【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

文字の大きさ
176 / 497
3章 お爺ちゃんと古代の導き

153.お爺ちゃん達と[五の試練]②

しおりを挟む
 やはりここには仲間と来て正解だった。
 もし私が単独で挑んでいたら、なす術もなく極光に溶かされ尽くされ何も出来ずに項垂れていたことだろう。
 重力がスキルによってゼロにされた私にはどうしようもないのだ。

 それこそが重さ。
 どんな原理でそこにあるかはわからない浮力に対して均衡を保っているのが今の状態。
 けれど厚い雲に覆われたあの中層にフィールドを落とせば融解現象からフィールドを守れる。
 くしくもそこは赤の禁忌のお腹の下辺りに位置する。キーワードをつなげる意味でも、恐らくそこが正解だ。もしこそこで自身の重力を自在に操る術を手に入れることができたなら、これはきっと人類にとって、いや。全てのプレイヤーにとって大きな成長を促す。

 人は鳥のように羽ばたかずとも空を舞えるのだ。スキルに左右されずに、好きな時にそれが出来る。むしろそれができる前提で試練が組まれているとしたら?
 この先に待ち受ける者はそれぐらいしてくれなきゃ困る災厄だろうか。
 だとしたら困るなぁ。是が非でもここの情報を皆に知らせねば。だとしたら方針を早めなければならない。
 なんとしてもここをクリアしようと気持ちが逸る。


 攻略は難解を極めた。手にしたアイディアは確信。
 けれどちょうどぴったりの重さが得られずに四苦八苦した。
 軽すぎれば溶けてしまうし、重すぎれば重力圏からとき離れて真っ逆さまだ。
 スズキさん単独では軽い。
 気持ち軽くなったジキンさんを足してもまだ足りない。
 そこに探偵さんを加えたら重すぎた。

 比重が合わないのだ。

 程よい比重を求めて私達は挑戦を繰り返す。
 何度ログインとログアウトを繰り返したかわからない。
 そこで考え出したのが水操作で氷を生み出した重さを誤魔化すと言うものだった。
 そして足場の氷は水をかければ氷結し、重りの一部として使えるのを知った時、ようやく答えは導かれた。


「これだ!」


 探偵さんが叫ぶ。
 最善の一手。まず最初に第一歩を探偵さんが踏み出す。
 突然の急下降。
 雲を抜けたらジキンさんとスズキさんが乗り、探偵さんを移送で重力をゼロにする。
 そして水操作で土台にジャブジャブ水を注いで重さをちょうどいい位置まで上げて、あとはゴールまで歩いていくというものだ。
 道中エネミーが現れるが、全てシャドウ型。
 極光を覆うように雲がシャットアウトするが、影の空間が出来上がるのでシャドウ型が生息しやすいのかもしれない。
 氷の重しは時間経過で消費され、戦闘終了の度に再度水かけ運動を行う。
 こもより上に行きすぎず、雲から遠ざかりすぎずで対応する。
 そうして私達はゴールと思しき氷像の元へと辿り着いた。


 <よくぞこの場所へ辿り着いた。しかし本当のゴールは別にある>


 目を疑う文章が私の前に現れた。
 それを証明するように、そこから見える景色に赤の禁忌の姿は何処にもない。完全に雲に隠されてしまっていた。
 プレイヤーにとってのゴールはここでも、真・シークレットクエストをやってる私たちのゴールはここではないと言われたようなものだ。
 同時に鳴り響く電子音。それは称号獲得の通知だった。


[五の試練をクリアしました]


 そう、古代語が見える私にとってここはゴールでなくとも、古代語の見えないプレイヤーから見たらゴールだと錯覚してしまうアナウンス。
 クリアとはゴールの先にあるもので、普通に考えたらここより先には何もない。そうやって本来のルートから引き返させようと匂わす巧妙なトリックが古代人の手によって施されている。
 一般プレイヤーにとってのゴールは真・シークレットクエスト受領者にとっては中間地点に過ぎないのだ。
 それはともかくとして手に入れた称号を確認しておく。


[称号:重力の支配者を手に入れました]
 重力の支配者/特殊スキル:重力操作★
 自身の重さにかかわらず、0~100まで自由に操作できるようになる。自分の重さを中心に、離れすぎる事にAPを大きく消費する。


