うんだよ」
「前提とは?」
「民の食生活だよ。食生活を豊かにするのに民に食べさせないでどうする」
「!」
今初めて知ったみたいな顔すんなや。
この時点で教会の理念が知れたな。
「大丈夫だ、こっから建て直せばまだ間に合う。民が一番うまいと思った料理人に星を渡す。そして星が一番多い料理人がその年の名誉料理人だ。教会はその料理人にその一年は優先的に禁制品を提供するんだ」
「そんなこと! しても大丈夫なのか?」
「しなきゃ民や料理人の不満が爆発するぞ? ここに来るまでに行くつかの村を歩いてきた。特産品以外はその村では扱えず、不満が募ってきてる」
「そうなのか? 部下達からはそんな情報は入って……」
「どこかで不正が横行してるんだろうな」
「ゼニスキーのような輩が教会を利用してると?」
「その可能性もあるって思ってる。教会をどう使うかはお前次第だぜユースキー。禁制品については俺に任せとけ。お前は料理人に声をかけとけよ。忙しくなるぞ~」
ワクワクしたような顔で促せば、その熱が伝わったのかユースキーも明るい未来を思い描いて微笑んだ。
ユースキーとの和解後、そんな声が大通りに響き渡った。
例の宣教師が怒りに肩を振るわせながらこちらに歩いてくる。
すぐ隣にいる教祖様のことなど眼中に入らないのだろう。
「捉えなさい! 我が勇者教を脅かす存在です!」
周囲がザワりと殺気立つなか、遮る様によく通る声が響いた。
「鎮まれ! 一体なんの騒ぎだ」
「やや、これは教祖ユースキー様! 丁度良いところにおいでくださいました」
「お前は?」
「ハッ、勇者教会第13支部を任されているゼニスキー・チョロマカスにございます」
小太りの男はニヤニヤとした顔でおべっかを使うが、ユースキーはそれを良しとしない態度で話の続きを促した。
名は体を表すというが、小太りの宣教師にとてもお似合いな名前だ。
それを聞いた薫がカモを見つけたハンターのような表情でニコリとした。
「そうか、ゼニスキー」
「ハッ」
「しかしこの男は我が故郷の同胞である。いったいどんなことをして邪教徒などと触れ回っているのだ? それなりの理由を用意しているのであろうな?」
「ハイ?」
ユースキーの言葉に理解が追いつかないと言う顔をするゼニスキー。まさかここに来て自分が捌かれる側になるとは思いもしなかったと言う顔をしている。
「ところで雄介、お前はこの男に何をしたんだ?」
「ああ、実はな……」
俺はそこのエセ宣教師との馴れ初めを語る。
とある村の特産物を巡って詐欺まがいの取引を持ち出し、勇者教会の名前を使ってやりたい放題していたと。
「そ、その男の言葉を鵜呑みにするのはおやめください! 邪教徒の戯言にございます!」
「口を開く許可は出していないぞゼニスキー」
「ぐっ」
「で、その特産物の効果がどうも精神に作用するタイプの効能があってな」
「それは……それをそこの男がこぞって集めていたと?」
「ああ、教会の名前を使ってな。この仕事は教会の名誉になると洗脳まがいの触れ込みでだ」
「下衆め、教会の名を地に堕としおって……」
ユースキーの表情に怒りが灯る。
フェルスタの弟というだけあり、どちらかと言えば表情が動かないユースキー。
が、オリジナルが俺だからか少し砕けた雰囲気が目立つところがある。
でも怒った時の迫力は俺以上で、腐っても160年この地で教祖をやって来ただけの貫禄を持っていた。
「ち、ちちち違うんです! そこのものは嘘をついていて!」
「くどい! 本日付けでお前を第13支部より解雇とする」
「チィ、下手に乗って居れば。皆の者、出会え! ここで教祖を打ち倒し我らが教会を乗っ取ってやるのだ!」
あーあーあー、やっちゃった。
悪党ってのはどうも短絡的でダメだね。
「杜若さん」
「ええ」
「いや、必要ない」
やけっぱちになったゼニスキーとその部下達。
俺が加勢しようかと声掛けすると、その行動を制するようにユースキーが一歩前に出る。
「残念だよ、ゼニスキー。お前にもっとこの世界をよくしようという信念があれば良かったのに」
襟を正し、目を閉じて。
その場所にゼニスキーの部下が武器を持って飛びかかる。
ユースキーの姿がその場から掻き消え、打撃音のみがその場に木霊した。
そして静寂が訪れる。
これ、時間を止めたのか?
いや、俺たちが時間をさらに伸ばしたように、感知できない程の時間軸に移動して棒立ちの兵隊を一撃の元に伸したのだ。
エルフの技術によるものだが、その知識のない現地民からしてみたらこれが勇者の力かと恐れ慄くばかりだろう。
風評被害極まれりだ。
一番被害の出ない解決方法ではあるが、勇者の力っていうのは皆に伝わってないのだろうか?
