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4章 お爺ちゃんと生配信
282.お爺ちゃんと図書館巡りツアー③
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スズキさんの正体はプレイヤーではなくNPCだった。
それも意識のある上位NPC。
ルルイエ異本の幻影、リリー。
それが依代を通じて私の側でサポートし続けてくれた彼女の本来の姿だと言う。
本当にどうしてこうなってしまうのか。
≪リリーさん、あなたは……何者ですか? いつからあなたになったんです? スズキさんは、彼女はあなたにとっていったいなんだったのですか?≫
理解を求める様に投げかける質問を、彼女は笑みを浮かべて紐解いていく。
≪スズキはわたくしが地上でマスターに相応しい方を探すための媒体でした≫
≪つまりあなたは最初からスズキさんの中の人だった?≫
≪その通りでございます≫
≪ならば私に近づいた目的はなんだ?≫
≪これは異な事をおっしゃいますね。マスターが直々にわたくしの元まで来てくださったのではないですか。人から嫌悪される素体に対し、フレンドになりませんかとお誘いくださったのはマスターですよ。もうお忘れになられましたか?≫
淡々と、それでいて凛と響く声で彼女は語る。
そうだ、人から避けられてる彼女とプレイヤーの間に立ったのは私だった。
見た目はどうあれ、中身は悪い非血ではないと判断してフレンドになった。
少しくらい打算もあった。
魚人プレイヤーなんてなかなか見ないし、フレンドになったら楽しい日々が待ってるだろうなんて気軽に考えていた。
≪そうか。ではリリー、質問を変えるよ。君の望みはなんだ? 私に何をさせたい?≫
≪何も≫
≪何もないと言うのか?≫
≪その通りでございます、マスター。すでにわたくしの宿願は達成されており、ルルイエは海上へと浮上しております。いつでも夫を迎え入れる準備ができております。ゆえにこうして幻影を通してお礼を言いに参ったのです。あわよくばわたくし共のマスターとして君臨していただきたく……≫
待て待て待って。話が大きすぎる。
既に例の遺跡は浮上した?
なのに一切騒がれていないのは何故だ。
それに召喚の儀式すら行われていない。
マスター不在でも召喚は可能なのか?
わからないことばかりだ。
≪私がマスターになれば、その大陸は人の国を攻め滅ぼすか?≫
≪いえ。共有の道を取るでしょう。既にお披露目は済ませておりますゆえ≫
≪お披露目?≫
≪マスターの配信によって我が眷属達と夫の誕生会をしたではありませんか。もうお忘れですか?≫
ああ、つまりあの竜宮城関連のイベント全てが……
≪さすが聡明なマスターでございますね。お察しの通り乙姫も我が眷属の一部にございます。竜宮城もまた≫
≪それを多くのプレイヤーの前で見せた。それで儀式は完了した?≫
≪儀式というよりもお披露目ですね。我らは争いを好まない。種族として認めていただければ良いのです。マスター、どうか我ら魚人族の手綱を握ってくださいませんか? さすれば眷属達も大喜びすることでしょう≫
≪もし断ったら?≫
≪悲しみに暮れるあまり、マスターと同じ種族に見境なく攻撃を仕掛けるやも知れません。なにぶんと知性の低いもの達でございますゆえ、上に立つ者が必要なのでございます。マスターであれば支配者として相応しい称号を揃えておりますので、我が眷属や夫も喜ばれることでしょう。如何でしょうか?≫
実質二択に見せかけた一択だ。
断れば第三勢力を作り、引き受ければ人類の敵扱いか。
いや、まだそうだと決まったわけでもないか。
ウチのクラメンの中でもとびきりヤンチャなスズキさん。
それ以上なヤンチャな住人がいるわけでもないのなら大丈夫だろう。
≪わかったよ。引き受けよう≫
≪流石マスターです。このリリー、心身ともにマスターの補助に努めさせて……≫
≪その代わり条件がある≫
まるでこのままどこかに飛んでいってしまうほどに軽やかなステップを踏んで踊り始めるリリーに、私は被せる様にして釘を刺す。
≪そのマスターと呼ぶのを辞めてほしい≫
≪ですが……≫
≪それとその姿もやめて。孫に誤解されるから、そういうのは困るんだ。今までのスズキさんの姿の方が安心する≫
数秒の逡巡。少しの葛藤を交えてリリーは再びタイの魚人を依代に意識を通して私の前に現れた。
≪これで、宜しいでしょうか?≫
≪うん。それとやり取りはいつも通りにするからね。スズキさんもそのつもりで≫
≪せっかくあの姿のお披露目でしたのに。もうリリーとは呼んでくださらないのですか?≫