 つまり私の場合は0が基準値になるわけだ。
 重くなるにはAPの消費がより重くなる。
 これは今後も何処かで使いそうだね。
 ジキンさんやスズキさんが喜んでる。
 だって自由に空を飛べるようになったもんね。
 対して探偵さんは微妙な顔を浮かべていた。


「どうしたの、そんなにげんなりしちゃって」

「いや、十分にすごいんだけど、元の体重をベースにする分軽くなるのも、重くなるのも同じくらいの比重でAP消費するから損だなって。だったらまだ水操作で泳いだほうがマシだって思ってしまうんだ」

「でも一度重力を弄ったらずっとそのままなのでしょう? ダークマターでも食べて落ち着いてくださいよ」

「ありがとう。この調理アイテムには長く世話になるだろうね。見た目の割に美味しいのが普通にもったいないよなぁ」


 確かに見た目は炭だからね。真っ黒で、未知の味を想起させる。しかし食べたらサクサクとしていて、中からはプリンのようなトロッとしたゼリーが出てくるのだから驚きだ。
 食べる前と食べた後で全員が驚く顔で二度見すると言う意味ではみんながランダさんに騙されたと思っているに違いない。


「あの人は割とインパクトを重視する傾向にあるので」

「らしいですね。うちの妻もパワフルな方だと思ってたけど、あの人には敵わないや」

「いい加減、こっちに連れてきたらどうです?」

「んー、彼女も一応このゲームに在籍はしているんだけどね? 女性部って言うグループで。アキちゃんとかもかつて在籍してたとこの幹部を務めてます」

「え、もう居たんですか?」

「ちなみに服飾関連のデザイナーをしていてそれなりに忙しいそうだ。僕とは違ってね」

「じゃあ、こっちに連れてくると?」

「アキちゃんの仕事を奪っちゃうね、確実に。あの二人はちょっと一緒の空間に置いておきたくないな」

「じゃあ連れて来ないでください」

「ハハッ、言うと思った。だから連れてきてないよ。僕は少年のためを思って気を利かしていたんだ。わかってくれたかい?」

「そうですね。探偵さんも結構苦労してるのだと知れました」

「それで、このままゴールまで行く?」


 探偵さんもここがゴールじゃないのだと確信しているようだ。
 それに対して私は首を横に振る。


「よしておきましょう。私達だけで抱えるには重すぎる荷物が増えすぎた。ここらでばら撒くのも手かと」

「君は欲がないな」

「私は抱え込んで失敗するよりも、みんなで楽しんでこそゲームだと思っています。エンターテイメントですよ。私がイベントに関わり、それらを今楽しんでるプレイヤーに提供する。普通だったら独占を考えてしまうのでしょうが、本当だったら空にはもっと人が上がっていてもおかしくなかった」


 今空に上がっているプレイヤーは多くても数百人程度。
 最低でも1000人は上げたい。
 そのための起爆剤を私たちで用意する必要がある。


「少年の予測より少ないと?」

「思いの外旨みのある素材が少ないですからね。登るまでもないと判断されてしまったようです」

「そうだね、我々のようにロマンを求めるものならなんの見返りがなくともそこへ行く。だが、多くのプレイヤーは時間をかけただけの見返りを求めるよね?」

「嘆かわしいことにね。それが今の世代にとっての共通認識だ。だったらその世代に語りかける宣伝文句が必要だと思う」

「例えば?」

「もういっそ空の観光を売りにしてしまうか。飛行部に掛け合って、小型飛空艇のレンタルを始めるとかどうかな?」

「良いんじゃないの? 高すぎて買えないと嘆くプレイヤーも多いし。うちのクランも殆どカツカツでしょ?」

「ですねー、開発費にお金かけすぎですよ、あの人達」

「焚きつけた少年がそれを言う?」

「それを言われたら弱い」


 探偵さんと笑いあい、ひとまず私達は赤の禁忌へと舞い戻る。
 全員が空から降り立ったのを見てびっくりしていた妻達だったが、一皮向けた私達を迎えるように受け入れてくれた。
 同時に見知らぬプレイヤーが私たちを遠目にざわめく。

 単独で空を飛べるプレイヤーが珍しいだろうか?
 そんな珍しいが当たり前になるくらいに私達は行動する必要があった。
しおりを挟む
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...