【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴

文字の大きさ
364 / 497
5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

321.お爺ちゃんののんびり撮影旅行⑤

しおりを挟む
「どこから回ります?」

「気になっているのはマナの大木だけど、先に街を回ろうか。普通の銀鉱脈が近くにあるらしいけど、そこも行ったことないんだよね」

「行くところがたくさんあってお得ですね!」

「普通に遊んでたらこうはならないはずなんだけど、私たちにとっては都合がいいか」


 街に入る前にカメラのシャッターを切る。
 もりもりハンバーグ君も言っていたように、下からの景色も残しておいた方が後で比べた時などに違いがわかりやすいからね。
 空からの景色に見慣れている分、下からの景色は貴重になりつつあった。

 そして街に入る前、見知った物体が門の前でだらけていた。


「あれ、アキカゼさんくま?」

「やぁくま君。散歩?」

「くまー、ちょっと正義のヒーローごっこしてたくま」


 そこにはジキンさん家の三男坊の森のくま君がが街の門の前で日向ぼっこ(?)をしていた。

 そしてその目がスズキさんを捉えてじゅるり、と唾液を垂らす。口調こそは気さくでありながら、スズキさんに送る視線が肉食獣のそれへと変貌している。


「この子はうちの身内なので食べちゃダメですよ?」

「残念くまー。美味しそうな香りがするくま。お腹が空いてきたくまー」


 今のスズキさんはサハギンスタイル。
 だからかどうかは知らないけど、私の背中に隠れるようにして、袖にしがみついていた。
 そういえばムッコロさんにも苦手意識持ってたような?
 プレイヤーの野生種には何か秘密でもあるんだろうか?
 
 それはさておき、話をスズキさんから離すべく話題を振る。


「そういえばくま君はPK活動してたんでしたっけ?」

「厳密にはPKKくま。レッドネーム以外には優しいくまさんくまー」


 その場でガッツポーズを取って見せるくま君。
 しかしリアルそっくりの彼が愛嬌よく語ったところで怖さは微塵も隠せてない。子供が目にしたら泣きそうだ。


「君の厳つさの前には子供も泣き出すんじゃないかな?」

「痛いところを突かれたくま。お陰で娘はまだ呼べそうもないくまね。リアルと違いすぎてギャン泣きされそうくま」


 いや、君のリアルは知らないんだけど。
 ジキンさん曰く優男らしいけど、こっちの姿しか知らないんだよね。リアルのジキンさんは狸親父だけど。


「それがいいよ。しかしヒーロー活動とはね、その腰に巻かれたベルトも関係してるのかな?」


 そこには魔導書の系列らしきベルトが巻かれている。
 毛皮の中に埋まるように、しかし太陽光を弾き返すベルトは禍々しい気配を漂わせていた。


「全く見に覚えがないくまけど……きっと正義の心に反応してると思ってるくま」

「ベルトが巻かれただけでは参加資格になりませんからね」

「そうくま?」


 スズキさんが補足を入れる。
 くま君自体は特に興味なさそうにしている。
 イベント云々より、ごっこ遊びができれば満足らしい。
 これ以上身内で参加されたら、スーパー身内合戦が勃発してしまう。彼には諦めてもらうように諭そう。


「確か神格召喚してやっとなんだっけ?」

「ゲートキーパーから認知されませんといけませんからね」


 ゲートキーパーと言うと、ミ=ゴの民か。
 確かにあの人達と出会って削れないほどの正気度、恐怖耐性は必要だもんね。


「よくわかんないけど、くまの正義活動の障害にならないんならいいくまね」

「君は誰かの正義に踊らされるより、自分の正義を貫く方がお似合いだよ」

「くま! やっぱりアキカゼさんはわかってるくま!」


 その通り、と言うようにくま君は立ち上がり、森の方へ四足歩行で駆けて行った。
 流石野生種。動きに人間らしさがまるでない。
 でもああいう無駄な行動している人に案外フレーバーが蓄積したりするんだろうね。
 そんな気がしてならない。


「ふー、生きた心地がしませんでした」


 スズキさんがコートが皺になるくらい強く握りしめていた手を離した。
 いまだに肌を震わせている。そんなに怖かった?


