拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第四章 南大陸

拾われ子と惨禍 三十二 ―三人の一撃―

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「混乱した者から離れろ! ハンターの内、攻撃部隊は堕龍からの攻撃に注意しつつ、倒れた者を後方まで運べ! 防御部隊は治癒士や魔導師が狙われない様に守れ!  治癒士は至急解毒魔法を、魔導師は我等全員に耐性向上をもう一度掛けろ!」

 フリーデの指示に、援護部隊全員が動き始めた。治癒士と魔導師は後ろに退がり、それぞれ魔法をかける。ハンター達は二部隊に分かれて混乱者や堕龍の攻撃から仲間を守った。
 被毒者全員の解毒が終わり、態勢を立て直すまでは後衛からの援護は殆ど無くなる。
 上空に浮かぶ堕龍に、魔法が不得手で打てる手が無くなったアレックスは文句をぶつけた。

「ずっと飛んでんのズルいぞコラァ! 降りてこい!」

 スイとコハク、ソウジロウは魔法を空に向けて撃つが、自由自在に空を飛ぶ堕龍に難なく躱されてしまう。

『(私も、さっきみたいに飛べたら……!)』

 微かに記憶があるが、どうやって身体を浮かせていたのか、スイは思い出せない。

『(精霊術は想像で創造する。空に浮かぶなら、風の精霊術かな。自由に飛ぶのを想像して……霊力はどうすれば良いんだろう)』

《スイ?》

『(自由に飛ぶ……ザクロやセイみたいに……)』

 コハクの声も届かない程、深く深くスイは集中する。記憶の片隅に薄らと残っている、セイとの想い出を探る。
 スイの額の右角が風を纏い、翡翠の眼がより強く輝きを増した。

《スイ!? スイ、どうした!?》

『え? わっ!?』

 コハクの背からふわりと離れたスイは、宙に浮いていた。不安定にゆらゆらと揺れながらどんどんコハクから離れていく。

『わ、わっ…………っ!?』

 殺気を感じて其方に向けば、ノズチが口を開けていた。口腔から紫炎の魔力を感じる。

《スイ!!》

「スイ様!!」

『来ないでください!』

 狙われているのは自分だ。他の三人まで巻き添えにする訳にはいかない。
 スイは霊力を最大限まで高める。紫炎が吐かれたのと同時にノズチに向けて雷撃を放った。

『くぅっ……うぁぁぁっ!!』

 ぶつかり合う炎と雷が爆ぜる。刹那、閃光がリーディンシャウフの荒れた町並みを照らした。爆風と瓦礫が全員を襲う。
 砂埃で視界が埋め尽くされる。コハクの傍に、ベルトの切れたアイテムポーチが落ちてきた。

《スイ!! 大丈夫か!?》

『……だ、大丈夫……』

 上空まで覆う程の砂埃が晴れていく。
 そこには、霊力と魔力の衝突による衝撃に耐えて疲労困憊のスイが浮かんでいた。
 マントはボロ布となり、元々壊れかけていた胸当ては外れて飛ばされたのか、失くなっている。服は裾や袖が熱風で焼け焦げて所々に穴も空いていた。

 顔や手足に幾つも火傷や裂傷を負い、血が風に流れて疎らに地面に落ちていく。
 霊力の大半を使った為に疲れた顔をしているが、ショートソードを離さずに握りしめて空に在る姿に不安定さはない。
 ぼろぼろにはなったが致命傷を負った様子は無いスイに、アレックス達に安堵の表情が広がる。

「治癒士、スイに治癒魔法をかけて!! 最優先だ、早く!!」

「はい!」

 アレックスの指示に、エルサが直ぐに反応して治癒魔法をかける。離れた距離でもすぐに傷が癒え、火傷も綺麗に治してみせた。
 スイは剣を持っていない左手でマントを掴んで見る。第三王子のクリスから贈られた、高耐久で属性付与された物だが、ここまでぼろぼろになると闇耐性はあまり期待出来ないだろう。
 そう思い、動きやすさを優先する為に外す。堕龍から気を逸らさずに地面近くまで降りると、効果があるかは判らないが大きめの瓦礫を重石にしてマントを置いた。

『コハク』

 危うく死にかけた所で要領を掴んだのか、危なげなく隣まで飛んできたスイにコハクは喉を鳴らして応える。

『私は自分で飛ぶから、必要だと判断したらアレックスさんかソウジロウさんを乗せてあげて』

《……スイの頼みなら仕方無い。解った》

 ザクロとシュウなら構わないが、スイを乗せずに別の誰かを乗せる事にコハクは気が乗らない。だが、そんな事を言っている場合では無い事は理解している。
 不承不承ながら頷いたコハクの尻尾がやや垂れた。

