116 / 277
連載
アデリーナ
しおりを挟む
わたくしの可愛いお馬鹿さん、ビルギッタ嬢はいつも本当にいい仕事をしてくれる。
ほんのわずかな継子の愚痴を厭わし気に語って見せれば、それはもう同情的に、そして程よく下世話に、社交界と言う作り物の花園で面白おかしく少しばかりの悪意を込めて得意になってさえずってくれた。
誰が言ったのだったかしら。
「ビルギッタ嬢ほどうぬぼれの強い女性が貴女のような一介の伯爵夫人、それも伯爵の後妻に収まらなければ一準男爵家の養女でしかなかった貴女にこれほど心を許すとは。」
そうそう。どこかの頭も身なりも古めかしい老婦人だったわね。
あの老婆は何も分かっていない。比類なき美しさの前に人は慄くものよ。手の届かないものに張り合おうとは誰もしない。むしろその美しいものが自分にかしずくという事実、それこそが彼女の自尊心をくすぐるの。
そうね…あの子供のほうがわたくしを理解している。わたくしを見るなり言ったわね、恐ろしいほどの美貌だと。
あの目はまっすぐにわたくしを見透かしていた。
あの小賢しい子供は小手先の罠にはかかるまい。どうやらあれはひどく知恵が回るようだ。マテアスを唆し行わせた売り飛ばしの計画、あれも何らかの策によって逃れたのだろう…。小癪な子供め…
近づけさせない…ねぇ…
「ふふ…、ふふふふふ…」
もとより近づくつもりなどあるものか。獲物をいたぶるのなど簡単なこと。あの毒公爵を取り囲む善良な者を、あの子供が親しく思う身近な者を、一人、また一人と絡めとり苦しめる、それだけでいい。
我々のやり方はいつも変わらない。
大切な者を奪う。それこそが最も効果的な深淵を拡げる手法。
見るがいい。高貴なる一族、あの長に掛けられた呪いこそが我々の神髄。
深く、そして細く長く、絶えることなく続いた呪いは王家を内側から食い破り、ついには最も下劣な王を誕生させた。
これこそがまさに蟲毒。
その蟲毒の王自身が強い毒を、より強い血清を求め蟲毒を用いるとは何と滑稽な。
そして末子の末裔、今度こそ最も憎悪に充ちた毒公爵が誕生するはずだったというのに…
あの子供め…一体何をした…
見ているがいい。わたくしはけっして焦りはしない。気の遠くなる悠久の時の中、たかが数年などほんの一瞬と同じ。どれだけ時間をかけようと確実に、ユーリウスよ、お前を絶望の深淵へと誘ってやろう。
そして子供よ。
先ずはほんの初見の礼だ。お前の言う悪趣味な挨拶とやらを存分に受けるがいい…
「アデリーナ様、先日の夜会あれでようございましたの?あんな失礼な子供、いくら継子の婚姻相手とは言え放っておけばよろしいものを。」
「まぁビルギッタ様。お気遣いいただきありがとうございます。でもわたくし大丈夫ですわ。あれも義母としての務めですもの。一度くらい挨拶はしておかねばなりませんわ。そうでございましょう?」
「アデリーナ様はお優しいこと。でもそこがアデリーナ様の魅力の一つでもありますわね。」
「まぁ、ビルギッタ様にそう仰っていただけるなんて…。そうそう、それよりわたくしもう一つお願いがございますの。いえ、大したことではありませんのよ。ただ10くらいの平民の女児に心当たりはございませんこと?生家の養母が懇意にしている子爵家のお嬢様が姪御の侍女を探しておりますの」
「平民の女児…?わたくしそのような下賤なものに知り合いなどございませんのよ、ごめんあそばせ」
「これも貴族としての務めですわ。慈善の一環として平民を侍女になさるのですって。そうね…、あれはどうかしら?ほら、5年ほど前、ビルギッタ様のドレスに泥を跳ねたと暇を出した御者がおりましたでしょう?ビルギッタ様の紹介状を手にコーネイン家に出向いたのではなかったかしら?あのような不調法ものに紹介状を持たすなどなんと寛大なお心かと、わたくしそれはそれは感動いたしましたのよ。」
「ま、そんな大げさですわ。ただわたくしはあの時アデリーナ様がご助言くださったように時には平民にも一分の情をかけてやっても良いかと思っただけですの。行き倒れぬよう世話をする…、高位貴族として至極当たり前のことですわ。」
「ふふふ…謙遜なさいますのね。ビルギッタ様はとても素敵だわ…。そう、たしかあの時の御者、彼には5歳の女児がおりましたわね。今なら丁度10くらいではなくて?」
「よく覚えておいでですのね…。そうだったかしら?わたくし使用人の事など気にしたこと御座いませんの」
「そうでしたでとも。明晰なビルギッタ様なら覚えておいでのはずですわ。」
「あ、ええもちろん。そうでしたわね。では御者に一筆送っておきましょう。子供をここへ連れてくるように、と。」
ほんのわずかな継子の愚痴を厭わし気に語って見せれば、それはもう同情的に、そして程よく下世話に、社交界と言う作り物の花園で面白おかしく少しばかりの悪意を込めて得意になってさえずってくれた。
誰が言ったのだったかしら。
「ビルギッタ嬢ほどうぬぼれの強い女性が貴女のような一介の伯爵夫人、それも伯爵の後妻に収まらなければ一準男爵家の養女でしかなかった貴女にこれほど心を許すとは。」
そうそう。どこかの頭も身なりも古めかしい老婦人だったわね。
