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しおりを挟む『責任を持ってあなたを看取る』
彼の立場も何もかも顧みず放った言葉に困惑しているのがわかったけれど引かなかった。
自分が何をしたか、わたしが何をしたか。見届ける権利がある。
あなたがいなくなるのならわたししかいないと、知らないところで死ぬなんてゆるさないと。
あなたが始めたことでしょう、と。
段々と色をなくしていった彼に言い続けた。
うなずくこともそれ以来口にすることもしなかったけれど、
彼ならそうするだろうと、わかっていた。
きっと彼は約束を守ってくれるから。
「…………こんな時間に来ることも、わたしの部屋に入ることも許可してないわ」
「うん。ごめんね。……迷ったけど、……きみの望みを叶えることは一度もできなかったから」
開け放したベランダで彼の声を背中越しにききながら月を見上げればあれだけ輝いていた月は。
薄雲がかかってしまったせいだろう。
ぼんやりと、輪郭すらわからないのは。
「最後だから叶えてやろうってわけね」
「ルコラ、」
「重荷だわ。最悪よ。わかってる?わたしはわたしのせいでひとが死んだって、殺したんだって、一生抱えていかなきゃならないのよ」
「……サシュのことは双子に頼んであるから心配しないで」
「それでどう?満足してる?思い通りになった?」
「何かあれば妹が相談に乗るから頼ってほしい」
「あなたはさっさといなくなる。聡明な妃殿下、王太子殿下、国、わたしは大勢から偉大な魔術師さまを殺した女だと恨まれる」
「忘れないで。必ずだよ」
「散々打ちのめして、傷痕だけ残していなくなるーーそんなことばかりわたしに押し付けて、わたしをこんな気持ちにさせて、」
ひどいと思う自分がおかしいのか。
未だに恨みごとしか言えず、ありがとうのひとことすら言えない自分が。
「……ルコラ……ごめん……」
だってわたしを置いて、いなくなるのに。
このぬくもりも、そのうち消えてなくなるのに。
両手を伸ばして抱きしめ合うこともできないわたしが、間違っているのか。
ぎゅ、っと、彼の腕を掴めば。
抱きすくめる力は強くなってそれがわたしを余計惨めにさせる。
彼の髪とわたしの髪が混じり合い、ゆれていた。
「ーー…でね、結果俺が大怪我しちゃったからリアは泣いて本気で怒って。
一月以上口きいてくれなかったなぁ…ゆるしてもらうまで大変だったよ。部屋に閉じこもって誰にも会わないからレオにもずいぶん恨まれたし。まぁ連れ出してくれたのもレオなんだけど」
テラスの床で隣り合い、座り込んで手をつないで。
彼は想い出を語る。
「ほとんど家族みたいにずっと一緒にいたから。
…俺の話をするときアイツらの出番は多くなるんだよね」
わたしがせがんだから。
わたしがその想い出を欲しいと言い、彼に頼んだから。
「でもリアはそれを覚えてないんだ」
「…どうして?」
「……リアは頑固で強がるところがあって。
自分でぜんぶ抱え込もうとするんだよね……それで一度失敗したんだ」
視線を感じたけれど、わたしは怖くて彼のほうを見れなかった。
「……初めてルコラを見たとき妹の姿が重なった。結果失うことはなかったけど、失うかもしれないと感じた恐怖は今も忘れてない。だから最初はそれだけだと思ってた」
「…」
「でもそうじゃなかったんだって気づいた。ルコラと妹はぜんぜん似てない……妹にこんな感情は抱かない」
「、どういう、」
つないだ手をやさしく握り返されて、胸が詰まった。
あぁ、もうーー。
顔を上げて、彼を見た。
わたしは怯えているのに、彼は変わらず微笑んでいる。
「ほんとにわからない?それともわざと?」
「っ」
「……でもいいよ、俺もこれ以上は言うつもりないから。……今はね」
その指が冷たいことに、気づきながら。
「…っ、…おねがい…」
「ん?」
「…っ」
「…どうしたの、…ルコラ」
息だって苦しげなことに、気づきながら。
「……ごめんなさい……ひどいことをして、ひどいことばかり言って、……こんなことを、して、……わたしはいつも自分のことばかり、」
わたしが頼んだ。わたしが願った。
だってつらいから。この先、きっとつらくていられなくなると思ったから。
「ごめんなさい、ブライスさま……でも、おねがいだから、いかないで……ごめんなさい……いかないで……」
わたしは結局さいごまで、自分のことしか考えていない。
「…泣かないで、…笑ってよ」
「…ッ」
「ぜーんぶ許す。謝ることなんて何もされてないけどね?だから笑って、泣かないで、ルコラ。
……それにさ、大丈夫だよ。今は俺ちょっといなくなっちゃうけど、また会えるよ」
そんなことわからないのに。今いてほしいのに。
こんなわたしをゆるすと言ってくれたあなたにそばにいてほしいのに。
「……だって前回も会って、今回も会えたんだよ?次だってぜったい会うに決まってる」
「っ…ほんと、に…?」
「信じて。だって俺魔法使いだし、俺の勘て当たるから」
でもあなたが笑って、
それが希望だというのなら。
「…………信じる…………」
わたしはそれを、信じてみようと思う。
「……ブライスさま、わたしを、……救ってくれてありがとう……」
ほとんど力のない重くなった手を両手で掬い、わたしは笑った。
「…ルコラ、いま、しあわせ…?」
「……はい」
そのまま近づく。彼のまばたきがいっしゅん止まる。
そしてわたしに、少年のようなはにかんだ笑顔をくれた。
「……またね、ルコラ……」
わたしの肩にもたれかかり、ちいさく息を吐く。
「……またね、……」
彼の手紙に、侯爵家の墓地に埋葬してほしいと書いてあった。
最後の我儘だから、そうしてほしいと。
すでに話が通っていると知ったのは、翌日キュリオ殿下が王太子殿下と妃殿下、側近の方とともに邸にやってきたから。
妃殿下は笑顔でわたしを抱きしめてくれた。頭を下げるわたしに、ありがとうと言って。
「執着がひどい。気をつけたほうがいいぞ」王太子殿下が真剣に語ると側近の方もうなずき、キュリオ殿下は笑っていた。
みんな笑顔だったけれど彼の眠る部屋からは長いあいだ出てこなかったし、埋葬するとき妃殿下は泣いていた。
泣かないでいたかったわたしもサシュの涙を見たら止まらなかったし、妃殿下とおなじようにまた泣いていた。
学園入学を控えたサシュは彼の弟子の双子と仲良く過ごしているし、セナとカノンの子どもたちも魔力の発現があったので双子はそちらの担当も担ってくれている。
妃殿下との手紙のやり取りも、途絶えることはない。
父が歩けるようにまで回復したと連絡があったのはずいぶん前のこと。
わたしも元気でやっている。
時間の針は進み、もう戻ることはない。
いつかそのときがきたら、彼のとなりで眠る。
頼まれてもいないけれど、勝手にそうすると決めている。
「…母上…?今少しお時間よろしいですか…?」
ドアからサシュが顔を覗かせる。
焦っているような表情は、先ほどした大きな音の正体について教えてくれるからだろう。
わたしは笑って立ち上がり、歩き出した。
END.
※お読みいただきありがとうございます!
俺たちの恋愛は来世だエンド。最初から決めてました。時間かかってすみません。
書き散らかしてます。よかったら読んでね♡
反応してくれて読んでくださった皆さまほんとうにありがとうございました♡
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