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アデリーナ
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わたくしの可愛いお馬鹿さん、ビルギッタ嬢はいつも本当にいい仕事をしてくれる。
ほんのわずかな継子の愚痴を厭わし気に語って見せれば、それはもう同情的に、そして程よく下世話に、社交界と言う作り物の花園で面白おかしく少しばかりの悪意を込めて得意になってさえずってくれた。
誰が言ったのだったかしら。
「ビルギッタ嬢ほどうぬぼれの強い女性が貴女のような一介の伯爵夫人、それも伯爵の後妻に収まらなければ一準男爵家の養女でしかなかった貴女にこれほど心を許すとは。」
そうそう。どこかの頭も身なりも古めかしい老婦人だったわね。
あの老婆は何も分かっていない。比類なき美しさの前に人は慄くものよ。手の届かないものに張り合おうとは誰もしない。むしろその美しいものが自分にかしずくという事実、それこそが彼女の自尊心をくすぐるの。
そうね…あの子供のほうがわたくしを理解している。わたくしを見るなり言ったわね、恐ろしいほどの美貌だと。
あの目はまっすぐにわたくしを見透かしていた。
あの小賢しい子供は小手先の罠にはかかるまい。どうやらあれはひどく知恵が回るようだ。マテアスを唆し行わせた売り飛ばしの計画、あれも何らかの策によって逃れたのだろう…。小癪な子供め…
近づけさせない…ねぇ…
「ふふ…、ふふふふふ…」
もとより近づくつもりなどあるものか。獲物をいたぶるのなど簡単なこと。あの毒公爵を取り囲む善良な者を、あの子供が親しく思う身近な者を、一人、また一人と絡めとり苦しめる、それだけでいい。
我々のやり方はいつも変わらない。
大切な者を奪う。それこそが最も効果的な深淵を拡げる手法。
見るがいい。高貴なる一族、あの長に掛けられた呪いこそが我々の神髄。
深く、そして細く長く、絶えることなく続いた呪いは王家を内側から食い破り、ついには最も下劣な王を誕生させた。
これこそがまさに蟲毒。
その蟲毒の王自身が強い毒を、より強い血清を求め蟲毒を用いるとは何と滑稽な。
そして末子の末裔、今度こそ最も憎悪に充ちた毒公爵が誕生するはずだったというのに…
あの子供め…一体何をした…
見ているがいい。わたくしはけっして焦りはしない。気の遠くなる悠久の時の中、たかが数年などほんの一瞬と同じ。どれだけ時間をかけようと確実に、ユーリウスよ、お前を絶望の深淵へと誘ってやろう。
そして子供よ。
先ずはほんの初見の礼だ。お前の言う悪趣味な挨拶とやらを存分に受けるがいい…
「アデリーナ様、先日の夜会あれでようございましたの?あんな失礼な子供、いくら継子の婚姻相手とは言え放っておけばよろしいものを。」
「まぁビルギッタ様。お気遣いいただきありがとうございます。でもわたくし大丈夫ですわ。あれも義母としての務めですもの。一度くらい挨拶はしておかねばなりませんわ。そうでございましょう?」
「アデリーナ様はお優しいこと。でもそこがアデリーナ様の魅力の一つでもありますわね。」
「まぁ、ビルギッタ様にそう仰っていただけるなんて…。そうそう、それよりわたくしもう一つお願いがございますの。いえ、大したことではありませんのよ。ただ10くらいの平民の女児に心当たりはございませんこと?生家の養母が懇意にしている子爵家のお嬢様が姪御の侍女を探しておりますの」
「平民の女児…?わたくしそのような下賤なものに知り合いなどございませんのよ、ごめんあそばせ」
「これも貴族としての務めですわ。慈善の一環として平民を侍女になさるのですって。そうね…、あれはどうかしら?ほら、5年ほど前、ビルギッタ様のドレスに泥を跳ねたと暇を出した御者がおりましたでしょう?ビルギッタ様の紹介状を手にコーネイン家に出向いたのではなかったかしら?あのような不調法ものに紹介状を持たすなどなんと寛大なお心かと、わたくしそれはそれは感動いたしましたのよ。」
「ま、そんな大げさですわ。ただわたくしはあの時アデリーナ様がご助言くださったように時には平民にも一分の情をかけてやっても良いかと思っただけですの。行き倒れぬよう世話をする…、高位貴族として至極当たり前のことですわ。」
「ふふふ…謙遜なさいますのね。ビルギッタ様はとても素敵だわ…。そう、たしかあの時の御者、彼には5歳の女児がおりましたわね。今なら丁度10くらいではなくて?」
「よく覚えておいでですのね…。そうだったかしら?わたくし使用人の事など気にしたこと御座いませんの」
「そうでしたでとも。明晰なビルギッタ様なら覚えておいでのはずですわ。」
