73 / 497
2章 お爺ちゃんとクラン
061.お爺ちゃんはクランの足がかりを探る
しおりを挟む私は早速パープルに連絡をする。
彼女はクランの顔であり、今一番連絡を取りやすい相手でもある。
オクト君の場合、ログインしていない場合もあるし、してればしてたで忙しそうにしてるからこういうことは娘が適任なのだ。
まずは近況報告も兼ねてVR井戸端会議の出会いで神保さんに出会ったところから話を膨らませる。
すると彼女は結婚式にアクセサリー類を紘子ちゃんから贈呈されて舞い上がったことを思い出してくれたよ。
そしてこのゲームにも在籍していると情報を得た。
お兄さんの健介君が率いるトップ生産クランだとかで、パープル達が唯一敵わないクランだと教えてくれた。
なるほどね。一体どんなガチ勢なのかと思ったらリアルでの実力者を揃えたパーフェクト集団だったわけだ。
健介君自身もお医者さんとして医療品や薬剤関連に精通してるし、ポーションを作らせたら右に出るものもいないとの噂だそうだ。
そりゃ勝てるわけないよね、と話を膨らませてからクランの話題を持ち出す。
『お父さん、もしかして陽介おじちゃんをお誘いしたの? あの人間国宝を?』
するとパープルがとんでもない言葉を放ってくる。
人間国宝って一体誰が?
キョトンとしていると捲し立てるようにパープルの口撃が続く。
『あれ、まさか知らないなんて事ないよね? ああでもお父さん陽介おじちゃんが国宝宣言された時海外に出張中だったし知らないかも知れないね。あの人ただの金物屋さんじゃないのよ。確か趣味で作ってた小太刀が鑑定されて素晴らしい出来栄えだって取り上げられたことがあったのよ。その時は作った本人もびっくりしてて、あれよあれよと有名になっていったの。新聞社とかあんな田舎町にいっぱい押しかけてそれはもうパニックになったものよ』
『そうだったのか。それで今度私たち三人でバザー的なものをしようと思ってね。彼、こっちではダグラスさんを中心にして私が写真を撮り、ジキンさんに執筆をお願いして精錬のコツみたいな本を作って売ろうと思ったんだ』
あまりの内容にパープルは開いた口が塞がらない、と無口になる。
まさかダグラスさんがそんな凄い人だなんてなぁ。
私としては幼馴染みとしての陽介さんしか知らないからつい誘ってしまったが、しかし嫌なら嫌だって言ってくれてもいいのにね。二人とも私の提案に乗り気で来るんだもの。
『取り敢えずお父さんがまた何かをしでかす前に知れてよかったわ。それで、話ってそのバザーの開催をこちらでサポートすればいいの?』
『いや、バザーは個人的に開きたいんで、クラン設立についての情報を知りたかったんだ。何でもかんでも君たちばかりに頼りきりってわけにもいかないしね』
『話はわかったわ。それで、メンバーは?』
『私とジキンさんにダグラスさんだね』
『それは人数が足りないわね。最低でもクランリーダーを入れて10人居ないと設立できないの。他にもギルドでランクを上げる必要があったりと戦力的なものを求められたり、お金……は今のお父さんなら余裕で払えるわね』
なんだって?
まさか人数が必要だとは思わなかった。
あと7人……どこかにいないものか。
『人数の件は分かった。しかし私は戦えないが、ランクはどうやって上げればいいんだい?』
『あ、それはパーティを組んでメンバーに倒して貰えば大丈夫よ。うちのオクトもそれで設立したし』
『了解した。それじゃあメンバーとランクが上がったらまた連絡するから』
『うん、一応オクトにも話を通しておくわね』
『いつも済まないね。また頼りにさせてもらうよ』
コールを切り、ダグラスさんに向き直る。
ジキンさんはまだまだコールで盛り上がっているようだ。時折怒声が聞こえるけど気のせいだよね?
