エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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2・6年後に再会

海を見つめて(2)

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「つぐみと偶然再会するまでは、自分の選んだ選択に自信を持てなかった。だが、今は……。俺の選択は正解だったと胸を張って言える」

 真面目な彼のことだ。
 立派に成長した自分を最愛の人へ見せるため、真面目に仕事へ取り組んできたらしい。

「経済的な余裕ができ、君と離れたら生きていけないと嘆く弱い心を捨て去った。いい事ずくめだ」
「幼い頃に些細な一言を口にしたせいで、私は広春から父親を奪ったんだよ……? そんなの、許されるわけが……」

 清広はなんとも言えない複雑な表情を浮かべてじっと息子を見つめるつぐみの隣で、力強く宣言した。

「どうか、自分を責めないでほしい。こちらが勝手に君の望みを叶え、苦労をさせてしまった。すべて、口下手な俺が悪い」

 清広は事実を知ったつぐみを責めることなく、すべての原因は自分にあると言わんばかりの態度を崩さなかった。

 (悲しむ私を、見たくないから……)

 彼が1人で罪を背負い込もうとすればするほど、つぐみが惨めな気持ちになると気づかぬまま……。

「今まで本当に、すまなかった。今さら現れたところで、つぐみにとって俺は、過去の人間だ。君達親子の人生にはもう、必要ないかもしれん」

 清広から何度目かわからぬ謝罪を受け、つぐみは唇をわなわなと震わせる。聞き捨てならない言葉が含まれていたからだ。
 彼の胸元へ勢いよく掴みかかると、瞳に涙を滲ませて叫び声を上げた。

「私達がどう思っているのかを、勝手に決めつけないでよ……!」
「つぐみ……?」
「私は広春がお腹に宿っていると、面と向かって笑顔で報告したかった! あなたさえいれば、ほかにはなにもいらなかったのに……!」
「ママ……」
「また、繰り返すなんて許さない! 今度こそ、責任を取ってもらうんだから!」
「すまな……」

 母親の怒鳴り声を耳にした息子が砂浜からこちらに視線を移したのに気づかぬまま、つぐみは大きな図体を縮こまらせながら申し訳なさそうに謝罪を繰り返す彼の唇を塞いだ。

 好きだと言える資格がないのなら、態度で言い表すしかなかったのだ。

 清広はつぐみが触れ合った唇が離れるまで、無言を貫いていた。
 感情の起伏が乏しい瞳には、驚愕の二文字が浮かんでいる。

 (ここで終わらせるわけには、いかない)

 彼に伝えなくてはならぬ言葉は、山程あるのだ。
 つぐみは怯えた息子が父親の足元へ縋りつく姿を横目で確信しながら再び声を荒らげた。

「申し訳ないと心の底から思う気持ちがあるのなら! 約束を守ってよ……!」
「つぐみ……」
「今後は、変な意地を張らない。素直になるから……」

 心の奥底で燻っていた気持ちを一気に吐き出したからか。
 やがて、怒りの炎がどんどんと小さくなって消えていく。

 (どうしよう……)

 ようやく冷静になったつぐみは、そこでようやく自分が言い過ぎたと気づいて表情を青ざめさせた。

 とてもじゃないが、彼と面と向かって顔を合わせる気にもならない。
 つぐみは気まずそうに、視線を反らした。

「いいのか」

 すると、清広は先程の発言が真実なのかと確認するようにぽつりと言葉を紡いだ。
 つぐみはこの期に及んでもこちらの言う事を信じてくれない彼に苛立ちを募らせながら、不貞腐れたように声を発する。

「嫌なら、別にいいよ。今度こそ、縁を切るから。広春にだって、会わせない……」
「待て。俺はまだ、答えを出していない」
「なんで、即答してくれないの? 清広さんが私達が好きだって言う気持ちは、やっぱりその程度なんだ……」

 つぐみが瞳を潤ませれば、清広の足元に纏わりついていた息子が不安そうにぽつりと父親に向かって問いかける。

「パパと、お別れなの……?」
「まさか。俺は、ママを愛している」
「ほんと……?」
「ああ。だからこそ、広春のパパであり続けたい」
「うん! 僕も、パパとずっと一緒にいたい!」

 満面の笑みを浮かべて頷いた広春の姿を目にした彼は、その場にしゃがみ込み息子を抱き上げる。
 その後、開いている手を使ってつぐみを抱き寄せた。

 (綺麗……)

 こちらをじっと見つめる清広の瞳の奥底には、己に対する愛が押し寄せる波のように揺れていた。

「俺ともう一度、結婚を前提に交際してくれないか」

 つぐみはその告白を耳にしたせいか。
 うっとりと頬を赤らめ、ようやく口元を綻ばせた。

「仕方ないなぁ……。広春と一緒に、暮らしてあげる」
「つぐみ……!」

 清広は言葉にできない喜びを、つぐみと唇を触れ合わせることによって表現する。
 今度は触れ合うだけではなく、舌を絡め合う情熱的な口づけが交わされた。

「パパとママ、ラブラブ!」

 その光景をじっと見つめていた息子が、嬉しそうに発する声を聞きながら。
 つぐみは涙と海水が混ざって塩っぱく感じる罪の味を、なんとも言えない複雑な気分で、噛みしめるのだった。
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