「あ、ええもちろん。そうでしたわね。では御者に一筆送っておきましょう。子供をここへ連れてくるように、と。」
ほんのわずかな継子の愚痴を厭わし気に語って見せれば、それはもう同情的に、そして程よく下世話に、社交界と言う作り物の花園で面白おかしく少しばかりの悪意を込めて得意になってさえずってくれた。
誰が言ったのだったかしら。
「ビルギッタ嬢ほどうぬぼれの強い女性が貴女のような一介の伯爵夫人、それも伯爵の後妻に収まらなければ一準男爵家の養女でしかなかった貴女にこれほど心を許すとは。」
そうそう。どこかの頭も身なりも古めかしい老婦人だったわね。
あの老婆は何も分かっていない。比類なき美しさの前に人は慄くものよ。手の届かないものに張り合おうとは誰もしない。むしろその美しいものが自分にかしずくという事実、それこそが彼女の自尊心をくすぐるの。
そうね…あの子供のほうがわたくしを理解している。わたくしを見るなり言ったわね、恐ろしいほどの美貌だと。
あの目はまっすぐにわたくしを見透かしていた。
あの小賢しい子供は小手先の罠にはかかるまい。どうやらあれはひどく知恵が回るようだ。マテアスを唆し行わせた売り飛ばしの計画、あれも何らかの策によって逃れたのだろう…。小癪な子供め…
近づけさせない…ねぇ…
「ふふ…、ふふふふふ…」
もとより近づくつもりなどあるものか。獲物をいたぶるのなど簡単なこと。あの毒公爵を取り囲む善良な者を、あの子供が親しく思う身近な者を、一人、また一人と絡めとり苦しめる、それだけでいい。
我々のやり方はいつも変わらない。
大切な者を奪う。それこそが最も効果的な深淵を拡げる手法。
見るがいい。高貴なる一族、あの長に掛けられた呪いこそが我々の神髄。
深く、そして細く長く、絶えることなく続いた呪いは王家を内側から食い破り、ついには最も下劣な王を誕生させた。
これこそがまさに蟲毒。
その蟲毒の王自身が強い毒を、より強い血清を求め蟲毒を用いるとは何と滑稽な。
そして末子の末裔、今度こそ最も憎悪に充ちた毒公爵が誕生するはずだったというのに…
あの子供め…一体何をした…
見ているがいい。わたくしはけっして焦りはしない。気の遠くなる悠久の時の中、たかが数年などほんの一瞬と同じ。どれだけ時間をかけようと確実に、ユーリウスよ、お前を絶望の深淵へと誘ってやろう。
そして子供よ。
先ずはほんの初見の礼だ。お前の言う悪趣味な挨拶とやらを存分に受けるがいい…
「アデリーナ様、先日の夜会あれでようございましたの?あんな失礼な子供、いくら継子の婚姻相手とは言え放っておけばよろしいものを。」
「まぁビルギッタ様。お気遣いいただきありがとうございます。でもわたくし大丈夫ですわ。あれも義母としての務めですもの。一度くらい挨拶はしておかねばなりませんわ。そうでございましょう?」
「アデリーナ様はお優しいこと。でもそこがアデリーナ様の魅力の一つでもありますわね。」
「まぁ、ビルギッタ様にそう仰っていただけるなんて…。そうそう、それよりわたくしもう一つお願いがございますの。いえ、大したことではありませんのよ。ただ10くらいの平民の女児に心当たりはございませんこと?生家の養母が懇意にしている子爵家のお嬢様が姪御の侍女を探しておりますの」
「平民の女児…?わたくしそのような下賤なものに知り合いなどございませんのよ、ごめんあそばせ」
「これも貴族としての務めですわ。慈善の一環として平民を侍女になさるのですって。そうね…、あれはどうかしら?ほら、5年ほど前、ビルギッタ様のドレスに泥を跳ねたと暇を出した御者がおりましたでしょう?ビルギッタ様の紹介状を手にコーネイン家に出向いたのではなかったかしら?あのような不調法ものに紹介状を持たすなどなんと寛大なお心かと、わたくしそれはそれは感動いたしましたのよ。」
「ま、そんな大げさですわ。ただわたくしはあの時アデリーナ様がご助言くださったように時には平民にも一分の情をかけてやっても良いかと思っただけですの。行き倒れぬよう世話をする…、高位貴族として至極当たり前のことですわ。」
「ふふふ…謙遜なさいますのね。ビルギッタ様はとても素敵だわ…。そう、たしかあの時の御者、彼には5歳の女児がおりましたわね。今なら丁度10くらいではなくて?」
「よく覚えておいでですのね…。そうだったかしら?わたくし使用人の事など気にしたこと御座いませんの」
「そうでしたでとも。明晰なビルギッタ様なら覚えておいでのはずですわ。」
「あ、ええもちろん。そうでしたわね。では御者に一筆送っておきましょう。子供をここへ連れてくるように、と。」
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