エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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2・6年後に再会

6年後、同僚とのトラブルと再会(1)

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「広春。準備、できた?」
「うん……」

 子ども用のタキシードに身を包んだ息子は、父親そっくりだ。

  (あれから6年も経ったのに、まだ広春に清広さんの面影を探してしまうなんて……)

 母親失格だと自己嫌悪に陥りながら、意味もなくスマートフォンを使って写真を撮影する。

「ママは? 一緒に、映らないの?」
「私はいいかな」
「どうして……?」
「写真に自分の姿を、残したくないんだ」

 息子単体の画像ばかりを残しているのは、いつか清広が戻ってきた時にその成長を見せたかったからだ。

  (もう、待つのは止めたはずなのに……。未練がましいな……)

 仕事をしながら女手1つで幼い子どもを育てるのは、とても大変だった。
 とてもじゃないが、最愛の人にはこんなふうに苦労をしている姿など見せたくなかったのだ。

「悲しい……」
「うんん。そんなことないよ。これから、ママがお世話になっている人の晴れ舞台なんだ」
「おひさま?」
「そうだよ。広春も、太陽みたいな笑顔で祝福してあげてね」

 泣けない母親の代わりに瞳を潤ませた息子の頭部を優しく撫でつけてやれば、どうにか機嫌を持ち直させることに成功した。

「わかった。僕、ママの分まで、お祝いする!」
「広春は本当に、いい子で助かるよ」

 外出準備を終えた親子は仲良く手を繋ぎ、結婚式場へと足を運んだ。

「怖い……!」
「大人がこんなにたくさんいるところ、広春は来たことないもんね。大丈夫だよ。ママが、ずっと一緒にいるから」
「本当……?」

 受付を済ませた直後、会場に集まる大人達の姿を目にした息子がぐずり出した。
 邪魔にならないところでしゃがみ込んで説得を試みれば、後方から声をかけられる。

「あれ? 金沢さん?」
山田やまださん……」

 それは職場の同僚、山田だった。
 2人の相性は、はっきり言って最悪だ。
 彼女が一方的につぐみを嫌っており、顔を合わせるたびにチクチクと嫌味を言ってくる。
 だからこそ、お世話になった上司の披露宴に子どもを連れて参加などしたくはなかったのだが……。
 女性だけの職場で1人だけ欠席すると角が立つ。
 後々のことを考えたら不参加に丸などつけられるはずもなく、渋々息子と一緒に出席を決めたのだ。

「へぇ~。子持ちって噂、ほんとだったんだ! 金沢さんに、全然似てないね!」
「父親に、そっくりなので……」
「ふぅん。旦那さんは? 見当たらないけど……」
「ママ……」

 山田はキョロキョロとあたりを見渡すが、父親の姿が見つかるはずなどない。

  (広春が、不安がってる……。早く話を切り上げて、着席しなきゃ……)

 つぐみは息子を安心させるように絡めた指先に力を込めると、気まずそうに視線を反らしながらずっとひた隠しにしていた事情を簡単に説明する。

「父親は、いません。結婚は、しなかったので……」
「へぇ~。逃げられたの?」
「私がこの子の父親との間に何があったのかを詳らかにしたところで、山田さんにはまったく関係がないですよね」
「ええ。ただの興味本位。世間話だよ。でも……。そんなにムキになるってことは、案外当たってたりして?」

 彼女はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべ、こちらを挑発してくる。
 普段はお互いの気が済むまでバチバチと火花を散らし合うが、今日は息子も一緒だ。
 つぐみが苛立ちを隠せない様子を見せた途端に、広春と繋いでいた指先の力が強まった。
 このことから察するに、子どもが大泣きを始めるのはそう遠くないだろう。

「怒りっぽい性格、しているもんね~。そりゃ、彼氏も愛想尽かして逃げるか。ああ、もしかして、一夜だけの関係だったりする?」
「あの、もういいですよね。こんなどうでもいい話で、晴れの舞台を台無しにするのは……」
「悪いのはあたしじゃなくて、人には言えないような過程で生まれた子どもを連れてきた、金沢さんのほうでしょ?」

 同僚はニヤニヤと口元を綻ばせ、広春のほうへ視線を向けた。
 彼女がわざと息子に罪悪感を与えるような発言をしているのは、すぐにわかった。

  (なんて、意地汚い人なんだろう……)

 つぐみは山田に対する怒りをぐっと堪え、不安そうに瞳を潤ませる子どもを慰めた。
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