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【第一部】四章

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 「ねえ、チャリオ」
 「なんだ?」
 「あなた、もしかして」

 何を馬鹿なこと、と言われてもいい。思いきって訊いてみる。


 「ユリシーズ殿下?」


 チャリオの瞳をわずかに開いた。

 あ。やっぱり。

 その全然驚いてないように見えてきっと本人は最大限に驚いているその表情。
 少し前に見たユリシーズ殿下の表情そのものだった。

 「・・・何故、わかった」

 チャリオが伏し目がち言った。

 「えっと、さっきの説明で、ルブゼスタン・ヴォルシス国のこと、我が国って言ってたし、あんまり自分の国でも我が国って言わないかなぁって」
 「ああ、そうか・・・。そうだな・・・」

 全然気づいていなかったらしい。国の話だと素になってしまうのだろうか。

 「あ、あとね。瞳が時々、金色に光るの」

 最初は蛇や爬虫類の瞳に思えて足が竦んだけど、そうじゃなくて、もっと、そう。鷹とか梟とか猛禽類に近い瞳だと思った。

 「これは・・・すまない。自分の力が及ばないんだ」

 チャリオ基、ユリシーズは片目を手で隠した。
 ニコラは慌てて弁明する。

 「別に、嫌とかそう言うんじゃないの! 最初はちょっとびっくりしたけど、何回か見ているとね、ボタンみたいだなって」
 「釦・・・?」
 「う、うん。昔、小さい頃、お店で一目惚れしたんだけど高価な釦でまさか買う事なんて出来なくて、でも、綺麗だからどうしても欲しくて、ずっと見てたからかな。おばあちゃんが誕生日にプレゼントしてくれて、未だにもったいなくて使えてないんだけど、でも、ずっとお気に入りの、大切にしてる釦なの」

 話している途中から後悔の嵐だった。
 瞳を釦に喩えられて喜ぶ人なんているだろうか。いるわけない。

 「ごめんなさい。ユリシーズ殿下の瞳を、釦なんかに例えて・・・」

 ケイトだったらこういう時、すごく上手にフォロー出来るんだけどな。
 とニコラは自分のフォローの下手さに項垂れた。

 「いや、ニコラは、優しいんだな」

 掛けられた言葉に驚いて顔を上げると、ユリシーズが微笑んでいた。
 初めてちゃんと笑った顔を見た。
 笑うと、切れ長の瞳が、うんと柔らかい印象に変わる。
 少年の姿なのにユリシーズ殿下本来の姿が重なって見えて、ニコラは自分の頬が熱くなるのを感じた。

 「そ、それより、その姿、一体どうしたんですか?」
 「この姿は幼い時の姿だ。王宮から出るのだから姿を変えようと思った。アベルは嫌がったがな。本当はニコラと同じくらいの身長に合わせたかったのだが、調節が効かなかった」
 「幼い時の姿? 調節・・・?」

 ニコラは混乱した。

 「恥ずかしい話だが、力加減が上手く出来ないんだ。瞳の色が変わるのもそのせいだ。周りに同じハルクがいないので対処の方法もわからず困っている」
 「え・・・?」
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