拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第四章 南大陸

拾われ子VSアレックス 前編

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「ついに、ついにこの日が来てしまいました。血湧き肉躍る強者達の祭典も、この闘いが今回最後となります。今回の闘技大会コロセウムも様々な物語が生まれました――」

 扉を隔てて聞こえてくる、リポールによる決勝戦前のオープニングパフォーマンス。
 瞼を閉じ、ショートソードのグリップに手を置いているスイの心は、凪いだ水面のように静かだ。

『(熱い)』

 対して、リングを挟んだ反対側からは燃え盛る炎の様な気配をスイは感じていた。
 最後に話したのは三日前。決勝進出が決まった後だ。別に避けていた訳では無い。ただ、その時が来るまで、各々が必要な事をする為に必要な環境に居ただけだ。

「観客席のボルテージは最高潮! では、この二人はどうだ!? 東側――」

 扉が開く音に次いで、大歓声が轟いた。

『(不思議だ)』

 リングの上で止まった炎。既に大きな存在感を放っているそれは、ゆらりゆらりと揺れている。まるで、何かを抑えている様に。

『(今は、闘う事が嫌だとは思わない)』

 扉が開き、光が差し込んだ。スイは瞼を開けて、扉の外へ向かう。わっ、と更なる大歓声がスイにぶつかるが、スイは静かな面持ちのまま歩く。
 リングの上に在る炎が大きく揺れて、一際大きく燃え上がったのを感じながらスイはリングに上がり、最後にぶつかり合う相手――アレックスと対峙する。
 ずっと凪いでいた水面が、微かに波打った。

「(ハンターとして歩んできた道は似てんのに、対照的な二人だ。しかしまぁ、若い娘二人がとんでもねぇモノ視せやがる……)」

「(あの猛炎、大したものだ。だからこそスイ様のあの様子が嵐の前の静けさに思えてならん)」

 二人の闘志の機微。それは、スイとアレックスだけでなく、戦いに身を置く者達も感じ取っていた。

「前最年少ハンターのアレックス、現最年少ハンターのスイ。何と運命的な対峙でしょうか!」

 今大会、予選からずっと双剣を扱っていたアレックスは、今は大剣を持っている。
 それは、スイを相手にするならば一番馴染んだ武器で闘うべきと言う仲間への敬意と、一番馴染んだ武器でなければ勝てないだろうと言う、本気の表れ。

「この若い二人の持つ壮大な物語、そこに今、新たな物語が刻まれようとしています!」

 ショートソードを抜いたスイは、真っ直ぐにアレックスを見据えた。本気で刃をぶつけるのは、これが初めてとなる。
 これまで共に旅をしてきた仲間の望みに本気で応えたい。
 それと同時に、スイが今思っている事があった。

『(この人の「本気」を、真正面から見てみたい)』

 本気で戦う所を何度も見てきた。特殊個体や異常個体アノマリー討伐戦の時だって、アレックスは本気で戦っていた。スイと共に。
 スイよりも場数を踏んできた事で積み上げられた経験則。天性の戦闘センス。そこから繰り出される、圧倒的な力による一撃。
 最も身近な存在のハンターであり、先輩であり、仲間であり、友人でもあるその人の本気を、後ろからではなく真正面から見たい。
 それが、今のスイの望みだ。

「スイ」

『はい』

「君は優しいから、躊躇っているんじゃないかと思ってたけど……そんな心配はいらなかったみたいだね」

『はい。覚悟は決めて来ましたから。この闘い、私はアレックスさんの胸を借りるつもりはありません』

「!」

『本気で倒しにいきます――ハンターアレックス』

 宣戦布告をすると共に、ハンターに対する最大の敬称で呼ぶと、スイはショートソードを構える。

「……嬉しいよ、ありがとう」

 いつになく静かにそう言うと、アレックスも大剣を構えた。

「アタシの熱に、君なら簡単に焼き尽くされないって信じてるよ。ハンタースイ」

 熱と冷気が渦巻く。
 二人を間近で見るリポールは、ごくりと音を立てて喉を鳴らした事で、自身が知らぬ間に気圧されていた事に気付いた。

「……この闘いは、伝説になる。この先ずっと語り継がれる。そんな予感がします。それではアレックスVSスイ……」

 八重歯を見せて笑ったアレックスの背後で、空に向かって燃え盛る炎がスイには視えた。
 同時にアレックスも、スイの凪いでいた水面が荒れ乱れ始める様子を感じ取った。

「決勝戦、開始!」

 炎と水がぶつかり合い、闘技場内の空気が大きく揺れた。
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