『ありがとう』

《後で、いっぱい頭と耳と首撫でて》

『お腹はいいの?』

《……腹も》

『うん』

 頭を撫でて、一先ずのご機嫌取りを終えるとアレックスが駆け寄ってきた。
 丁度良いと、スイはアレックスにコハクの事を伝える。

「スイは大丈夫なの?」

『はい。今なら自由に空でもはしれます』

「そっか……そっか、そうか……! なら、コハク。早速アタシを乗せて欲しい。で、スイ」

『はい』

 アレックスの提案に、目を見開いたスイとコハクは顔を見合わせると、アレックスへと顔を向けて同時に頷いた。

『やりましょう。お願いします』

「任せて。コハクも、頼んだよ」

 言葉が通じない代わりに、コハクは一鳴きして荒く鼻息を吐いた。
 アレックスがコハクに跨ると、ふたりが各々しっくりくる様に体勢を整える。コハクがアレックスに顔を向け、アレックスが頷いてみせると、コハクは前を向いて走り出した。
 スイが援護部隊に眼を向けると、被毒者全員の解毒がそろそろ完了するところだった。それを確認したスイは、雷と氷の魔法・・を同時発動させて堕龍を牽制すると、ソウジロウへとはしった。

『ソウジロウさん』

「スイ様。爺めの寿命が縮まりましたぞ」

『すみません』

 眉を下げて申し訳なさそうにするスイは、普段のスイだ。ソウジロウの眼が和らぐ。

「……確かにスイ様であられますな。ご無事で何よりでございます」

 怪我もだが、スイがスイであるかにソウジロウは気を揉んだ。だが心配は杞憂だったと知る。

「援護部隊も大丈夫そうですな。しかし、彼等が復活してもどうやって彼奴を空から引き摺り下ろすか……」

『ソウジロウさん。それなんですが――』

 スイはソウジロウにアレックスの作戦を説明する。
 聞き終えると、頷いたソウジロウはスイに武運を祈り、援護部隊の方へと走った。
 コハクがノズチに向かって走る。このまま跳んでは流石のコハクでも届かないが、空中に幾つもの氷の板が生まれた。

「!?」

 目を見開いた堕龍に、今の内だとばかりにコハクは氷の足場を次から次へと跳び移る。
 迫ってくるコハクにノズチが狙いを定めるが、横面に氷の塊が当たった。

「ガッ!?」

 続けて飛んできた氷槍はぎりぎりで躱す。
 発動先を探したノズチの眼が、離れた所にいるソウジロウに向いた。
 紫炎を吐こうと口を開けた所で、そう言えばとハッとしたノズチは反対側に顔を向ける。
 視線の先には、自身を越える高さまで上ったコハクとアレックスがいた。

「そろそろだ。やるよ、コハク。アタシが降りたら直ぐに離れるんだよ」

 グルッ、とコハクが鳴いたのを確認してアレックスがコハクの背から飛び降りた。
 空気抵抗を受けながらノズチの背中に着地すると、アイテムポーチに手を入れる。身体強化ストレングスで最大まで膂力を強化すると、取り出した物を思いっきり二対の翼の間に突き刺した。

「グアアッ!?」

 硬化した鱗すら破壊して突き刺さった物は何だと、ノズチが振り向く。大きく動いた勢いを利用して宙に身を投げたアレックスは、空を仰いで主攻を託す。
 氷の足場を創り出した後、気配を消してノズチよりも上空に行き、霊力の回復を図っていたスイへと。

「スイ! 特大のやつを撃ち込めぇぇ!!」

 右手に剣を持ったまま、スイはノズチの背中に降りた。其処にある、アレックスが突き刺した物――ニコラスの槍を左手で掴む。

『!?』

 時間にして僅か一、二秒。その間、二人を繋ぐニコラスの槍を介して、スイの頭の中に流れてくる景色と感情があった。
 スイの右角が纏う雷が、音を鳴らして小さく爆ぜる。

「!? 離レ、ろぉォおォォ!!」

 危機を感じたノズチが暴れるが、スイは槍から手を離さずに辺りを探る。
 ソウジロウから話を聞いたであろう援護部隊はかなり後方まで退がり、アレックスとコハクも充分離れた。
 暴れ回る音で掻き消されるそれは独り言か、それともノズチへ語る言葉か。

『…………それでも』

 スイの遙か頭上、雷雲の表面で円上に雷が疾っている。まるで番えた矢を引き絞る様に、円雷の中心に強い力が集まっていく。

『それでも私は、あなたを赦せない』

 振り落とされぬ様にと掴んでいた手の指先が更に白くなる程、スイは槍を強く握る。
 肌に痺れを感じながら、アレックスがスイとノズチを見上げた。

『「これが」』

 スイと、アレックスと、ニコラス。

『私達の』
「アタシ達の」

 三人のハンターによる、一撃。

『「怒りだ!!」』

 槍よりも身を低くして、スイが全霊力を放つ。
 雷鳴を伴い、矢の如くそらから放たれた疾雷が夜闇を切り裂いてノズチを穿つらぬいた。

「――――――ッッ!?」

 ニコラスの槍を伝った雷がノズチの体内を駆け巡る。脳天を突き抜ける激痛と衝撃に、声にならない絶叫をあげて堕龍ノズチの巨体は音を立てて地に墜ちた。
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