チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

文字の大きさ
261 / 277
連載

苦節…年 侯爵家嫡男のリベンジ

しおりを挟む
ユーリウス様がヴェストを伴いヴェッティ王と大公領を訪れるため船上の人となって早3日。今私はノールの部屋に居る。
ケネス殿下からの勅使を届けに来たのだ。

支配人としてアッシュ君までアルパ殿に同行した今、この屋敷に一人として邪魔者は居ない。それをこれ幸いにと殿下に願い出てその任を申しつかったのだ…。

筆頭侯爵家嫡男であり、また王太子殿下の側近として侍る立場のこの私がなんという情けない…。だがあの夫夫はそこに居るだけで私の気力を根こそぎ奪っていくのだ…。恐るべし公爵夫夫…。




「この夏行われるマチルダ嬢との婚姻の儀、そこで殿下によって読み上げられる宣言の原稿をノール、君にお願いしたいとのことだ。頼まれてくれるね」
「僕に…?そんな大役を…?」
「君は殿下にとって初めて本気で苦言を呈してくれた『先生』だからね。それも何度逃げ出しても決して見捨てずにいてくれた稀有な人だ。なんだかんだ言って…、感謝しておいでなのだよ。」

「でもあれはアッシュ君の力でもあるのに…」

「もちろんアッシュ君にも並々ならぬ感謝をお持ちだ。だがアッシュ君は…ああだろう?どうしても師とは呼びたくないらしい…」
「…言いたいことは分かるけど…、アッシュ君には秘密にしておくよ」

「ノール。あの当時の殿下に対し君ほど真摯に向き合ったものは居なかった。引き受けたまえ。それこそが殿下への祝福になる」

「ありがとうヘンリック。喜んで引き受けさせていただきます、と、そう伝えてくれる?」


殿下とノールがこんな風に絆を深めることになるとは…、あの頃誰に想像できただろう。その殿下からの申し出に目を細めて嬉しそうなノール。

彼の優しさは決して甘いだけではない。社交界のそのしがらみの中で、時に誰もが片目を瞑り耳を閉ざすそんな場面でさえ彼は決しておもねなかった。間違いであれば指摘をし、良くない行いであれば釘を刺した。友人たちは皆それを煙たがったが、結局彼らは卒業を危ぶまれたり生家から放逐されそうになったりしたのだ。

ノールが「自分がつきっきりで彼らの勉強を見るから」と教授の部屋を訪ねては卒業を頼み込んでいたのを私は知っている。それでも友人たちは口うるさいノールから逃げ回っていたが…

私はそんな不器用な彼の誠実さが好きなのだ。誰かを怒らせるたび独りで落ち込むノールを放っておけず何くれとなく世話をした。
いつしかそれは友情から別の感情へと変化を遂げ、ついにはここまで来てしまったのだから私も大概手に負えない…。

だがそこにユーリウス様の影響は無かっただろうか…?彼のアッシュ君への真摯な想いに感化され続けてきた部分は否めない…。
だが紆余曲折を経て遂にノールも私の気持ちを拒むこと無く受け入れてくれたのだ。挫けることなくここまで待った自分を褒めてやりたい。


「ところでノール。話は変わるのだが…」

「どうしたのヘンリック?深刻そうな顔だね。大事な話?」
「とても大事な話だよ。」
「そう…、何かな?」


「最近ヴェストに心を通わせる相手が出来たと聞いたのだがね…」
「えっ?…情報が早いね…。うん、そうみたい。僕も驚いちゃった。あのベルマン氏、あ、ううん、ベルマン様だなんてね。そもそも彼が大公家に縁を持つお方だったなんて、それにも驚かされたよ」

「アッシュ君が言うにはヴェストの色気が増したと…それはつまり…そう言う事だろう?」
「情報源はアッシュ君か…。そう言う事ってどういう…、え?まさかヘンリック…、そ、そんな事…、推量するのも破廉恥だよ!」

「破廉恥…。言っておくが私はこれでも君に対してこの上なく紳士であったはずだ。それを破廉恥などと…。むしろ少しくらいは君も私の男としての気持ちを汲んでくれてもいいじゃないか。友人以上の気持ちで受け入れてくれたと思えたのは私の独りよがりだったのだろうか…」

「独りよがりだなんて…そう思ってる…よ…」
「そうって?」
「君はただの、ゆ、友人じゃないって…」

「ではそろそろ次の段階に進みたい。さすがの私もアレクシにまで先を越されて…これ以上は我慢がならない」

「アレクシ…?」
「ビョルンと深い仲なんだろう?」

「知らなかった…。なのに君は何でも知っているんだね…」
「ユーリウス様が教えて下さったのだ。このままノールがその気になるのを待っていたら互いに白髪になるが良いのかと。この機会を生かすよう仰って下さったのもユーリウス様だ。」

「ユーリウス様が…」
「君はどう考えている?その…嫌なのだろうか。私と身体の触れ合いを持つのは」

「嫌って言うか…。だって…。じ、じゃぁこの際だから言わせてもらうけど…。君ユーリウス様に長い間閨の指導をしてたんだよね?あれ何?」

「あ、あれは…っ!」

「アッシュ君が愚痴ってたんだ。君がおかしなことばかり吹き込むからユーリウス様が、そ、その、その…好き勝手して困るって…。それにユーリウス様も仰った。君は経験豊富だから心配要らないって。どう言う事⁉」


あ…あの夫夫は…!
彼らは私にとっての疫病神か何かなのだろうか…?
いや駄目だ…。ユーリウス様は私を慮ってそう仰ってくれたのだ…。それにアッシュ君はこの国の救世主。彼に悪気は…

悪気はなくとも許せるかっ!


「指導が出来るほどの技術をどこで覚えたの?ふ~ん、知らなかった。僕の知らないところで随分遊んでたんだね。君のその豊富な知識とやらを僕に実践されても困るんだよ。ねぇ、何か言うことは無いの?」

「し、仕方ないだろう?性への関心が高まる年頃だったんだ!私にだって発散する場所は必要じゃないか。それでも侯爵家の嫡男として危険な火遊びは出来ない。だからこそ私は割り切った相手と…」
「割り切った相手って何!? あ…まさか君歓楽街に…、嘘でしょ!ふしだらだよ!」

「もう長い事行ってない!全部君の為に止めたんだ!じゃあ死ぬまで君意外とは二度と寝ないとここで誓ったら君が責任取ってくれるんだね!?」

「いいよ!責任くらい僕が、あっ…!」
「…言質は取った。思ったのと違うが…まあいい。ここまで待たせたんだ、覚悟は良いね?」


「お、お手柔らかに…」





翌朝…、ベッドから起きられないノールの怒りを再び買う事になるのだが…

彼が想像以上に艶やかだったのでどれだけ文句を言われても睦言にしか聞こえなかった私も単純なものだ。

そうだ…。公爵夫夫がお帰りになるまでまだ1週間はある。
それまでに彼から淫らな言葉を引き出したい…などと思ってしまうのも、彼がどれほど私を焦らしてきたか、それを考えれば無理も無い事ではないか。


そんな密かな企みを隣で眠るノールはまだ知らない…。








しおりを挟む
感想 392

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。