去りし記憶と翡翠の涙

箕田 はる

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第四章

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 天野の部屋で布団を敷いたヒスイに促され、天野は向き合って布団の上に鎮座した。
 窓から差し込む光はなく、燭台に建てられた蝋燭の火がぼんやりと辺りを照らすだけだった。

「疲れてるんだろ? 横になれ」

 ヒスイに促されるも、天野は首を横に振り静かに口を開く。

「僕は……二人に最低な事をしようとしたのです。父と同じで僕もーー」

 言いかけたところで、天野は口を塞がれる。体温を奪うような冷たく、柔らかい感触。間近に迫った翡翠色の瞳。柔らかな甘い香り。ヒスイに掴まれている肩からも、熱が奪われていくようだった。

「んっ……」

 久々に感じる唇の合わさる感触に、天野は言葉を飲み込み瞼を閉じる。
 啄むように口づけを交わすうちに、ヒスイがゆっくりと天野を布団に横たえた。

「もう良いから……」

 ヒスイが優しげ手付きで、天野の頬を滑っていく。
 淡い朱色の光に照らされたヒスイの顔を天野は見つめる。ヒスイは何処か痛々しいものでも見るように、悲しげな表情をして天野を見下ろしていた。

「俺が悪かったんだ。お前が追い詰められていた事は分かっていたのに……お前を抱いた後、俺は後悔した。人間に恋情を抱いたところで、辛い思いをするだけだと――だから突き放した。そしたらお前は日に日にやつれていった挙句、家を飛び出して――」

 ヒスイ手が、天野の頬から首筋へと降りていく。くすぐったいその感触に天野は、小さく喉を鳴らす。

「お前の過去の話を聞いた時、俺は自分を責めた。優しくしてやれば、あの場所に行って記憶を取り戻さなかったのかもしれない。だから俺は贖罪として、自分の記憶と引き換えにでもお前の苦悩を取り除きたいと思ったんだ」

 冷たい指先が鎖骨に触れ、浴衣の合わせ目に入り込む。

「ふっ……あっ……」

 天野は堪らず微かな吐息を零すも、官能的な指の動きとは対照的にヒスイの口調は固い。

「でも間違っていたのかもしれない。お前は俺が記憶をなくしたことに罪悪感を覚えて、またしても自分を責め始めた。好いているからそうしたと言っても、お前は納得しなかった」

 浴衣に入り込んだ手が、天野の胸を優しく撫で回す。冷たい手の感触に、天野は小さく背を反らす。

「っん……はぁっ……」

「好いているという言葉だけじゃ、お前は納得しないのか? 好いているからこそ、一緒に居るのが辛いのだと分からないのか?」
「あっ、いやっ……」

 指先で胸の突起を摘まれ、堪らず天野は嬌声を上げる。 
 嬌声を飲み込むように、ヒスイの切なげな顔が近づくと唇が重なった。舌を差し込まれ、火照った口腔の熱を奪い去っていく。
 溢れる吐息と唾液を掻き混ぜる卑猥な音が、嫌というほど耳についた。
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