エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

文字の大きさ
21 / 62
2・6年後に再会

海を見つめて(1)

しおりを挟む
「着いたぞ」
「ふかふかー!」

 清広の腕から降りた広春は、砂浜を歩く感覚に大はしゃぎしながら、大人達の周りをくるくると走り回る。
 そんな息子の姿を見つめ、つぐみは慌てて声をかけた。

「目が回るよ」
「大丈夫ー!」
「危ないから、もう……」
「わ……っ!」

 だが、どうやら一歩遅かったようだ。
 広春は自分で作った窪みに嵌まって躓き、バランスを崩してしまう。

 (だから、言ったのに……!)

 このままでは砂浜に埋まった貝殻にぶつかり、怪我をするかもしれない。
 慌てて息子を抱き留めようとするが、2人の間には距離がある。

 (間に合わない……!)

 焦ったつぐみはグイグイと手を伸ばせば届く距離にいる彼の身体を広春の方へ押し、無言で助けを求めた。

「広春……!」
「あれ……? 痛くない……?」

 その甲斐あって、清広はどうにか息子が砂浜へ倒れ込む前に抱き止めることに成功した。
 広春はキョロキョロとあたりを見渡して己の小さな身体が父親の腕に収まっていると知るや否や、笑顔でお礼を告げた。

「ありがとう! パパ!」
「どういたしまして。走り回るのは、危険だ。広春が病院に運ばれたら、ママはもう二度とここになど来たくないと言うかもしれん……」
「まだ、来たばっかりなのに?」
「ああ。だから、つぐみが文句を言わない方法で遊ぼう」
「それって、どんなこと?」
「例えば……。貝殻拾いや、ヤドカリ探しなどだろうか」
「するー!」

 先程はしゃぎすぎて危険な目に遭っていたのが嘘のように、満面の笑みを浮かべた広春はその場にしゃがみ込んで貝殻拾いをし始めた。
 清広は子どもの視線が砂浜へ向いたのをいいことに、つぐみへ話しかける。

「子どもを育てるのは、大変だな」
「今さら気づいたの?」
「俺が君のそばにいたいと願い続ける限り、つぐみには強い負担を強いる……。それが嫌で、離れたのだが……。この6年間、ずっと、後悔していた」
「今さら失われた時間を取り戻したいと言われたって、無理だよ」
「ああ。わかっている」

 それを理解しているのならば、なぜ清広はこの話題を蒸し返すのだろう。

 (どれほど会話を続けたところで、平行線にしかならないのに……)

 つぐみが納得いかない様子で憂いを帯びた瞳で、寄せては返す波しぶきをじっと見つめる。
 彼は息子の姿を観察しながら、思わせぶりな発言をした。

「仕事とつぐみ。どちらか片方を諦めようとしたから、おかしくなった。君の願いを叶えた時点で、最初からどちらも選び取れば……。こんなふうに、苦労をかけることはなかった」
「私の願いは、1つだけ。あなたの、お嫁さんになること。それ以外にはないよ」
「いや。俺達は幼い頃、ここである約束をした」
「そんなこと……」
「水兵服に身を包んだ俺を、ずっと見ていたい。君がそう願うから、俺は海上自衛官になったんだ」

 清広から「こうなったのはつぐみのせいだ」と言わんばかりの発言を受け、呼吸が止まった。
 在りし日に交わした約束を、思い出したからだ。

 (どうして今まで、忘れていたのだろう?)

 過去を思い出したつぐみは清広のせいだと責任転嫁していた自分が恥ずかしくなり、消えたくなった。

「私が願わなければ、ずっと一緒にいてくれた?」
「そうだな。俺は、まったく別の職業に就いていただろう」
「だったら、海上自衛官になんかならないでほしかった。別れを切り出した時、ちゃんと説明してくれたら……。まだ、間に合ったかもしれないのに……」

 彼が海上自衛官になれば、ずっと一緒にはいられない。それを知らずに幼いつぐみが無邪気に願ったせいで、このような苦労を強いられているのであれば、とんでもない話だ。

 (清広さんは、約束を守ろうとしてくれたのに……。自分がたくさん傷ついたのは彼のせいだと責めていた、なんて……)

 こんな真実を知る羽目になるのならば、黙っていてほしかった。
 そうやって彼の気持ちを労るよりも自分の心を守ろうとするから、清広は離れて行ったのだろう。

「判断を誤ったと気づいた時には、もう遅かった。何度もつぐみに会おうと思ったが、この職業を続ける限りは勤務地を離れられない」
「仕事を辞めてでも、会いに来る価値はなかったってことでしょ?」
「違う。何もかもをかなぐり捨てるよりも、経済的にも肉体的にも成熟した大人になってから、迎えに行くほうが合理的だと判断した」

 昨日までのつぐみであれば、「そんな言い訳は聞きたくない」と耳を塞ぎ、清広を拒絶していた。
 しかし――真実を知った己には、彼の主張を頭ごなしに否定する権利はなかった。
 だからこそ、彼の声に黙って耳を傾けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。

藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。 集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。 器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。 転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。 〜main cast〜 ・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26 ・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26 ・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26 ・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26 ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

イケメン社長からの猛烈求愛

鳴宮鶉子
恋愛
イケメン社長からの猛烈求愛

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

龍の腕に咲く華

沙夜
恋愛
どうして私ばかり、いつも変な人に絡まれるんだろう。 そんな毎日から抜け出したくて貼った、たった一枚のタトゥーシール。それが、本物の獣を呼び寄せてしまった。 彼の名前は、檜山湊。極道の若頭。 恐怖から始まったのは、200万円の借金のカタとして課せられた「添い寝」という奇妙な契約。 支配的なのに、時折見せる不器用な優しさ。恐怖と安らぎの間で揺れ動く心。これはただの気まぐれか、それとも――。 一度は逃げ出したはずの豪華な鳥籠へ、なぜ私は再び戻ろうとするのか。 偽りの強さを捨てた少女が、自らの意志で愛に生きる覚悟を決めるまでの、危険で甘いラブストーリー。

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

処理中です...