やだなぁ、電話口とはいえ怒鳴る人って。
それはさておき今さっき仕入れた情報を話してしまいましょうか。
「いや参った。クランを発足するには人数がいるみたいですよ」
「ふぅむ。そいつは難儀だ。だが準備期間がかかるんなら、より良い一品を作れるってもんじゃないか、ハヤテ君」
ダグラスさんは金属をハンマーで叩く動作をすると歯を剥き出しにしてニカッと笑った。
あ、この人クラン発足を手伝わない気ですよ?
まぁ得手不得手があるので仕方がありませんね。
無理に誘った手前、つっぱねられても仕方ありません。
参加してくれただけでもありがたく思っておきましょうか。
いくらリアルで人間国宝と呼ばれようと、彼は没入型で私は散策型。
ジキンさんは……うーん、あの人だけよくわかりませんね。
万能型と認めたくない私もいますが、フリーランスとしておきましょう。どこに置いてもそつなく仕事をこなしそうなんですよね、あの人。
「おや、僕が最後ですか。ハヤテさんはどこまで情報仕入れました?」
「人数とギルドでのランクアップ、あとお金がかかるそうです」
「ですね。それと三つのクランからの紹介状が必要だそうです。これは聞いてなかったですか?」
「そうですねぇ。うちの娘夫婦とジキンさんの息子さんたちのクランで二つ。あと一つは……」
「それならワシんところの倅のクランに出させよう」
「おっと、ダグラスさんのお子さんもクラン持ちでしたか」
ジキンさんはわざとらしく驚いて見せる。
この人はいちいちアクションがオーバーなんですよね。
見ている分には面白いんですが。
「何、大した事のないクランじゃよ。物づくりに関しちゃ一家言あるワシから見たらおままごとみたいなもんじゃな。ちょいと脅せばすぐに言うことを聞くから一筆書かせるくらい訳ないわい」
「ダグラスさんはこう言いますけど、実質AWOのトップ生産クランらしいですよ? 娘が言ってました」
「ええ……そんな人達を手玉に取るなんてダグラスさんて何者なんですか?」
「何者なんでしょうねぇ」
面白いのでジキンさんには内緒にしておいたほうがいいですね。
「……なんかハヤテさん隠してませんか?」
「そんなとこないですよ。考えすぎですって」
「怪しいなぁ」
疑り深いジキンさんは横に置いといて、テーブルに手をついて席を立つ。
「さて、第一回桜町町内会AWO部の会合はこれで終わりにしますか」
「あ、逃げた」
「早速じゃが次の会合はいつにする?」
「と、その前にダグラスさんにフレンド申請しときますね」
「受け取った。ジキンさんにも送っとこうかの」
「おお、ありがとうございます」
フレンド申請をしてお互いにチェックし合う。
「おお、ハヤテ君はブログを書いとるのか。どれどれ……」
「まだ趣味ですが、いろんな場所で撮影させてもらってます」
何やら操作し始めたダグラスさんがほぅとため息をついて遠い目をした。一拍置いてこちらに顔を向けると、
「お前さんは変わらんの。ちと幼少の頃を思い出したわい」
どの写真が彼の心を射止めたのかはわからない。
だが、自分の撮影した物で目の前の人物の心を揺り動かせたのだけは間違いなかった。
「この人は行く先々でトラブルを起こして回りますからね。ダグラスさんも気をつけておいたほうがいいですよ?」
ちょっと、なんてこと言うんですか。
「言われんでも分かっとる。何年の付き合いだと思っとるんじゃ」
「そうでした」
ダグラスさんも乗らないでくださいよ。
それでも嫌味のない笑顔で笑い合える関係が築けているのはありがたいものだ。ジキンさんは後で覚えててくださいよ?
少し眼力を強め、それぞれの場所へと分かれていく。
三者三様のやる事をしに。
さて、私も同時進行して行きますよ。
次は領主邸ですね。
私はオクト君にコールをすると商業ギルドに足を向けた。
2
あなたにおすすめの小説
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜
きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。
遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。
作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓――
今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!?
ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。
癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる