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2・6年後に再会
もう二度と、離さない (1)
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「怖いお姉さん、いなくなった……?」
「ああ。もう、心配いらない」
「よかった……」
泣きべそをかいていた広春はほっと胸を撫で下ろし、父親の胸元に身体を預けた。
(無理やり引き剥がしたら、泣いてしまうかも……)
つぐみは迷った末、息子が自分から母親の元へ戻りたいと言うまでは黙って見守る体制に入る。
「おじさんは、やっぱり王子様だ」
「いや……それは……」
「ママと僕のこと、助けてくれた。どうしたら、おじさんみたいになれる?」
「そうだな……。俺と一緒にいたら、いつかはわかるかもしれん」
「本当!?」
しかし、すぐに己が判断を誤ったことに気づかされた。
息子がすっかり父親の虜になり、羨望の眼差しを向けていたからだ。
「広春……。清広さんと、ずっと一緒にはいられないんだよ」
「どうして?」
「私達は、夫婦じゃないから」
「なんで?」
「お互いに大好きじゃないと、夫婦にはなれないんだよ」
「おじさんは、ママを助けてくれたのに……?」
「ああ。君の疑問は、ご尤もだ。つぐみを愛していなければ、俺は助けなかっただろう」
「やっぱり!」
清広は先程まで同僚に見せていた剣呑な表情など見る影もなく、優しく目元を緩めると、息子に笑いかけた。
「夫婦になれば、俺が君の父親としてそばにいることにもなる」
「王子様が、僕のパパになってくれるの……?」
「き、清広さん。その話は、まだ……」
「そうだ」
「ほんと!?」
広春は驚きを隠せぬ様子で、キラキラと瞳を輝かせて前のめりになる。
そんな息子を優しい瞳で見つめた彼は、こちらに視線を移した。
「俺が父親になるのを、認めてくれたらの話だがな……」
「いいよ!」
息子にとっては非日常的な格好をした彼は不審者ではなく、母親を助けてくれたかっこいい人に映るのだろう。
2つ返事で清広を受け入れた広春は、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう」
「どういたしまして!」
「君の名前は……」
「僕、金沢広春……」
「これからは、安堂広春だな」
「あんどー?」
「ああ」
父子は母親そっちのけでどんどんと会話を進めている。
とてもじゃないが、この場で「清広さんとは結婚なんかしません」などとは言える雰囲気ではなかった。
「これから俺達は、披露宴に参列する。式が終わるまで、大人しくできるか?」
「パパとママが一緒なら、平気!」
「広春は、いい子だな」
「うん! だって、そうしなきゃ、ママが困るから……」
息子は悲しそうに目を伏せると、その姿を目にした父親もまた申し訳ないと言う態度を前面に出しながら、つぐみに話しかけた。
「今まで君には、たくさん苦労をかけてしまったな」
「どうして今さら、助けたの? あんなにも、私からの連絡を拒否していた癖に……」
「今日、こうして巡り会えたのは完全なる偶然だ」
「無視することだって、できたはずでしょ……?」
「そうだな」
清広との再会が嬉しくて仕方がないはずなのに、「今さら一体なんのようだ」と酷い態度を取ってしまう。
そんな自分の態度を見て自己嫌悪に陥りながらも、彼に問いかける。
「だったら、どうして」
「最愛の女性が着飾った姿で幼い子どもを庇いつつ口論を続ける姿を目にしたら、見て見ぬふりなどできなかった」
清広はどこか困ったように眉を伏せたあと、どこか昔を懐かしむようにぽつりと呟いた。
「あの頃に比べて、随分と綺麗になったな。もう、立派な大人の女性だ。とても、1児の母とは思えぬほどに……」
この程度の褒め言葉で陥落するなど、冗談ではなかった。
6年前はどれほど彼の隣にいたいと願っても許されなかったのに、清広はつぐみの気持ちが上手く追いついていないのをいいことにドンドンと距離を詰めてくる。
それが馬鹿にされているような気がして、悔しくて仕方がない。
「清広さんは、勝手すぎるよ……」
「すまない」
「ちゃんと説明してくれなきゃ、納得できないから」
「そうだな」
「もう二度と、私に何も言わずにどこかへ行かないで」
「それは……」
つぐみは真っ当な主張をしているはずなのに、口を開くたびに清広の顔色が曇っていく。
あまりにも不誠実としか言いようのない彼の対応に、苛立ちを隠せなかった。
「なんで、約束できないの?」
「話せば、長くなるんだ」
「その理由を打ち明けるまでは、そばにいてくれる?」
「俺の時間が、許す限り」
この話を聞いて、「仕方ないね」と納得できる人の方が少ないだろう。