あの老婆は何も分かっていない。比類なき美しさの前に人は慄くものよ。手の届かないものに張り合おうとは誰もしない。むしろその美しいものが自分にかしずくという事実、それこそが彼女の自尊心をくすぐるの。
そうね…あの子供のほうがわたくしを理解している。わたくしを見るなり言ったわね、恐ろしいほどの美貌だと。
あの目はまっすぐにわたくしを見透かしていた。
あの小賢しい子供は小手先の罠にはかかるまい。どうやらあれはひどく知恵が回るようだ。マテアスを唆し行わせた売り飛ばしの計画、あれも何らかの策によって逃れたのだろう…。小癪な子供め…
近づけさせない…ねぇ…
「ふふ…、ふふふふふ…」
もとより近づくつもりなどあるものか。獲物をいたぶるのなど簡単なこと。あの毒公爵を取り囲む善良な者を、あの子供が親しく思う身近な者を、一人、また一人と絡めとり苦しめる、それだけでいい。
我々のやり方はいつも変わらない。
大切な者を奪う。それこそが最も効果的な深淵を拡げる手法。
見るがいい。高貴なる一族、あの長に掛けられた呪いこそが我々の神髄。
深く、そして細く長く、絶えることなく続いた呪いは王家を内側から食い破り、ついには最も下劣な王を誕生させた。
これこそがまさに蟲毒。
その蟲毒の王自身が強い毒を、より強い血清を求め蟲毒を用いるとは何と滑稽な。
そして末子の末裔、今度こそ最も憎悪に充ちた毒公爵が誕生するはずだったというのに…
あの子供め…一体何をした…
見ているがいい。わたくしはけっして焦りはしない。気の遠くなる悠久の時の中、たかが数年などほんの一瞬と同じ。どれだけ時間をかけようと確実に、ユーリウスよ、お前を絶望の深淵へと誘ってやろう。
そして子供よ。
先ずはほんの初見の礼だ。お前の言う悪趣味な挨拶とやらを存分に受けるがいい…
「アデリーナ様、先日の夜会あれでようございましたの?あんな失礼な子供、いくら継子の婚姻相手とは言え放っておけばよろしいものを。」
「まぁビルギッタ様。お気遣いいただきありがとうございます。でもわたくし大丈夫ですわ。あれも義母としての務めですもの。一度くらい挨拶はしておかねばなりませんわ。そうでございましょう?」
「アデリーナ様はお優しいこと。でもそこがアデリーナ様の魅力の一つでもありますわね。」
「まぁ、ビルギッタ様にそう仰っていただけるなんて…。そうそう、それよりわたくしもう一つお願いがございますの。いえ、大したことではありませんのよ。ただ10くらいの平民の女児に心当たりはございませんこと?生家の養母が懇意にしている子爵家のお嬢様が姪御の侍女を探しておりますの」
「平民の女児…?わたくしそのような下賤なものに知り合いなどございませんのよ、ごめんあそばせ」
「これも貴族としての務めですわ。慈善の一環として平民を侍女になさるのですって。そうね…、あれはどうかしら?ほら、5年ほど前、ビルギッタ様のドレスに泥を跳ねたと暇を出した御者がおりましたでしょう?ビルギッタ様の紹介状を手にコーネイン家に出向いたのではなかったかしら?あのような不調法ものに紹介状を持たすなどなんと寛大なお心かと、わたくしそれはそれは感動いたしましたのよ。」
「ま、そんな大げさですわ。ただわたくしはあの時アデリーナ様がご助言くださったように時には平民にも一分の情をかけてやっても良いかと思っただけですの。行き倒れぬよう世話をする…、高位貴族として至極当たり前のことですわ。」
「ふふふ…謙遜なさいますのね。ビルギッタ様はとても素敵だわ…。そう、たしかあの時の御者、彼には5歳の女児がおりましたわね。今なら丁度10くらいではなくて?」
「よく覚えておいでですのね…。そうだったかしら?わたくし使用人の事など気にしたこと御座いませんの」
「そうでしたでとも。明晰なビルギッタ様なら覚えておいでのはずですわ。」
「あ、ええもちろん。そうでしたわね。では御者に一筆送っておきましょう。子供をここへ連れてくるように、と。」
399
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまいネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙にはAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
校正も自力です(笑)
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
本作は皆様の暖かな支援のおかげで第13回BL大賞にて学園BL賞を受賞いたしました!
心よりお礼申し上げます。
ただ今、感謝の番外編を少しずつ更新中です。
よければお時間のある時にお楽しみくださいませ
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃がはじまる──! といいな!(笑)
本編完結済、ロデア大公立学園編、はじめました!
本編のあと、恋愛ルートやおまけのお話に進まずに、すぐロデア大公立学園編に続く感じです。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです!
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。