愛に縛られ、愛に溺れる

箕田 悠

文字の大きさ
上 下
73 / 121

73

しおりを挟む

 二本目のディスクに入れ替えようと、水瀬は腰を上げかける。そこで久賀に腕を掴まれ、水瀬はぎょっとして動きを止める。

「話がある」

 見上げる久賀の目はどこか険しい。背中に嫌な汗が流れ、心臓がバクバクと打つ。

「……なんですか」

 水瀬はソファに腰を下ろす。固唾を飲んで久賀を見つめる。久賀は一つ息を吐き出すと、髪をかき上げた。

「少しの間なんだが……来月から日曜日に会えなくなる」

 想像とは違う話の内容に、水瀬は口を開ける。

「悪い……ちょっと予定が出来てしまって……」
「分かりました」

 珍しく歯切れの悪い久賀に疑問を抱くも、水瀬は了承する。自分も後ろ暗い秘密を抱えれているせいか、問い詰めることなど出来なかった。
 それに久賀のことだから、浮気とかじゃないという妙な自信もあった。

「……悪いな」
「いいんです。その代わり、金曜の夜と土曜日は、出来るだけ一緒に過ごしてくださいね」

 水瀬としても、鳴河の関係が解決しない限り、久賀とずっと顔を合わせるのも正直辛かった。その点では少しでも離れる時間があれば、考える時間も作れるように思える。
 寂しい気持ちもある。だが、久賀の表情が浮かないところからして、やむにやまれない事情があることも分かっていた。
 ふいに久賀の手が、水瀬の顔に触れる。唐突に顔が近づき、唇が重なり合う。一瞬身体が強ばるも、水瀬はされるがままに受け入れる。
 その流れで久賀が、水瀬に覆い被さろうと肩を抱く。ソファに背がつきかけた所で、水瀬ははっとして久賀の肩を押した。

「……水瀬」

 明らかに傷ついた顔をする久賀に、水瀬は「ちょっと今日は」と言って身を起こす。どう弁解するべきか悩んでいる間もなく、久賀が「すまない」と謝った。

「氷を取ってくる」

 水瀬が弁解する余地もなく久賀は立ちあがるなり、キッチンへと行ってしまう。
 ガシャガシャという氷を掬う音を聞きながら、水瀬は自分の手首を掴んだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

性感マッサージに釣られて

恋愛 / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:17

目を開けてこっちを向いて

BL / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:193

あみだくじで決める運命【オメガバース】

BL / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:163

突然訪れたのは『好き』とか言ってないでしょ

BL / 完結 24h.ポイント:355pt お気に入り:24

あの年が過ぎても僕らは

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

あなたにはもう何も奪わせない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:48,112pt お気に入り:2,728

天使の分け前

BL / 完結 24h.ポイント:967pt お気に入り:1,854

処理中です...