≪望んでないよ、こっちは。それにスズキさんからのお願いだったら二つ返事で受けていたよ。君はさ、サプライズのつもりだったかも知れないけど衝撃の事実の連続で私はひどく心を痛めた。もう二度とこんなことしちゃダメだからね?≫
≪はい……≫
スズキさんはシュンとしながらその場で正座して俯いた。
私ははアンブロシウス氏に振り返り、言葉を投げかける。
≪いや、待たせてしまって済まない。次に進もうか≫
「アキカゼさん、あんな有耶無耶な感じでマスターになる事を決めてしまってよかったのか?」
ほら見なさい。アンブロシウス氏も呆れてしまっているよ。
≪仕方ありませんよ。乗りかかった船というやつです。しかも気がついたら片足どころか首まで使ってたんですよ? 遅かれ早かれ私が彼女達の飼い主になってやらねばいけないでしょう。ホイホイと仲間に引き込んでしまったケジメですからね」
「リリーさん、焦り過ぎましたね?」
≪おかしいなぁ、本当だったらもっと上手くいくはずだったのに。どこで間違えたかなぁ?≫
少し離れた場所では、依代越しにスズキさんとセラエ君が魔導書トークに花を咲かせていた。
逆にあそこまで逃げ道塞いでこられたら縦に降りようがないんですよね。そういうところの詰めは甘いんですから。
逆にそこがスズキさんらしいですけどね。
良かった。
中身は変わってないと知れて少し安堵する私がいる。
≪あなたは普段通りおちゃらけていてください。お願いくらい聞きますから、変に張り切らなくて良いですからね?≫
「だ、そうですよ?」
≪うう、キャラを深く作りすぎたのが敗因ですか。今はあきらめましょう。ですがいずれ≫
「頑張ってくださいね。それでもなんだかんだ支えてくださっているので脈はあるんですよね?」
≪それはもうバッチリですよ。ふふ、ちょっとライバル登場で焦り過ぎちゃいましたね。という事でハヤテさんは僕が先に唾つけてますので取っちゃダメですよ?≫
「私はプロフェッサー一筋なのでそれこそ取り越し苦労でしたね?」
≪むむぅ、パーティーのリーダー権渡す時に少し靡いたりしてませんでしたか≫
「貴方は勘ぐりすぎなんですよ。悪い癖ですよ」
≪あー、お茶を濁した! あーやしーいなー≫
「ふふ、ほらせっかく正体を明かしたんですからパートナーとして側を歩きませんと」
≪あー、待ってくださいよー≫
会話を聞く限りでは、口調を戻してもスズキさんであることは変わりないことが窺い知れる。
変に知的で、ロマンチストで、そしていつも側にいてくれる。
何故彼女がそこまで私を気にいるのかわからないことばかりだったけど、『魔導書』の特性なのだと知ったらストンと腑に落ちた。彼女が彼女である理由。
そして願いは規模が大きくなったところで変わらない。
見た目が受け入れ難い魚人の復興。
それだけなのだ。
「そういえばサハギンタイプって他に見ないよね? スズキさんだけだったりする?」
地上に戻り、肺呼吸をしながら最近手に入れた魔導書に尋ねてみる。
「そうですね。あんまり数動かすと群に紛れるのでこの身体を動かす時は意図的に他の個体の活動は控えてますね」
「そっか。君、目立ちたがり屋だもんね」
「ちょ、酷いなぁ」
「事実じゃない? 全然魔導書っぽくないよそういうところ」
「うぅ、気にしてるんだからあまり突かないでくださいヨォ」
「ふふ、仲が良いね君達は」
「私はそこまで距離を詰められないから少し羨ましいですね」
とは言え親子の距離感で並ぶ彼らも随分と仲が良さそうに見えるけどね。
「そういえばコメント欄、止まってるね。スズキさん、サプライズする前に止めたりした?」
「ヤベッ」
心当たりがあった様だ。
すぐに何かコンソールを平って弄ると、すぐにコメントが流れ出す。
コメントから察するに、どうも数分タイムラグが発生していた様だ。コメントを書き込んでも送信できず、動画は用水路に向かったあたりで完全に停止。
いつの間にか登場していたスズキさんに対するコメントもいくつか拾う。
【あれ、魚の人いつの間に?】
「ここは僕のホームスポットだし? 居てもおかしくなくない?」
【ドブに住んでるのかよお前】
【くさそう】
【お風呂入ってから出直して来てください】
「大丈夫、臭くないよ(引き摺り込む準備中)」
【あ、この人道連れにしようとしてるぞ!】
【逃げろ! 妖怪ドブ落としだ!!】
【本当に居そうだから困る】
「悪ぃー子はいねがー」
キャッキャとはしゃぐ彼女を見ながら、本当にあれが作ったキャラなのかと考え込む。
アンブロシウス氏が右肩をポンと叩き、首を左右に振った。
「私には理解できないが。まぁ、お似合いだよ」
ちょっと、見捨てないでくださいよ!