そりゃ160年前の人の能力なんて事細かく覚えちゃいないか。
「失礼、ウチの部下達が迷惑をかけた。本日は無礼講だ。教会秘蔵の商品をお出ししよう。皆励んでくれ」
ユースキーの言葉を聞き、民衆が沸いた。
人心掌握もお手のものか。
「そういや、さっきの宣教師か教会は禁製品を溜め込んでるって噂があるけど?」
「ああ、雄介の魔素でしか再現できない野菜、果実、魚類、獣肉がごまんとある。先の決戦の傷跡で疲弊していたのは民に限った話じゃないんだ」
「ああ……確かになぁ。俺のガチャは魔素さえ貰えればそれを再現させられた。でも現物がないと?」
ユースキーが深く頷く。
「それ、雄介が提供するんじゃダメなの?」
「と、いうと?」
「阿久津さんのスキルは魔素を使って復元するだけでは飽き足らず、栽培するのにも魔素を用います。だからその過程を省けば果実を無限に取り出すことも可能です」
「それは本当か! 出来上がった料理だけでなく、作物や果実も手に入るのか?」
ユースキーが俺の両手を持って必死に縋り付いてくる。
その、なんだ。民衆の視線が痛いからやめてくれると助かる。
「できるぞ。なんだったらいくつか出すが?」
「そうしてくれるとありがたい。助かった。これでこの地も少しは栄える」
「その前に、もうちょっと体裁立てたいよな」
「体裁とは?」
「教会の体裁だよ。委員長、今のバザーを見てどう思う?」
「そうね、旧グルストン王国のバザーと同程度というところかしら?」
それの何が悪いのかと訝しむユースキーに俺は言ってやる。
「お前らにイベントのなんたるかを叩き込んでやる。とりあえずフェルスタ、弟借りるぞ!」
「どうぞご自由に。マスターへのご連絡などは?」
「後で蕎麦を食いに行くと伝えといてくれ」
「いつ頃おいでになりますか?」
「行く前に連絡入れるよ。アクセスコードは前のやつでよかったか?」
以前、ドリュアネスの地でササモリさんから預かったアクセスコード。エルフならそうそう変える事はないと思うけど一応念の為聞くと。
「国を分つときに新しいコードを作ったから変更したわ。新しいコードはこちら……と、デバイスそのものが古いわね。次からはこちらを使ってちょうだい」
「さんきゅ」
「で、だ。ユースキー」
「なんだよ」
「お前達の教会の教義に少しテコ入れさせてもらうが良いか?」
そんな訝しげな顔すんなよ。
教祖はやらないけど協力してやるってんだ。
肩を組んで教会のある方へと歩いてく。
「で、テコ入れとは何をするんだ?」
「イベントだよ。料理人を募って大会を開く、どうだ?」
「料理人の審査ならもうやってる」
確かにしてるだろうな。だがそれは料理人の腕を競うものではなく、手持ちの素材を苦肉の策で仕上げたものだ。そこに公平性はない。
「チッチッチ。そいつは違うぞユースキー。素材は教会で提示して、料理人は制限時間内でどんな料理を仕上げるかで競う」
「む? 確かにそれはした事がないな。詳しく話せ」
「もちろん料理人は事前に募り、素材は渡しておく。全く触ったことのない素材だ。その日に渡して作れは不親切がすぎる」
「確かに。ではどうする?」
「料理人は5日前にエントリーだ。その間にどんな料理を作るかを競い合うことも目的としている。初めて扱う素材をどう仕上げるか、その料理人の今まで打ち込んできた技術が試されるわけだ。料理人もそうだが、審査員も本気で望まなきゃいけないやつだ」
「だがそれは誰が審査する? 教会の神官は舌が超えてるぞ、そこらの料理人の素人料理に点数はつけてやらぬが?」
「バッカお前。食文化の発展は教会の目標だが、そもそもの前提が違うんだよ」
「前提とは?」
「民の食生活だよ。食生活を豊かにするのに民に食べさせないでどうする」
「!」
今初めて知ったみたいな顔すんなや。
この時点で教会の理念が知れたな。
「大丈夫だ、こっから建て直せばまだ間に合う。民が一番うまいと思った料理人に星を渡す。そして星が一番多い料理人がその年の名誉料理人だ。教会はその料理人にその一年は優先的に禁制品を提供するんだ」
「そんなこと! しても大丈夫なのか?」
「しなきゃ民や料理人の不満が爆発するぞ? ここに来るまでに行くつかの村を歩いてきた。特産品以外はその村では扱えず、不満が募ってきてる」
「そうなのか? 部下達からはそんな情報は入って……」
「どこかで不正が横行してるんだろうな」
「ゼニスキーのような輩が教会を利用してると?」
「その可能性もあるって思ってる。教会をどう使うかはお前次第だぜユースキー。禁制品については俺に任せとけ。お前は料理人に声をかけとけよ。忙しくなるぞ~」
ワクワクしたような顔で促せば、その熱が伝わったのかユースキーも明るい未来を思い描いて微笑んだ。
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