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ミチュペチュへの旅 ①
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「アッシュ、私は近々辺境へ行くのだがお前も来ぬか?改良型気球はもう順調に稼働しておるのだろう?」
その日、ヨルガオ連絡の最後を飾ったのは珍しくもケネスからの旅行の誘い。
ケネスからの要請でなんとか形にした熱気球は、その後さらなる改良を重ね、今では熱気球ならぬ熱飛行船となっている。いや、籠部分がでかくなってるだけだけどね…。
さすがにまだ完成には至ってないけどいずれは液化ヘリウムによるれっきとした飛行船にする予定だ。
『人類と空、男たちの浪漫』によれば熱気球から進化したのが飛行船。飛行機とはまた違うルートの空の進化だ。
それにはヘリウムガスの発見と圧縮や膨張、またはハイスキルな冷却、などといったスキルの持ち主が必要になる訳で…、これは造船が一段落した今、カレッジの研究室で一番ホットな課題である。
その気球を使っての旅行の誘い。って言っても現地集合だけど。
辺境…、たしか三女にご執心だっけ?なんだ、結構順調そうじゃないか。
ノールさんから聞いた話だと、どうも辺境伯家は高貴なる一族が貴族へと進化した頃、当時の王に仕えた最も強い騎士の血筋みたいだ。
当時の12家から嫁を貰ったり王の歓心を買って姫を貰ったりしているうちに辺境伯にまで上り詰めたお家なのだとか。
辺境伯…、すごく偉いのにボルティス国他の侵略に備え辺境から絶対出てこないし、アデリーナの一件にはほとん関りが無いからここまで出番が無かったという…、とても独特な立ち位置の人だ。
この聖王国は北から西をリッターホルムが、そして南から東を辺境伯家が盾となって外の世界からの干渉を遠ざけている。
とは言えリッターホルムが面しているのは大部分が不毛の地と呼ばれる山脈なので、実質武力を以て聖王国を守っているのはこの辺境伯家と言えるだろう。
そうなるとますます腕自慢は辺境伯領へ就職していくので益々マッチョになっていくという、負の連鎖ならぬマッチョの連鎖…知的な僕にはとてもついて行けない、そんな領だ。
「ケネス…、一回聞きたかったんだけど…、ホントに良いの?辺境伯家のお嬢さんで…。ムキムキしてない?」
「馬鹿者!マチルダは可憐な女性だ!男どもが猛々しいからと言って女性陣まで同じ訳が無かろう!」
マチルダって〝戦闘”とか〝強い”とかそんな意味じゃなかったっけ…。僕の『世界の名前、その由来』に間違いが無ければ…
「ま、まぁいいや。せっかくのお誘いだしね。僕も気球に乗って見たかったんだ。ユーリに聞いてみる。じゃぁね。」
そしてその日の晩、ユーリとの第一ラウンドを終え、賢者タイムの中で僕はそれを切り出した。
ケネスとタピオ兄さんが絡む話題はタイミングを間違えると不味いから…
「ねぇユーリ、王子が辺境に誘ってきたんだけど行ってみない?僕たちってばここと王都とマァの村以外行ったこと無いし…、旅行…してみたかったんだ。ずっと…」
ふと想う事ありメランコリックな気分になる…。一瞬だけだよ。
「旅行…、そうだ!辺境はミチュペチュに近いのだったね。君は昔から行きたがっていただろう?魔女の件が片付くまでは…そう思いズルズルと日が経ってしまったが…、アレクシにも安心して任せられるようになってきたことだし…いいね。2か月ほど周遊してこようか?」
「ホント!? わーい!すごく嬉しい!って、あっ!」
そのまま2ラウンドに突入させられたのに納得はしていない。が、まぁいい、この世界に来て初の、本当の旅行だ!旅行の前にすべては些細なことだ。
ところでミチュペチュに行きたがってた…て何のこと?
旅行の日程はこうだ。
まず王都に入り、そこから熱気球で辺境へと飛ぶ。
辺境でケネスと合流し、辺境伯家が開いてくれる晩餐会などを楽しんだ後、10日ほどでその地を発ち馬車旅で1週間ほどかけてミチュペチュを目指す。
そのミチュペチュには今教授たち(?)が居るから、そこで今度は教授の案内のもと遺跡他を10日ほど観て回る。
その後はまた馬車に乗って5日ほど揺られると、東の熱気球乗り場があるルステンソン侯爵領に着くからそこでまたしばらく歓待を受け、そこから気球で王都、そのあとリッターホルムへ無事帰還。
という壮大なスケジュールだ!
楽しみだな。思ったよりすごいことになっちゃったけど、海外旅行感があってこれもまた良し!
