巻き戻し?そんなの頼んでません。【完】

雪乃

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公爵令息②

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「……最後まで務めは果たすつもりだよ。……でもいちばんではなくなると思う。そんなんじゃ、果たすなんて言えないかな……」

「…」

「後釜になりそうなのも何人か目をつけてるんだ。
ヒュース家のレフロン、まだ子どもだけどグラン家のイーストリス…。
特にアスター家の双子、彼らはとても優秀でしょ?他にも訓練次第で強くなれる子たちがいる」

「…」

「俺がいなくなってもきっと、上手くやってくれる」

「……だから最近訓練に時間を取っていたのね……」

「まぁ戻れば・・・最初からだけどどう進めればいいかはわかったから効率は良くなるね」

「まだ教えるって決めてないわ」



そう言いながら、

どこか諦観したような妹の表情を見て心は少し痛んだけれど、決意は変わらなかった。


引き摺られている・・・・・・・・のをわかっていてももう不快感はなくてーー



「彼女にこれからのすべてを捧げたいんだ」



それだけが、すべて。










妹が俺を射る。



ふざけて魔力を使い果たしたり、無茶をした自分を咎めるときとおなじまなざしで。



「きっと後悔する……」



言い聞かせるように。



へらりと笑うのはいつも俺で、妹はいつもずっと大人だった。














『私には残らない。でもその頁には、隅のほうに始祖様のイタズラ書きがあるの。
……だからそれ・・を話してくれれば、私も共犯・・だって気づくわ』

『リアは何も悪くないよ。俺が無理矢理言わせたんだから』

『…そうかしら…』

『そうなんだよ。……抱きしめさせて、ティアリア』



このためだけに公爵邸に戻ってきてくれた妹に、ゆっくりできる時間はあまりない。

自室にいる姿を、懐かしいと感じるほどの時間は経っていないはずなのに。



『……次に会うときは知ってるけど知らない、お兄様になってるのね……』

『寂しいのは俺だよ』



だって自分の居場所はもう、ここじゃない気がしてる。






ーー二十、二十一グリテ、だったかな。


なら心の重さは?


それより軽いのか?


果たしてそうと、言えるのか。






『……行ってくる・・・・・







きみはきっと怒るだろう。

また蔑ろにされたと傷つき、絶望するだろう。

俺は後悔するだろう。


さらに抉るとわかっていて我を通し、それを目の当たりにして思い知る。





きみを。


ーーきみを、そっとしておいてあげられないことを謝りたい。


こんなになってまで・・・・・・・・・、追いかけてしまうことを。



きみの望みを叶えてやれないことを。


やさしいだけの世界を、与えてやれないことを。







いつか。



それでもいつかこんな世界も悪くないって、生きることを諦めないでくれたら。



きみがいつかまた、心から笑って日々を過ごせたら。





対価なんて俺には、もったいないくらいだ。








天秤リヴァル


























妹を抱きしめていたはずの俺はひとりの部屋で。


彼女より一年ほど前にいた。


瞬きのあいだのような時間を超えた先の世界は、まだ何も変わっていない。


すぐにでも向かいたかったけど、それができないのはわかってた。
限られたなかで、こちらでもやらなければいけないことがある。

訝しむ周りの目も当然だけど適当な理由で退けて仕事の合間、集めた目当ての人物たちの訓練に時間を費やし半年が過ぎる。
双子はやっぱり優秀で、そのころには魔力量も相当増え短時間の魔力供給なら問題はない。
責任感と度胸もあり、師団の仕事に怯むこともないのは心強かった。
ひたむきで、素直で、弱さを知ってる。
驕らず、無知は恥だと理解もしている。

レオや妹の力に、必ずなってくれる。


まだ靄がかる未来はきっと晴れる。





目処が立ち、ひそかにキュリオと連絡を取る。
向こうへ行く正当な言い訳・・・が欲しくて実現できないでいた招待を受けるために。

ほんとうの理由は会ったときに話す。



人使いが荒いレオも、いつもは口うるさいアシュトンにも、ずっと言われていた休暇を結果取ることになるから反対はされなかった。






当日。

見送りにきてくれたふたりといるティアリアの耳もとで去る間際、イタズラ書き・・・・・・について囁く。



『…行ってしまうまえ・・に私に伝えてね…』



そんな約束だけ守る狡い奴でごめん。



『……お兄様、私も、……救われることを祈ってるから……』



妹の表情も、生涯忘れることはないだろう。




















きみに再び会えたときの感情は言葉にできない。



生きてる。

生きている。




永遠だったらいいのに。


俺を見つめるきみを、いつまでも見ていたかった。








食の好みは変わっていないようだけど、量が少なすぎることが心配だった。
きみは食べることがすきだったのに。

海。

こんな青い色の海を見て、どう思うか聞きたかった。




夜にはきみの気配を探り、鼓動で眠りにつく。


笑っている。

生きている。




もう一度出会えたことがうれしくて。






自惚れていたんだ。



ーーきっときみも、

世界は鮮やかなんだって、また思うことができる。





そこには欠片ほども、きみの気持ちなど考えていなかったのに。





だから寿命時間なんだろう。

ひとを思いやることのできない愚かな人間が、

傲慢さの罪を知るには、じゅうぶんすぎるものだから。








目の前できみが、消えてゆく。

また、いなくなってしまう。





「ーー、ッーー!」





呼んだ名は、きみのーー。















ごめん。


ごめんね。


でも俺は、


いなくなってほしくない。


諦めてほしくない。


きみに、


知らないままでいてほしくない。





賑やかな雰囲気が苦手で、閉じこもりがちだった俺を連れ出してくれたのはきみだ。
俺の手を引いて、世界を見せてくれた。

今度は俺が、きみを新しい世界へ連れてゆく。

きみがそうしてくれたように。





どうか、

お願いだから、

俺の手を掴んで。



きみほど勇気がなくて伸ばすしかできない臆病者だけど、


すべての痛みを取り除くことができなくても、

きみを縛る鎖のひとつをほどいてみせるから。


俺がそれを持ってゆく。


きみを苦しめるものを俺がもらってゆくから。





だからどうか、笑っていて。






それだけを、祈るよ。
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