6 / 12
2・6年後に再会
6年後、同僚とのトラブルと再会(1)
しおりを挟む
「広春。準備、できた?」
「うん……」
子ども用のタキシードに身を包んだ息子は、父親そっくりだ。
(あれから6年も経ったのに、まだ広春に清広さんの面影を探してしまうなんて……)
母親失格だと自己嫌悪に陥りながら、意味もなくスマートフォンを使って写真を撮影する。
「ママは? 一緒に、映らないの?」
「私はいいかな」
「どうして……?」
「写真に自分の姿を、残したくないんだ」
息子単体の画像ばかりを残しているのは、いつか清広が戻ってきた時にその成長を見せたかったからだ。
(もう、待つのは止めたはずなのに……。未練がましいな……)
仕事をしながら女手1つで幼い子どもを育てるのは、とても大変だった。
とてもじゃないが、最愛の人にはこんなふうに苦労をしている姿など見せたくなかったのだ。
「悲しい……」
「うんん。そんなことないよ。これから、ママがお世話になっている人の晴れ舞台なんだ」
「おひさま?」
「そうだよ。広春も、太陽みたいな笑顔で祝福してあげてね」
泣けない母親の代わりに瞳を潤ませた息子の頭部を優しく撫でつけてやれば、どうにか機嫌を持ち直させることに成功した。
「わかった。僕、ママの分まで、お祝いする!」
「広春は本当に、いい子で助かるよ」
外出準備を終えた親子は仲良く手を繋ぎ、結婚式場へと足を運んだ。
「怖い……!」
「大人がこんなにたくさんいるところ、広春は来たことないもんね。大丈夫だよ。ママが、ずっと一緒にいるから」
「本当……?」
受付を済ませた直後、会場に集まる大人達の姿を目にした息子がぐずり出した。
邪魔にならないところでしゃがみ込んで説得を試みれば、後方から声をかけられる。
「あれ? 金沢さん?」
「山田さん……」
それは職場の同僚、山田だった。
2人の相性は、はっきり言って最悪だ。
彼女が一方的につぐみを嫌っており、顔を合わせるたびにチクチクと嫌味を言ってくる。
だからこそ、お世話になった上司の披露宴に子どもを連れて参加などしたくはなかったのだが……。
女性だけの職場で1人だけ欠席すると角が立つ。
後々のことを考えたら不参加に丸などつけられるはずもなく、渋々息子と一緒に出席を決めたのだ。
「へぇ~。子持ちって噂、ほんとだったんだ! 金沢さんに、全然似てないね!」
「父親に、そっくりなので……」
「ふぅん。旦那さんは? 見当たらないけど……」
「ママ……」
山田はキョロキョロとあたりを見渡すが、父親の姿が見つかるはずなどない。
(広春が、不安がってる……。早く話を切り上げて、着席しなきゃ……)
つぐみは息子を安心させるように絡めた指先に力を込めると、気まずそうに視線を反らしながらずっとひた隠しにしていた事情を簡単に説明する。
「父親は、いません。結婚は、しなかったので……」
「へぇ~。逃げられたの?」
「私がこの子の父親との間に何があったのかを詳らかにしたところで、山田さんにはまったく関係がないですよね」
「ええ。ただの興味本位。世間話だよ。でも……。そんなにムキになるってことは、案外当たってたりして?」
彼女はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべ、こちらを挑発してくる。
普段はお互いの気が済むまでバチバチと火花を散らし合うが、今日は息子も一緒だ。
つぐみが苛立ちを隠せない様子を見せた途端に、広春と繋いでいた指先の力が強まった。
このことから察するに、子どもが大泣きを始めるのはそう遠くないだろう。
「怒りっぽい性格、しているもんね~。そりゃ、彼氏も愛想尽かして逃げるか。ああ、もしかして、一夜だけの関係だったりする?」
「あの、もういいですよね。こんなどうでもいい話で、晴れの舞台を台無しにするのは……」
「悪いのはあたしじゃなくて、人には言えないような過程で生まれた子どもを連れてきた、金沢さんのほうでしょ?」
同僚はニヤニヤと口元を綻ばせ、広春のほうへ視線を向けた。
彼女がわざと息子に罪悪感を与えるような発言をしているのは、すぐにわかった。
(なんて、意地汚い人なんだろう……)
つぐみは山田に対する怒りをぐっと堪え、不安そうに瞳を潤ませる子どもを慰めた。
「うん……」
子ども用のタキシードに身を包んだ息子は、父親そっくりだ。
(あれから6年も経ったのに、まだ広春に清広さんの面影を探してしまうなんて……)
母親失格だと自己嫌悪に陥りながら、意味もなくスマートフォンを使って写真を撮影する。
