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しおりを挟む「あの人には言って来たんですか?」
鳴河の問いに、水瀬は「言ったよ」と漏らす。
「ふーん。よく許可が下りましたね」
「……ただ友達と食事するだけなんだから、駄目とは言われないよ」
駅から離れ、少しずつ住宅が増えてくる。
一体、何処に向かうつもりなのか、検討もつかなかった。
「どこに行くつもりなんだ?」
「ここですよ」
そう言って、立ち止まった鳴河の視線を水瀬は追う。
一件の高層マンションを前にして、水瀬は狼狽える。まさか家に呼ばれるとは、予想外だった。
「俺の作ったカレー、理玖さん好きでしたよね。だから用意しておいたんですよ」
入り口でオートロックを解除し、先だって歩く鳴河に続き、水瀬もマンション内に足を踏み入れる。
「食事したら、帰るから」
エレベーターに乗りながら、水瀬は呟く。
鳴河はそれに対しては答えず、十階のボタンを押した。
部屋に案内され、水瀬は部屋に上がり込む。このことを久賀が知ったらどう思うかと、そればかりが脳裏を占めていた。
「座っててください。すぐに用意出来ますから」
「手伝うよ」
「お客さんなんだから、気にしないでください」
「……分かった。じゃあ、お願いするよ」
水瀬が椅子に腰掛けると、鳴河が冷蔵庫から取り出したビールを目の前に置く。
対面キッチンになっていて、ダイニングテーブル越しに鳴河の姿が見えた。
「俺、またこうして、理玖さんの為に料理が出来ることが嬉しいんです」
つまみとして出されたのは、アボカドとサーモンの和え物だった。
「お店でも夜のお通しで出したら、評判だったんです」
どうぞと勧められ、水瀬は箸を取る。口に運ぶと、ツーンとしたわさび
の辛さが鼻をつく。
「美味しいよ」
水瀬は素直に口にする。
「理玖さんにずっと、食べさせたいって思ってたんです」
「今は……料理人になったの?」
決まり悪さから水瀬は、話を逸らす。
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