ちょっとーー。
それも意識のある上位NPC。
ルルイエ異本の幻影、リリー。
それが依代を通じて私の側でサポートし続けてくれた彼女の本来の姿だと言う。
本当にどうしてこうなってしまうのか。
≪リリーさん、あなたは……何者ですか? いつからあなたになったんです? スズキさんは、彼女はあなたにとっていったいなんだったのですか?≫
理解を求める様に投げかける質問を、彼女は笑みを浮かべて紐解いていく。
≪スズキはわたくしが地上でマスターに相応しい方を探すための媒体でした≫
≪つまりあなたは最初からスズキさんの中の人だった?≫
≪その通りでございます≫
≪ならば私に近づいた目的はなんだ?≫
≪これは異な事をおっしゃいますね。マスターが直々にわたくしの元まで来てくださったのではないですか。人から嫌悪される素体に対し、フレンドになりませんかとお誘いくださったのはマスターですよ。もうお忘れになられましたか?≫
淡々と、それでいて凛と響く声で彼女は語る。
そうだ、人から避けられてる彼女とプレイヤーの間に立ったのは私だった。
見た目はどうあれ、中身は悪い非血ではないと判断してフレンドになった。
少しくらい打算もあった。
魚人プレイヤーなんてなかなか見ないし、フレンドになったら楽しい日々が待ってるだろうなんて気軽に考えていた。
≪そうか。ではリリー、質問を変えるよ。君の望みはなんだ? 私に何をさせたい?≫
≪何も≫
≪何もないと言うのか?≫
≪その通りでございます、マスター。すでにわたくしの宿願は達成されており、ルルイエは海上へと浮上しております。いつでも夫を迎え入れる準備ができております。ゆえにこうして幻影を通してお礼を言いに参ったのです。あわよくばわたくし共のマスターとして君臨していただきたく……≫
待て待て待って。話が大きすぎる。
既に例の遺跡は浮上した?
なのに一切騒がれていないのは何故だ。
それに召喚の儀式すら行われていない。
マスター不在でも召喚は可能なのか?
わからないことばかりだ。
≪私がマスターになれば、その大陸は人の国を攻め滅ぼすか?≫
≪いえ。共有の道を取るでしょう。既にお披露目は済ませておりますゆえ≫
≪お披露目?≫
≪マスターの配信によって我が眷属達と夫の誕生会をしたではありませんか。もうお忘れですか?≫
ああ、つまりあの竜宮城関連のイベント全てが……
≪さすが聡明なマスターでございますね。お察しの通り乙姫も我が眷属の一部にございます。竜宮城もまた≫
≪それを多くのプレイヤーの前で見せた。それで儀式は完了した?≫
≪儀式というよりもお披露目ですね。我らは争いを好まない。種族として認めていただければ良いのです。マスター、どうか我ら魚人族の手綱を握ってくださいませんか? さすれば眷属達も大喜びすることでしょう≫
≪もし断ったら?≫
≪悲しみに暮れるあまり、マスターと同じ種族に見境なく攻撃を仕掛けるやも知れません。なにぶんと知性の低いもの達でございますゆえ、上に立つ者が必要なのでございます。マスターであれば支配者として相応しい称号を揃えておりますので、我が眷属や夫も喜ばれることでしょう。如何でしょうか?≫
実質二択に見せかけた一択だ。
断れば第三勢力を作り、引き受ければ人類の敵扱いか。
いや、まだそうだと決まったわけでもないか。
ウチのクラメンの中でもとびきりヤンチャなスズキさん。
それ以上なヤンチャな住人がいるわけでもないのなら大丈夫だろう。
≪わかったよ。引き受けよう≫
≪流石マスターです。このリリー、心身ともにマスターの補助に努めさせて……≫
≪その代わり条件がある≫
まるでこのままどこかに飛んでいってしまうほどに軽やかなステップを踏んで踊り始めるリリーに、私は被せる様にして釘を刺す。
≪そのマスターと呼ぶのを辞めてほしい≫
≪ですが……≫
≪それとその姿もやめて。孫に誤解されるから、そういうのは困るんだ。今までのスズキさんの姿の方が安心する≫
数秒の逡巡。少しの葛藤を交えてリリーは再びタイの魚人を依代に意識を通して私の前に現れた。
≪これで、宜しいでしょうか?≫
≪うん。それとやり取りはいつも通りにするからね。スズキさんもそのつもりで≫
≪せっかくあの姿のお披露目でしたのに。もうリリーとは呼んでくださらないのですか?≫