「何持ってくか考えなくちゃ」
「ズルイ!アッシュばっかり~!僕も行きたい~!」
「ナッツ…、こればっかりは無理言わないの。」
「アッシュ…」
「って言うと思ったら大間違いだ!ナッツには僕からのプレゼント!僕たちが居ない間にサーダさんと新婚旅行、マァの村へ行っておいでよ、二人っきりで!」
「アッシュ!?」
「母さんと兄さんには頼んであるから。ユーリにも言っといた。別荘は自由に使っていいって。村長からカギ貰ってね。」
「アッシュぅぅ…」
「はいこれ、翼竜の往復チケット。サーダさんの足、気をつけたげて。」
「う、うえぇぇぇん!アッシュ大好きー!」
その日のおやつは少し塩っ辛い嬉し涙の味がした。
その日、ヨルガオ連絡の最後を飾ったのは珍しくもケネスからの旅行の誘い。
ケネスからの要請でなんとか形にした熱気球は、その後さらなる改良を重ね、今では熱気球ならぬ熱飛行船となっている。いや、籠部分がでかくなってるだけだけどね…。
さすがにまだ完成には至ってないけどいずれは液化ヘリウムによるれっきとした飛行船にする予定だ。
『人類と空、男たちの浪漫』によれば熱気球から進化したのが飛行船。飛行機とはまた違うルートの空の進化だ。
それにはヘリウムガスの発見と圧縮や膨張、またはハイスキルな冷却、などといったスキルの持ち主が必要になる訳で…、これは造船が一段落した今、カレッジの研究室で一番ホットな課題である。
その気球を使っての旅行の誘い。って言っても現地集合だけど。
辺境…、たしか三女にご執心だっけ?なんだ、結構順調そうじゃないか。
ノールさんから聞いた話だと、どうも辺境伯家は高貴なる一族が貴族へと進化した頃、当時の王に仕えた最も強い騎士の血筋みたいだ。
当時の12家から嫁を貰ったり王の歓心を買って姫を貰ったりしているうちに辺境伯にまで上り詰めたお家なのだとか。
辺境伯…、すごく偉いのにボルティス国他の侵略に備え辺境から絶対出てこないし、アデリーナの一件にはほとん関りが無いからここまで出番が無かったという…、とても独特な立ち位置の人だ。
この聖王国は北から西をリッターホルムが、そして南から東を辺境伯家が盾となって外の世界からの干渉を遠ざけている。
とは言えリッターホルムが面しているのは大部分が不毛の地と呼ばれる山脈なので、実質武力を以て聖王国を守っているのはこの辺境伯家と言えるだろう。
そうなるとますます腕自慢は辺境伯領へ就職していくので益々マッチョになっていくという、負の連鎖ならぬマッチョの連鎖…知的な僕にはとてもついて行けない、そんな領だ。
「ケネス…、一回聞きたかったんだけど…、ホントに良いの?辺境伯家のお嬢さんで…。ムキムキしてない?」
「馬鹿者!マチルダは可憐な女性だ!男どもが猛々しいからと言って女性陣まで同じ訳が無かろう!」
マチルダって〝戦闘”とか〝強い”とかそんな意味じゃなかったっけ…。僕の『世界の名前、その由来』に間違いが無ければ…
「ま、まぁいいや。せっかくのお誘いだしね。僕も気球に乗って見たかったんだ。ユーリに聞いてみる。じゃぁね。」
そしてその日の晩、ユーリとの第一ラウンドを終え、賢者タイムの中で僕はそれを切り出した。
ケネスとタピオ兄さんが絡む話題はタイミングを間違えると不味いから…
「ねぇユーリ、王子が辺境に誘ってきたんだけど行ってみない?僕たちってばここと王都とマァの村以外行ったこと無いし…、旅行…してみたかったんだ。ずっと…」
ふと想う事ありメランコリックな気分になる…。一瞬だけだよ。
「旅行…、そうだ!辺境はミチュペチュに近いのだったね。君は昔から行きたがっていただろう?魔女の件が片付くまでは…そう思いズルズルと日が経ってしまったが…、アレクシにも安心して任せられるようになってきたことだし…いいね。2か月ほど周遊してこようか?」
「ホント!? わーい!すごく嬉しい!って、あっ!」
そのまま2ラウンドに突入させられたのに納得はしていない。が、まぁいい、この世界に来て初の、本当の旅行だ!旅行の前にすべては些細なことだ。
ところでミチュペチュに行きたがってた…て何のこと?
旅行の日程はこうだ。
まず王都に入り、そこから熱気球で辺境へと飛ぶ。
辺境でケネスと合流し、辺境伯家が開いてくれる晩餐会などを楽しんだ後、10日ほどでその地を発ち馬車旅で1週間ほどかけてミチュペチュを目指す。
そのミチュペチュには今教授たち(?)が居るから、そこで今度は教授の案内のもと遺跡他を10日ほど観て回る。
その後はまた馬車に乗って5日ほど揺られると、東の熱気球乗り場があるルステンソン侯爵領に着くからそこでまたしばらく歓待を受け、そこから気球で王都、そのあとリッターホルムへ無事帰還。
という壮大なスケジュールだ!
楽しみだな。思ったよりすごいことになっちゃったけど、海外旅行感があってこれもまた良し!
「何持ってくか考えなくちゃ」
「ズルイ!アッシュばっかり~!僕も行きたい~!」
「ナッツ…、こればっかりは無理言わないの。」
「アッシュ…」
「って言うと思ったら大間違いだ!ナッツには僕からのプレゼント!僕たちが居ない間にサーダさんと新婚旅行、マァの村へ行っておいでよ、二人っきりで!」
「アッシュ!?」
「母さんと兄さんには頼んであるから。ユーリにも言っといた。別荘は自由に使っていいって。村長からカギ貰ってね。」
「アッシュぅぅ…」
「はいこれ、翼竜の往復チケット。サーダさんの足、気をつけたげて。」
「う、うえぇぇぇん!アッシュ大好きー!」
その日のおやつは少し塩っ辛い嬉し涙の味がした。
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