「ああ見えていい子なんだけどね」

「僕を見る目は捕食者のそれでしたよ?」

「多分本能的なやつなんだろうね」

「当分森には近寄れそうもありません」


 テュポーン戦では自ら捕食されに行ったのに、何が違うんだろう? テュポーンとくま君。前者と後者では前者の方が圧倒的に怖いのに、何故か彼女はくま君に怯えた感情を示した。
 プレイヤーとNPCで何かあるのだろうか?
 ともあれ怯える彼女を押して森に行く必要はない。


「そうだね、森は後回しにしようか」

「それがいいですよ!」


 元気になったスズキさんに引っ張られながら私達は歩き出す。
 街のバザーで銀製品を大人買いしたり、魚類にならないかの勧誘をして断られたりしながらあちこち撮影していく。

 隣ではソフトクリームを手にしたスズキさんが美味しそうの頬張っている。その絵面が面白いので思わずカメラを向けてしまったが本人は気にしてないようだ。
 もしこれがルリーエの姿だったら様になるが、マリンに注意されかねないのでそっと胸の内にしまっておく。


「さて、街の中は特にこれといった風景はなかったね」

「領主邸の奥は行かないんですか?」

「以前行ったからね。それよりも私たちの尾行をしている人達に出てきてもらおうか」


 くるりと後ろを振り返り、先程から私達の後ろをついて回っていた下手人に出てくるように声をかける。
 そこで出てきたのは……探偵さんと見知らぬプレイヤーだった。


「やぁ少年。奇遇だね」

「初めまして。僕はこれこれこう言うもので」


 名刺のようなものを受け取り、拝見する。
 そこにはこう書いてあった。


 >>0001の人、と。
 意味がわからないので尋ねてみると、探偵さん曰く彼は聖魔大戦の掲示板に初書き込みをした人で、情報をまとめているプレイヤーらしい。
 本人もベルト所持者で、探偵さんに押しかけて話を聞いてる時に私の姿を発見して悪いとは思いつつも尾行をしてたとかなんとか。


「だったら普通に声をかけてくれたらいいじゃないの。私そこまで無碍にしないよ?」

「僕はそうした方がいいと提言したんだよ? けど彼が少年は放っておいた方が大発見をするだろうからついていきましょうと言うんだ」

「それはありますねぇ」

「だよね?」


 何故かスズキさんが話に加わり、私をディスりはじめる。
 君、どっちの味方なの?


「それより少年はセカンドルナまで何をしに? 今週は配信はお休みなのかな? 僕としてはそれを楽しみにしてるところもあったのに」

「そう言う探偵さんだって乗り物の管理はしなくて平気なの? サブマスターが人が来なさすぎてやけ食いしてたけど」

「ああ、うん。セーブ枠が増えて乗り物枠とは別にパワードスーツを開発運用しててさ。その性能テストも兼ねてこうして古代獣を巡っているのさ。彼はその時に声をかけられてね」

「顔見知りというわけじゃないんだ?」

「初見だよね?」

「です! 機関車の人から直々にお話が聞けて大変参考になりました」

「はぁ、全くしょうがない人達だ。私はただ撮影旅行がしたかっただけなのに。カメラを作ってくれたプレイヤーさんの為にも、趣味の撮影に注力できると思って配信は一旦辞めてるんだ」

「あ、そういう企画?」

「それじゃあ邪魔するのも悪いですね」

「まぁ、こちらが探さなくても向こうから怪異が寄ってくるからね。丁度いい、君たち肉盾になってくれない? その間私は撮影に集中するから」

「そんな誘いで乗ってくるプレイヤーが居るとでも?」


 探偵さんは嬉しそうにハンチング帽を目深に被り直す。


「そうですよ、普通は辞退します」


 >>0001氏も居住まいを正してにこやかに向き直る。
 なんだろうね、この開き直りの良さ。
 ベルト所持者ってみんな変わり者ばかりなのかな?


「そう言いつつ二人とも乗り気じゃないですか?」

「そりゃ、ねぇ? こんな好機逃す方がどうかしてますよ」

「何しろ僕たちは普通じゃない。ベルト所持者だからね。どんな怪異でもどんとこいだ!」

「何でもかんでも来られたら困りますけど、向こうから寄ってくるのなら手間が省けるというものです。アキカゼさんの探索能力、拝見させて貰います!」

「こっちはただ写真を撮影したいだけだからね。何も出なくても文句言わないでよ?」

「はいはい、素振り素振り」

「なんでスズキさんも向こう側の肩持つの?」

「すでに二つも地雷踏み抜いた後ですからね。持ってるってわかってますから」


 探偵さんと>>0001氏の表情がニヤニヤとした気がする。
 ほらー、変に興味持たれちゃったじゃないの。
 これ以上厄介なことなんて懲り懲りだよ?
しおりを挟む
感想 1,316

あなたにおすすめの小説

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり
ファンタジー
【書籍化!】第17回ファンタジー小説大賞『癒し系ほっこり賞』受賞作です。 (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~』です) ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様でも公開しております。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...