裏を返せば、いつだって彼は「時間がない」と言って姿を消す可能性があるのだから。
「ああ。もう、心配いらない」
「よかった……」
泣きべそをかいていた広春はほっと胸を撫で下ろし、父親の胸元に身体を預けた。
(無理やり引き剥がしたら、泣いてしまうかも……)
つぐみは迷った末、息子が自分から母親の元へ戻りたいと言うまでは黙って見守る体制に入る。
「おじさんは、やっぱり王子様だ」
「いや……それは……」
「ママと僕のこと、助けてくれた。どうしたら、おじさんみたいになれる?」
「そうだな……。俺と一緒にいたら、いつかはわかるかもしれん」
「本当!?」
しかし、すぐに己が判断を誤ったことに気づかされた。
息子がすっかり父親の虜になり、羨望の眼差しを向けていたからだ。
「広春……。清広さんと、ずっと一緒にはいられないんだよ」
「どうして?」
「私達は、夫婦じゃないから」
「なんで?」
「お互いに大好きじゃないと、夫婦にはなれないんだよ」
「おじさんは、ママを助けてくれたのに……?」
「ああ。君の疑問は、ご尤もだ。つぐみを愛していなければ、俺は助けなかっただろう」
「やっぱり!」
清広は先程まで同僚に見せていた剣呑な表情など見る影もなく、優しく目元を緩めると、息子に笑いかけた。
「夫婦になれば、俺が君の父親としてそばにいることにもなる」
「王子様が、僕のパパになってくれるの……?」
「き、清広さん。その話は、まだ……」
「そうだ」
「ほんと!?」
広春は驚きを隠せぬ様子で、キラキラと瞳を輝かせて前のめりになる。
そんな息子を優しい瞳で見つめた彼は、こちらに視線を移した。
「俺が父親になるのを、認めてくれたらの話だがな……」
「いいよ!」
息子にとっては非日常的な格好をした彼は不審者ではなく、母親を助けてくれたかっこいい人に映るのだろう。
2つ返事で清広を受け入れた広春は、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう」
「どういたしまして!」
「君の名前は……」
「僕、金沢広春……」
「これからは、安堂広春だな」
「あんどー?」
「ああ」
父子は母親そっちのけでどんどんと会話を進めている。
とてもじゃないが、この場で「清広さんとは結婚なんかしません」などとは言える雰囲気ではなかった。
「これから俺達は、披露宴に参列する。式が終わるまで、大人しくできるか?」
「パパとママが一緒なら、平気!」
「広春は、いい子だな」
「うん! だって、そうしなきゃ、ママが困るから……」
息子は悲しそうに目を伏せると、その姿を目にした父親もまた申し訳ないと言う態度を前面に出しながら、つぐみに話しかけた。
「今まで君には、たくさん苦労をかけてしまったな」
「どうして今さら、助けたの? あんなにも、私からの連絡を拒否していた癖に……」
「今日、こうして巡り会えたのは完全なる偶然だ」
「無視することだって、できたはずでしょ……?」
「そうだな」
清広との再会が嬉しくて仕方がないはずなのに、「今さら一体なんのようだ」と酷い態度を取ってしまう。
そんな自分の態度を見て自己嫌悪に陥りながらも、彼に問いかける。
「だったら、どうして」
「最愛の女性が着飾った姿で幼い子どもを庇いつつ口論を続ける姿を目にしたら、見て見ぬふりなどできなかった」
清広はどこか困ったように眉を伏せたあと、どこか昔を懐かしむようにぽつりと呟いた。
「あの頃に比べて、随分と綺麗になったな。もう、立派な大人の女性だ。とても、1児の母とは思えぬほどに……」
この程度の褒め言葉で陥落するなど、冗談ではなかった。
6年前はどれほど彼の隣にいたいと願っても許されなかったのに、清広はつぐみの気持ちが上手く追いついていないのをいいことにドンドンと距離を詰めてくる。
それが馬鹿にされているような気がして、悔しくて仕方がない。
「清広さんは、勝手すぎるよ……」
「すまない」
「ちゃんと説明してくれなきゃ、納得できないから」
「そうだな」
「もう二度と、私に何も言わずにどこかへ行かないで」
「それは……」
つぐみは真っ当な主張をしているはずなのに、口を開くたびに清広の顔色が曇っていく。
あまりにも不誠実としか言いようのない彼の対応に、苛立ちを隠せなかった。
「なんで、約束できないの?」
「話せば、長くなるんだ」
「その理由を打ち明けるまでは、そばにいてくれる?」
「俺の時間が、許す限り」
この話を聞いて、「仕方ないね」と納得できる人の方が少ないだろう。
裏を返せば、いつだって彼は「時間がない」と言って姿を消す可能性があるのだから。
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