チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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143 彼の受けた衝撃

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最近は陽が昇るのが本当に早くなった。

この季節は明るい時間が多くて得した気分だ。こうして朝の日課である水遣りも1時間前倒しに出来る。つまりそれは他にまわせる時間も増えると言うことで…


…ィン…

「うん?何の音…?」

気のせいか…。
くどいようだが田舎の子は耳が良い。でも物音に過敏になるのはいつまでも警戒心が解けないからだ。
早く全てを解決して安らかに眠りたい…、しまった、縁起でもない…。

だけど相手が仕掛けてこない以上こちらからは何も出来ない。ここは法治国家だ。…これまでだって一応…。
今まではともかく大公が聖王となった今、親友である僕が法を破る訳にはいかない。大義名分が必要なのだ。アデリーナを退治するにしたって大義名分が。

だが何か証拠をつかんだその時は…








「アッシュ様、水やりは終えられましたか?ユーリウス様がお呼びです」
「ありがとうダリ。すぐ行くよーって伝えてくれる?」

「かしこまりました」


アレクシさんが家令へと華麗に転身を決めたことで、カイとダリは大公邸からこのリッターホルムに戻って来た。
あとはユーリについて実地で経験値をあげてもらうしかない。今はまだ見習い従者だけどね。
月の美神のようなユーリの側に子供従者が二人…、眼福だ…。お仕着せを着た子供ってなんて可愛いんだろう。

それにしても珍しいな。ユーリが水やりの最中に呼び出すなんて…



「アッシュ、コーネイン家の馬が見当たらないのだが何か見かけたかい?」

「ヘンリックさんちの馬?え?何も見かけてないよ?どうしたって?」

「今朝早くに厩舎から馬が消えた。自分の不手際だとコーディーが気に病んでいる。」

「あ…、さっきの…あれ馬の声…?1時間くらい前に声聞いたかも。敷地内に居るならすぐ見つかるよ」


コーディーさんは代々このリッターホルムに仕えてきた御者の家族のお父さんだ。ユーリの毒素騒動の時に逃げ出した奥さんを除いて、3人の息子たちと力を合わせて非常に献身的に仕えてくれている。とても真面目で朴訥な、信頼のおける人だ。

不手際で馬が逃げ出したって…?考え難いな。


「ボーイたちは探しに出したんでしょ?朝食がすんだら僕も行くよ」
「…フォレストに行くついでで良い。気に留めておいてくれ」


朝食も終わり細々した雑用をこなしながら昼食にはサンドイッチでも作ってフォレストで食べようかなぁ…なんて考えてた時だ。そこにそわそわしたノールさんがやって来たのは。


「アッシュ君、うちのロビンどこかに行くって言ってた?お昼前には出かけるって言っておいたのにいつまでも帰って来ないんだ。もう正午だよ…」
「どこも何も今朝は会ってないけど?」

「え?でも明け方「少し用を済ませたら君の水やりを手伝いに行く」と言って寝台を出て行ったんだけど…」
「…来てないよ。」



大慌てで屋敷中のボーイに確認を取ったところ彼は確かに部屋を出て花壇のある裏庭へと向かっていたようだ。だがそこから先の足取りが、突如としてぷつりと切れた…。


「ど、どうしよう…、まさかアッシュ君の時みたいに…」
「ノール、しっかりするんだ。君が狼狽えてどうする!」
「ヘンリック…でも…」

「かどわかし?だが彼は朝まで間違いなく屋敷に居たのだろう?屋敷に不審な人間は居ない。アッシュの件があってから塀は補強を済ませたし屋敷の安全には細心の注意を払っている。その為に下働きの末端まですべてヴェストが把握しているんだ」

