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しおりを挟む二本目のディスクに入れ替えようと、水瀬は腰を上げかける。そこで久賀に腕を掴まれ、水瀬はぎょっとして動きを止める。
「話がある」
見上げる久賀の目はどこか険しい。背中に嫌な汗が流れ、心臓がバクバクと打つ。
「……なんですか」
水瀬はソファに腰を下ろす。固唾を飲んで久賀を見つめる。久賀は一つ息を吐き出すと、髪をかき上げた。
「少しの間なんだが……来月から日曜日に会えなくなる」
想像とは違う話の内容に、水瀬は口を開ける。
「悪い……ちょっと予定が出来てしまって……」
「分かりました」
珍しく歯切れの悪い久賀に疑問を抱くも、水瀬は了承する。自分も後ろ暗い秘密を抱えれているせいか、問い詰めることなど出来なかった。
それに久賀のことだから、浮気とかじゃないという妙な自信もあった。
「……悪いな」
「いいんです。その代わり、金曜の夜と土曜日は、出来るだけ一緒に過ごしてくださいね」
水瀬としても、鳴河の関係が解決しない限り、久賀とずっと顔を合わせるのも正直辛かった。その点では少しでも離れる時間があれば、考える時間も作れるように思える。
寂しい気持ちもある。だが、久賀の表情が浮かないところからして、やむにやまれない事情があることも分かっていた。
ふいに久賀の手が、水瀬の顔に触れる。唐突に顔が近づき、唇が重なり合う。一瞬身体が強ばるも、水瀬はされるがままに受け入れる。
その流れで久賀が、水瀬に覆い被さろうと肩を抱く。ソファに背がつきかけた所で、水瀬ははっとして久賀の肩を押した。
「……水瀬」
明らかに傷ついた顔をする久賀に、水瀬は「ちょっと今日は」と言って身を起こす。どう弁解するべきか悩んでいる間もなく、久賀が「すまない」と謝った。
「氷を取ってくる」
水瀬が弁解する余地もなく久賀は立ちあがるなり、キッチンへと行ってしまう。
ガシャガシャという氷を掬う音を聞きながら、水瀬は自分の手首を掴んだ。
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