≪望んでないよ、こっちは。それにスズキさんからのお願いだったら二つ返事で受けていたよ。君はさ、サプライズのつもりだったかも知れないけど衝撃の事実の連続で私はひどく心を痛めた。もう二度とこんなことしちゃダメだからね?≫
≪はい……≫
スズキさんはシュンとしながらその場で正座して俯いた。
私ははアンブロシウス氏に振り返り、言葉を投げかける。
≪いや、待たせてしまって済まない。次に進もうか≫
「アキカゼさん、あんな有耶無耶な感じでマスターになる事を決めてしまってよかったのか?」
ほら見なさい。アンブロシウス氏も呆れてしまっているよ。
≪仕方ありませんよ。乗りかかった船というやつです。しかも気がついたら片足どころか首まで使ってたんですよ? 遅かれ早かれ私が彼女達の飼い主になってやらねばいけないでしょう。ホイホイと仲間に引き込んでしまったケジメですからね」
「リリーさん、焦り過ぎましたね?」
≪おかしいなぁ、本当だったらもっと上手くいくはずだったのに。どこで間違えたかなぁ?≫
少し離れた場所では、依代越しにスズキさんとセラエ君が魔導書トークに花を咲かせていた。
逆にあそこまで逃げ道塞いでこられたら縦に降りようがないんですよね。そういうところの詰めは甘いんですから。
逆にそこがスズキさんらしいですけどね。
良かった。
中身は変わってないと知れて少し安堵する私がいる。
≪あなたは普段通りおちゃらけていてください。お願いくらい聞きますから、変に張り切らなくて良いですからね?≫
「だ、そうですよ?」
≪うう、キャラを深く作りすぎたのが敗因ですか。今はあきらめましょう。ですがいずれ≫
「頑張ってくださいね。それでもなんだかんだ支えてくださっているので脈はあるんですよね?」
≪それはもうバッチリですよ。ふふ、ちょっとライバル登場で焦り過ぎちゃいましたね。という事でハヤテさんは僕が先に唾つけてますので取っちゃダメですよ?≫
「私はプロフェッサー一筋なのでそれこそ取り越し苦労でしたね?」
≪むむぅ、パーティーのリーダー権渡す時に少し靡いたりしてませんでしたか≫
「貴方は勘ぐりすぎなんですよ。悪い癖ですよ」
≪あー、お茶を濁した! あーやしーいなー≫
「ふふ、ほらせっかく正体を明かしたんですからパートナーとして側を歩きませんと」
≪あー、待ってくださいよー≫
会話を聞く限りでは、口調を戻してもスズキさんであることは変わりないことが窺い知れる。
変に知的で、ロマンチストで、そしていつも側にいてくれる。
何故彼女がそこまで私を気にいるのかわからないことばかりだったけど、『魔導書』の特性なのだと知ったらストンと腑に落ちた。彼女が彼女である理由。
そして願いは規模が大きくなったところで変わらない。
見た目が受け入れ難い魚人の復興。
それだけなのだ。
「そういえばサハギンタイプって他に見ないよね? スズキさんだけだったりする?」
地上に戻り、肺呼吸をしながら最近手に入れた魔導書に尋ねてみる。
「そうですね。あんまり数動かすと群に紛れるのでこの身体を動かす時は意図的に他の個体の活動は控えてますね」
「そっか。君、目立ちたがり屋だもんね」
「ちょ、酷いなぁ」
「事実じゃない? 全然魔導書っぽくないよそういうところ」
「うぅ、気にしてるんだからあまり突かないでくださいヨォ」
「ふふ、仲が良いね君達は」
「私はそこまで距離を詰められないから少し羨ましいですね」
とは言え親子の距離感で並ぶ彼らも随分と仲が良さそうに見えるけどね。
「そういえばコメント欄、止まってるね。スズキさん、サプライズする前に止めたりした?」
「ヤベッ」
心当たりがあった様だ。
すぐに何かコンソールを平って弄ると、すぐにコメントが流れ出す。
コメントから察するに、どうも数分タイムラグが発生していた様だ。コメントを書き込んでも送信できず、動画は用水路に向かったあたりで完全に停止。
いつの間にか登場していたスズキさんに対するコメントもいくつか拾う。
【あれ、魚の人いつの間に?】
「ここは僕のホームスポットだし? 居てもおかしくなくない?」
【ドブに住んでるのかよお前】
【くさそう】
【お風呂入ってから出直して来てください】
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【あ、この人道連れにしようとしてるぞ!】
【逃げろ! 妖怪ドブ落としだ!!】
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