「私にも把握できない人間は居ます。本日で言えばコーネイン家の御者です。もちろん彼は本邸で寝泊まりはしていませんが同じ敷地の中におりました」

「ヴェスト…、我が家の御者を疑うつもりか?」

「ヘンリックさん、悪いけど僕は人情で判断しない。疑いはしないけど信じることもしない。まずは確認だ」



そうして向かった厩舎。そこにコーネイン家の御者は居なかった。朝から見当たらないと言うその一頭の馬とともに…



「まさかそんな…、何故なんだ…」

「そうと決まったわけではない。気やすめだがな…。ヘンリック、その御者はどういった男だ」

「当家に仕えてすでに5年ほどになります。とある侯爵家からの紹介状を持ち当家へとやってきました。30ほどの年若い男ですがこれまで特に問題を起こしたことはありません。働きぶりも人間性もことさら問題になるようなことは無く信用していたのですが…」

「その人家族は?」

「あ、ああ。我が家でランドリーメイドをしている妻とまだ幼い娘が居る…、まさか君…」

「そのまさかだよ。家族を盾にとって言う事を聞かせる、脅迫者の常套手段だ。ここで起こる全ての危機、考えられる原因なんて一つしかない!」

「アッシュ!それはもしや…」
「ロビン…っ!」


狡猾なアデリーナは自分の手は汚さない。いつだって自分は高みの見物…なるほどね。強行手段に出たってわけか…


「…すぐ父に確認を取る。これがもし本当だとしたら…すまないノール、我が家の御者が、なんてことだ…」

「いいや、これは私の責任だ!私の考えが甘かったのだ!まさかノールの家族にまで…」

「二人そろって落ち込んでたって始まらないでしょ。しっかりして!ノールさん!ショック受けてる暇は無いよ!ヴェストさんの力は屋外で半減するんだ。僕とノールさんの頭脳が頼りなんだから!」

「あ…、そ、そうだね。しっかりしなきゃ…」
「歩けるか?ノール」

「アレクシ…」


ああは言ったけど今のノールさんに冷静な判断は難しいだろう。ならば僕がやらなければ!

考えろ…考えるんだ。
御者と一頭の馬、消えたロビン。裏の花壇で聞こえた馬らしき声、ああ、耳が良くて良かった。裏で聞こえたって事は北に向かったのか?
あの時間正面はもちろんのこと、どの裏口も朝早いヤードボーイがウロウロしている。人目を避けられるのなんて僕の花壇がある北側しかない。
ガーデンを抜け丘を越えて露天風呂のある観測所の向こう北側は、さらに丘を越え雑木林を抜け最後、…道すらない未開の山しかない。あの山から領外には出られない…。どういう事だ…?


「ヴェストさん、出来るところまででいいから裏の花壇から裏山までの認識してくれる?」


ヴェストさんの後に付いて何一つ見逃さないよう歩く僕に、アレクシさんに支えられ泣きそうになりながらもノールさんは必死について来る。

ヘンリックさんとユーリは屋敷に残って捜索の段取りにはいっている。人を集めて捜索開始までに何か一つでもヒントがみつかれば…。初動捜査は最初の鍵だ。限られた人員を有効に使うため捜索範囲を少しでも絞ることが出来れば…!

なのに初夏の元気な青葉は僕らに何も知らせてはくれない。嘘だろう?何の痕跡も無いなんて。ああ…


「アッシュ様。観測所の露天風呂、ここに馬が水を飲んだ形跡を認識しました。」

「ホッ…、じゃぁやっぱり方角は間違ってないって事か…。ノールさん、ユーリにすぐ伝えてきて。」

「私はアッシュ君と行こう。ノール、一人で大丈夫かい?」
「僕は大丈夫。それよりもロビンを…、一刻も早くロビンを見つけて…」


涙ぐむノールさんを一人で戻らせるのは忍びないが…、いかんせん戦力外だ。彼が自分は嫡男には向かない、そう言い張るのはこんな繊細な部分があるからなんだろう…。




そうしてさらに突き進んだ丘と林とそのまた向こう、山のふもとには一頭の馬が放たれていた…。




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