断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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190 断罪去ってまた一難

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登校もなくなり卒業式を待つだけとなった真冬のある日。ついにフレッチャーの裁判が開始される。

ブラトワよりも長引きそうなフレッチャーの裁判。それがこんなに早く始まるのは、審議が過去の罪から始まるのと、過去についてはポーレットの長老が送ってくれた手紙が証拠としてあるからだ。

というか、それしかないからだ。だからといって、誰が王族の言葉に異を唱えよう。王妹の手紙は絶対である。

…ってことで、祖先であるフレッチャー伯が重ねてきた悪行は現フレッチャー侯爵家の礎である。その見解により現フレッチャーの罰はマシマシの増量になるという話だが、この不条理さ加減こそが良くも悪くもノベルゲーの世界感だ。実にイイネ。

「それにしても如何にフレッチャー家が社交界で疎まれていたか分かりますね」
「一派も挙って手の平を返したようですわ」
「ふー、呆れたものですね」

そんなくるっくるの家門、もし擦り寄って来たって一ミリも信用ならないね。

ともかく、王家にとっても具合の悪いロアンの件は極力素早く審理を終わらせる方針のようだ。

ここ二世代ぐらいは徹底的に隠されてきた『ロアンの呪い』。ふたを開ければ老世代には記憶持ちもわずかに残っていたようで、この裁判はただいま今世紀最大の注目を浴びている。

冬季ということで領地から王都入りしていたのも幸い(?)して、メイン法廷の傍聴席にはそうそうたる顔が並んでいる。現役名門当主は勢ぞろいだし杖をついてやって来た前当主もいたりする。それでも入りきらない数を収容するのに第二第三法廷まで開放したようだ。(実況を逐一速記人が送るんだって)

ハッキリ言って今この王都にいる貴族でここに居ない家門は一家も無いと言っていいだろう。

そんな大注目の裁判に証人として呼ばれたのは僕と、友人代表でロイドだ。残りの友人と比較的関わらなかったブラッド、コンラッド、アーロン、…それからアレイスターは証人席でなく特別傍聴席だ。
他にロアン家のナニー筋で、僕の隣にはジェロームも居る。おばあさんおじいさんから聞いた話を証言するようだ。
そして僕の反対隣にはシェイナが居て、シェイナは僕の補足と東の教会で調べたことを証言する。もちろんウィジャ盤で。

「シェイナ、半分はお目当てシェイナだよ」
「ちゅごくめいわく」

シェイナが神子の奇蹟によって大人の知能を持つことはすでに社交界でも周知の事実。傍聴人の一部は天才美少女キッズ見たさの不届き者だ。

「投げキッスでもしてあげたら?」
「……」

うぉ!メデューサ!この眼力は王妃様直伝か…


法廷の中はこんな感じ。まず正面に主席判事がいる。その左右に並ぶのが一般判事。
主席判事から2メートルほど離れた真ん前に教会の説教台みたいなのがあって、それが被告の立ち位置になる。
その横にもう一つ台があってそれが証人の証言席。被告席を挟んだ反対横の扉側が速記者の席だ。
そこから一段上がって待機席ね。順番待ちの証人とか、被告人の弁護人とか。その後ろに手すりがあって、手すりの向こうからが傍聴席となる。

満員御礼。そんな喧騒の中、手枷足枷で連れて来られた現フレッチャーと木製車いすの老フレッチャー。この眼光鋭い老フレッチャーは元凶となったフレッチャー伯の養子(マーグ王の従者補佐ね)とは別の、恐らくはロアン嬢殺害を指示した人。足腰が弱り現フレッチャーに爵位を譲っていたが実は存命だったのだ。

ざわつく廷内。
大変だけどこれが終わればいったん一息になるから気張っていこう。現フレッチャーの審理はここぞとばかりにゴミさらいを始めたお陰で、審理までにはまだまだ時間がかかる、そっちは慎重にすすめるようだ。

長老の手紙をもとに、粛々と審理の始まるメイン法廷。

微妙に過去の出来事が全てフレッチャー伯の罠、といった体になってて、過失割合がフレッチャー伯80、マーグ王20になってるのにはちょっとモヤる…。が、これも宰相たちが話し合って決めたこと。王家が揺らぐと人々が不安になる。安寧のためにはある程度仕方ないんだろう…

それでもお父様がいうには、王様の退位と女王爆誕、これこそが王のけじめ、痛みを伴う決断、と受け止められ逆に社交界から王の評価はあがったのだとか。

ウソでしょ…

カサンドラ様でなくアドリアナ様を娶った事と言い…、持ってる人とはこういう人のことを言うんだろう…負けたよ王様…

とにかく王様は元帥となり南へいく。それだけじゃない。雪が解けたら卒業を待ってコンラッド、アーロンは旅に出るし、ブラッドも自領へと居を移す。
残るノベルゲーのメインキャラは僕とロイド…
僕の私設秘書となるロイドは、僕とジェロームのことを公表したあと(まだみんなにはナイショ)、婚儀を終え次第エンブリーに連れていく予定だ。あれ?と言うことは…王都からノベルゲーのキャラが実質消滅するということか。これはビックリ!

なんてことをつらつら考えていたら、いつの間にか証言は僕とシェイナの番になっていた。

どういった流れでここに至ったのか、(シェイナが)時系列に沿って理路整然と並べた(シェイナの)推理の流れ。それを傍聴する人々からは時折感嘆の声が漏れ聞こえる。

「ではアーロン氏の母親を調べようと思った、それがきっかけだったのですな」

「はい。僕の隣にいる大変優秀な黒髪、いえ、将来有望な美形、いえ、新進気鋭の伯爵であるエンブリー卿が「子の問題は親との関りにある、と進言くださったので」

「なるほど、一理ありますな。それでどうしました」
「ここに居るマーベリック伯爵家のご子息であるロイド様がご兄弟と力を合わせてご助力くださいました」

蛇足だが、何故かこの問答後、あの善良かつ平凡なマーベリック伯爵にいきなり隠し子騒動が持ち上がったことをここに記しておこう…。伯爵も大変だな、一体何があったんだろう?いやホントに。

何度も切り口を変え繰り返される判事側の質問、それに真っ向から対抗するフレッチャーの弁護人。ブラトワの時に居なかったこの弁護人は、老フレッチャーがヨボヨボだからこその措置だ。何でも遠ーーーい縁者なんだとか。フレッチャーは本当に一族間の結束が固い。つまりはそれほど一族全体で甘い蜜を吸い続けてきたことの裏返しだろう。

さほどやり手でもない弁護人はあっさりと最後の反対尋問を終える。そして狭い通路を通って老フレッチャーの元へと戻っていく。老フレッチャーは被告人、つまりフレッチャーの背後で待機しているのだが、そこへ行くには証人席、つまり僕の後ろを通っていく。何故なら何人たりとも扉側は通れない規則だからだ。

チク

蚊かな?こんな冬場に?ポリポリ…
シャノンの肌は白くて薄いから真っ赤に腫れて嫌なんだけど…でも実はリアルに病人だった前世の方が白かったりする。少しも嬉しくないが。

「どうしましたシャノン様、首筋に何か?」
「ああいえジェローム、何でもないです。じゃあ最後の問答行って来ま…」

「ノン?」

ぐにゃりと歪む視界。こ、これは…?
力が抜けていく。喪失感、何かが消える感覚。どこかでこの感覚を僕は…
あ…洗礼式…の…?

違う…これは…

「ノン!」
「シャノン様!」


これは……病院ーーーの……ーーー




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