「ママは? 一緒に、映らないの?」
「私はいいかな」
「どうして……?」
「写真に自分の姿を、残したくないんだ」
息子単体の画像ばかりを残しているのは、いつか清広が戻ってきた時にその成長を見せたかったからだ。
(もう、待つのは止めたはずなのに……。未練がましいな……)
仕事をしながら女手1つで幼い子どもを育てるのは、とても大変だった。
とてもじゃないが、最愛の人にはこんなふうに苦労をしている姿など見せたくなかったのだ。
「悲しい……」
「うんん。そんなことないよ。これから、ママがお世話になっている人の晴れ舞台なんだ」
「おひさま?」
「そうだよ。広春も、太陽みたいな笑顔で祝福してあげてね」
泣けない母親の代わりに瞳を潤ませた息子の頭部を優しく撫でつけてやれば、どうにか機嫌を持ち直させることに成功した。
「わかった。僕、ママの分まで、お祝いする!」
「広春は本当に、いい子で助かるよ」
外出準備を終えた親子は仲良く手を繋ぎ、結婚式場へと足を運んだ。
「怖い……!」
「大人がこんなにたくさんいるところ、広春は来たことないもんね。大丈夫だよ。ママが、ずっと一緒にいるから」
「本当……?」
受付を済ませた直後、会場に集まる大人達の姿を目にした息子がぐずり出した。
邪魔にならないところでしゃがみ込んで説得を試みれば、後方から声をかけられる。
「あれ? 金沢さん?」
「山田さん……」
それは職場の同僚、山田だった。
2人の相性は、はっきり言って最悪だ。
彼女が一方的につぐみを嫌っており、顔を合わせるたびにチクチクと嫌味を言ってくる。
だからこそ、お世話になった上司の披露宴に子どもを連れて参加などしたくはなかったのだが……。
女性だけの職場で1人だけ欠席すると角が立つ。
後々のことを考えたら不参加に丸などつけられるはずもなく、渋々息子と一緒に出席を決めたのだ。
「へぇ~。子持ちって噂、ほんとだったんだ! 金沢さんに、全然似てないね!」
「父親に、そっくりなので……」
「ふぅん。旦那さんは? 見当たらないけど……」
「ママ……」
山田はキョロキョロとあたりを見渡すが、父親の姿が見つかるはずなどない。
(広春が、不安がってる……。早く話を切り上げて、着席しなきゃ……)
つぐみは息子を安心させるように絡めた指先に力を込めると、気まずそうに視線を反らしながらずっとひた隠しにしていた事情を簡単に説明する。
「父親は、いません。結婚は、しなかったので……」
「へぇ~。逃げられたの?」
「私がこの子の父親との間に何があったのかを詳らかにしたところで、山田さんにはまったく関係がないですよね」
「ええ。ただの興味本位。世間話だよ。でも……。そんなにムキになるってことは、案外当たってたりして?」
彼女はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべ、こちらを挑発してくる。
普段はお互いの気が済むまでバチバチと火花を散らし合うが、今日は息子も一緒だ。
つぐみが苛立ちを隠せない様子を見せた途端に、広春と繋いでいた指先の力が強まった。
このことから察するに、子どもが大泣きを始めるのはそう遠くないだろう。
「怒りっぽい性格、しているもんね~。そりゃ、彼氏も愛想尽かして逃げるか。ああ、もしかして、一夜だけの関係だったりする?」
「あの、もういいですよね。こんなどうでもいい話で、晴れの舞台を台無しにするのは……」
「悪いのはあたしじゃなくて、人には言えないような過程で生まれた子どもを連れてきた、金沢さんのほうでしょ?」
同僚はニヤニヤと口元を綻ばせ、広春のほうへ視線を向けた。
彼女がわざと息子に罪悪感を与えるような発言をしているのは、すぐにわかった。
(なんて、意地汚い人なんだろう……)
つぐみは山田に対する怒りをぐっと堪え、不安そうに瞳を潤ませる子どもを慰めた。
0
あなたにおすすめの小説
敏腕SEの優しすぎる独占愛
春咲さゆ
恋愛
仕事も恋愛も、兎に角どん底の毎日だった。
あの日、あの雨の夜、貴方に出逢うまでは。
「終わらせてくれたら良かったのに」
人生のどん底にいた、26歳OL。
木崎 茉莉 ~kisaki matsuri~
×
「泣いたらいいよ。傍にいるから」
雨の日に現れた、30歳システムエンジニア。
藤堂 柊真 ~Todo Syuma~
雨の夜の出会いがもたらした
最高の溺愛ストーリー。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる