チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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ハッピニューイヤー

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極寒のリッターホルム…この地で冬といったら昔は春まで屋内で静かに過ごすのが普通だった。
その習慣が近年破られつつあるのは偏にスキー場が出来たためにほかならない。

冬だからこそ訪れる、スキーに魅了されたトレンドリーダーを自称する元気な若者たち。
彼らはゲレンデ麓のセンターハウスで飲めや歌えやの大騒ぎをし、時に備品の一つや二つ壊していくのが毎年の恒例だった。
が、スキー場付近に住居は無い。備品はともかくとして、他は特に大きな迷惑行為とも言えない為これも宣伝と放置していたのだが…僕はそれを逆手にとろうと考えた。ビジネスチャーンス…


思いついたのは…リッターホルム裏手に作ったカマクラの進化版。『ニ〇スと旅するスウェーデン ー北欧地理を知るためにー』で知ったときから気になっていた…巨大なイグルーを繋げた…アイスホテルだ。

備え付けの家具や調度品は全て氷で作られ暖かくなる頃には消えてなくなると言う…刹那のホテル。それがアイスホテル。スキー場の横に期間限定で建造され1月から4月までの一定期間しか泊まれないと言う話題性と希少価値。人々の心をくすぐる事請け合いだ。

そこで僕はいっそのことアイスホテルの作成自体を市民参加型のお祭りにしてしまおうと考えた。
共同区域では数年前から兄さんの始めた雪像祭りが行われる。それに連動してホテルそのものも作品にしてしまおうってわけ。内側からも盛り上げる、完璧だ…。自分の才能がコワイ…。



外側、つまり個々のイグルーとベッド、テーブルだけは従士に手を借り作っておいて、その中身、調度品だけ全て作り上げてもらう。それらは完成後領民投票をおこない、優勝者には景品を進呈する。どうだろうか…?それをユーリに話したところ、

「氷の造形物…、私も一部屋作ってみようか」

と、まさかの参加表明を頂いた。

するとそれを聞いたノールさんが

「じゃぁ僕も。もちろん『造形模写』は使わないよ?」

と、ノリノリで参加を決定した。


ユーリのアシスタントは当然アレクシさん。アレクシさんが手伝うという事は当然のようにビョルンさんもお手伝い。そこに時々アルパ君が顔を出して…この調子ならなかなか豪勢な部屋が出来そうじゃないの。

一方ノールさんの部屋を手伝うのは手先の器用なナッツと、…夫婦で冬の保養に訪れた…のに、リッターホルム邸に泊まり込んでいるヘンリックさんだ。さらにノールさんはショーグレン子爵、という、芸術センスに長けた助っ人を味方につけこれまた期待の高まる進行状況だ。





お祭り用に用意されるのはアイススイートが8室。ユーリとノールさんの手掛ける2室はデラックススイートだ。そんなみんなを横目に、僕は従士たち、それから有志の領民と一緒にパブリックスペースを作成している。


「アッシュ、手袋をしないと手が冷えてしまうよ。ほら」
「ユーリ。そっちはどう?僕の手は大丈夫。それよりユーリの白魚の様な指が切れちゃわないか心配だよ。ああっ!こんなに指先が冷えて…」

「じゃあ君が咥えて温めてくれる?」
「ユーリ…、そうしたいのは山々だけど、こんな冷気の中じゃ気化熱が奪われて益々冷えそうだから止めておくね。代りにサスサスしてあげる。」サスサス…

「アッシュ、身体中冷えてしまったんだが…屋敷に戻ったら全身さすってくれる?」
「それ一番暖まるの僕だよね?」


そうこうしているうちにみんな待望のアイスホテルは出来上がった。

各部屋のベッドももちろん氷。けど、氷に敷いた毛皮や上に掛ける毛布なんかにシェフ見習いくんのスキルで『保温』をかけてあるから十分暖かくお休みいただけるはずだ。
そこかしこに間接照明代わりのキャンドルが氷に反射してそれはもう幻想的な世界を醸し出している。まるでア〇雪の世界…。

スキー以外にちょっとした娯楽も用意した。その一つがサウナだ。イグルーサウナで汗をかいたら雪に飛び込むっていう贅沢でダイナミックなサウナ。
それからアイスバー。氷の雪像に囲まれながらアヒージョをつまみにホットワインやウォッカで身体を温める。

どっちも熱いんだか寒いんだか。でもすごく楽しそう。そうそう、お食事はセンターハウスからのケータリングね。


オープンは年明け3日から。ちょっとの告知で既に4月まで予約は満杯だ。当然デラックススイートを真っ先に予約したのはどこかの王太子様だ。
それにしても何故中途半端に3日からなのかというと…、それは31日から1日にかけては身内の貸し切りでカウントダウンパーティーを行う事に決めたからだ。


「僕たちの部屋はユーリの作ったデラックススイートだよね?いくら言っても見せてくれないんだもん、超楽しみ!」
「どうかな。だがなかなか良い出来だと自負しているが…。」


12月いっぱいかけてユーリがコツコツ作り続けたデラックススイート。あんな楽しそうで精力的なユーリを見たのは初めてかも知れない…。




「さあ行くよ。5,4,3,2,1!」

ドーン!ドドーン!!

「「「ハッピーニューイヤー!」」」



「ノールさんアレクシさんハッピニューイヤー!」
「アッシュ君も、ハッピニューイヤー!」
「今年もよろしくね。」

「エスターは?」
「嬉しそうに書庫で外国の本に埋もれてたよ。何度も誘ったんだが…」
「まさか辺境伯からこんな年の瀬にヴォルティスの書物が贈られるなんてね」

「じゃぁ当分出てこないか…。ま、いいや。ほらほらナッツ!シェフも!ハッピニューイヤー!」
「カンパ~イ、アッシュ。ハッピニューイヤ~!」
「アッシュ、見ていろ、今年こそお前のレシピを超えて見せるぞ!」
「期待してる!」

「ヴェスト、今夜は君も羽を伸ばすと良い」
「ユーリウス様、それは最善ではありません」
「ヴェストってば固すぎ~、良いから飲んで~」
「そうだよ!僕のお酒が飲めないって言うのっ!」
「飲めません」
「あ、はい…」



高くうちあがる花火に全員テンションアゲアゲだ。共同区域からもしっかり見えるこの花火には領民のみんなもさぞ喜んでいるだろう。

「危険だ」と渋るユーリに無理を言って、王宮の鍛冶師に作ってもらった大きな打ち上げ花火。その数50発。少ないけど仕方ない。今はこれが精いっぱい…。
もちろんこの花火は『日本の花火、ここが凄い‼』から図面を引っ張り出して作ってもらった日本仕様、2尺玉の割物花火だ。菊に牡丹に…花火と言ったらやっぱこれだよね?でもその仕組みに鍛冶師のおじいさんはメラメラとやる気を燃やしていた。きっと近々王都でも当たり前に打ち上げられる日がくる事だろう。


「アッシュ、そんなに飲んだらまた潰れてしまうよ。ほどほどに」
「ユーリが介抱してくれるんでしょ。いいじゃない今日ぐらい」
「それは構わないが…、いいんだね。分かった。好きにしたまえ」


あの時の自分に、馬鹿ッ!って言ってやりたい。酔いつぶれたばかりにこんなあられもない姿で目を覚ます羽目になるとは…。


「ユーリ、これ何…。僕の服は…?」
「汚しそうだったから脱がしたんだよ。介抱しろと言ったじゃないか」

「汚しそう、って事はまだ汚してなかったって事だよね?」
「だけど間違いなく汚れるよ?今からたっぷり」

「なっ!」



「ああ~ん!ユーリのドスケベー!!」




といった、狂乱の夜も明け翌日の朝。
昨夜はうっかり抱きつぶされ何も視界にはいらなかったのだが、小さな小窓から線状に差し込む日差しの中、僕の目に飛び込んできたのはまさかの…


「大量のノーム‼ ちょ、ユーリ!あれ程作るなって言ったじゃない!」
「どうして?君を模した氷像だよ。君が一杯でとても可愛いじゃないか。まるで天国だ。本当なら教会の横に大きな石像をたてたいところを君が嫌がるからこれでも我慢したというのに!」

「ああ…」


こうなっては仕方ない。この部屋に泊まった人が大量のノームにうなされないことを祈るばかりである…。
だがしかし!

噂を聞きつけた大司教様が嬉々として泊まりに来て歓喜に震えていたらしい、という話を後日小耳に挟んだ時には何とも言えない気分になった。

とにかくこれだけはハッキリしている。


世は全て事も無し。リッターホルムは今年も平和である…。





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