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3・つかの間の幸せ
彼氏とこれから(1)
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再び想いを通じ合わせた2人は息子とともに、清広が暮らす自宅へ招かれた。
「そんなに急がなくても、いいんじゃない? 昨日の今日だし……」
「つぐみは気分屋だからな。明日には態度が、180度変化しているかもしれない。それでは困るんだ」
いくら相手が最愛の人と言えども、長い間離れて暮らしていたのだ。
彼は心の底からつぐみを信じ切れていないようで、交際を了承したあとも手を離したら逃げられてしまうのではと恐れているらしい。
(心配性を通り越して、執着愛を拗らせているような……)
つぐみは清広の精神状態を心配しながらも、黙って着いていく。
大はしゃぎしすぎて疲れて眠ってしまった息子を人質に取られているからだ。
(広春が彼の腕の中に抱きしめられていなかったとしても、逃げる気はないけど……)
つぐみは彼と指を絡めて繋いだ指先から伝わるぬくもりを堪能しつつ、20階建ての高層マンションに足を踏み入れた。
彼が暮らす部屋は 七 7階の角部屋。 駅から徒歩15分、職場までは徒歩約10分ほどの距離だ。
間取りは2SLDK。
バス・トイレ別、6帖の洋室が2部屋と、4帖のサービスルーム。
16帖のLDK――。
つぐみが今息子と暮らしている1DKの賃貸住宅と比べると、随分と贅沢な部屋に住んでいるというのが正直な感想だった。
「いつでも3人で暮らせるように、ゆとりのある部屋を借りておいて本当によかった」
清広は満足げに口元を綻ばせ、つぐみを室内へ誘う。
海からここに来るまでの道すがら、2人は今後についての話し合いを済ませていた。
いずれは結婚を前提に、家族3人で暮らすこと。
彼氏彼女に戻ること。
もう、嘘はつかないこと――。
それだけ約束できれば、充分だ。
つぐみは履いていたハイヒールを脱いで、息子の靴と一緒に玄関へ揃えて置く。
清広は気持ちよさそうに眠る広春をソファーに横たえたあと、つぐみを抱き上げ寝室へ向かった。
「清広さん……! まだ、昼間……!」
「静かに。広春が起きてしまう」
「でも……っ」
「家にいる間は、つぐみと少しでも長く触れ合っていたいんだ。駄目か」
大好きな人と少しでも触れ合いたい。
その気持ちは、彼とも同じだった。
(嫌ですなんて、言えないよね……)
つぐみは顔を真っ赤しながら「そんなことはない」と無言で首を左右に振って伝えるのが精一杯だった。
その姿を目にした清広は口元を綻ばせて喜ぶと、寝台の腕に胡座をかいて座った。
(き、気まずい……)
彼の膝上に乗ったつぐみは居心地の悪さを感じながら、後ろから抱きしめてきた彼の両腕を否定することなく受け入れた。
「明日は、仕事か」
「うん。清広さんは……?」
「俺はしばらく休みだ」
「どのくらい?」
「正確なことはわからん。何もなければ、3日程度の猶予はある」
海上自衛官の勤務形態をよく知らないつぐみにとって、清広のふんわりとした返答には驚くしかない。
保育士は基本シフト制で、人手が足りない時に呼び出されることはあっても、週に一度は必ず休みがあるからだ。
「1日中一緒にいられるのは、今日だけかもしれないんだ……」
「ああ。だから、どうしても今日中につぐみと話をつけておきたかった……」
つぐみは清広が急いで距離を詰めてきた理由を知り、後ろを振り返って彼の顔を見つめた。
聞こえてきた声音がどこか、寂しそうに感じられたからだ。
「仕事、忙しいの?」
「そうだな」
「軽い気持ちで勧めて、ごめんなさい。私、自衛隊がどう言うところなのか、知らなくて……」
「いや……。この仕事が好きでなければ、ここまで続けられないさ」
責任を感じて謝罪をすれば、清広は気に病む必要はないとこちらの頭を優しく撫でつけた。
つぐみは気持ちよさそうに瞳を細め、穏やかな口調で彼に告げた。
「私と、同じだね」
「つぐみと?」
「うん。親御さんの対応とか、同僚との人間関係とか……。大変なことばかりだけど……。保育士を続けて来られたのは、子どもが好きだからなの……」
か弱く見えるつぐみは何かと気が強く傲慢な山田に園内で起きたトラブルの責任を取らされたり、仕事を押しつけられたりと、散々な日々を送っていた。
大人しい性格をしているため言いやすいのか、園児の親達からの当たりもかなり強かった。
それでもどうにかここまでこの職業を続けて来られたのは、仕事を止めたら広春を路頭に迷わせてしまうと危惧したからだ。
「仕事、楽しいか」
愛する女性の表情が曇ったことを、敏感に悟ったのだろう。
清広は優しい声で、こちらに問いかけた。
「どう、かな……。子ども達の成長が感じられた時や、笑顔を見ている時は……。嬉しい気持ちになるけど……」
か細い声で自身の気持ちを伝えていたつぐみは、そこでピタリと言葉を止めた。
「そんなに急がなくても、いいんじゃない? 昨日の今日だし……」
「つぐみは気分屋だからな。明日には態度が、180度変化しているかもしれない。それでは困るんだ」
いくら相手が最愛の人と言えども、長い間離れて暮らしていたのだ。
彼は心の底からつぐみを信じ切れていないようで、交際を了承したあとも手を離したら逃げられてしまうのではと恐れているらしい。
(心配性を通り越して、執着愛を拗らせているような……)
つぐみは清広の精神状態を心配しながらも、黙って着いていく。
大はしゃぎしすぎて疲れて眠ってしまった息子を人質に取られているからだ。
(広春が彼の腕の中に抱きしめられていなかったとしても、逃げる気はないけど……)
つぐみは彼と指を絡めて繋いだ指先から伝わるぬくもりを堪能しつつ、20階建ての高層マンションに足を踏み入れた。
彼が暮らす部屋は 七 7階の角部屋。 駅から徒歩15分、職場までは徒歩約10分ほどの距離だ。
間取りは2SLDK。
バス・トイレ別、6帖の洋室が2部屋と、4帖のサービスルーム。
16帖のLDK――。
つぐみが今息子と暮らしている1DKの賃貸住宅と比べると、随分と贅沢な部屋に住んでいるというのが正直な感想だった。
「いつでも3人で暮らせるように、ゆとりのある部屋を借りておいて本当によかった」
清広は満足げに口元を綻ばせ、つぐみを室内へ誘う。
海からここに来るまでの道すがら、2人は今後についての話し合いを済ませていた。
いずれは結婚を前提に、家族3人で暮らすこと。
彼氏彼女に戻ること。
もう、嘘はつかないこと――。
それだけ約束できれば、充分だ。
つぐみは履いていたハイヒールを脱いで、息子の靴と一緒に玄関へ揃えて置く。
清広は気持ちよさそうに眠る広春をソファーに横たえたあと、つぐみを抱き上げ寝室へ向かった。
「清広さん……! まだ、昼間……!」
「静かに。広春が起きてしまう」
「でも……っ」
「家にいる間は、つぐみと少しでも長く触れ合っていたいんだ。駄目か」
大好きな人と少しでも触れ合いたい。
その気持ちは、彼とも同じだった。
(嫌ですなんて、言えないよね……)
つぐみは顔を真っ赤しながら「そんなことはない」と無言で首を左右に振って伝えるのが精一杯だった。
その姿を目にした清広は口元を綻ばせて喜ぶと、寝台の腕に胡座をかいて座った。
(き、気まずい……)
彼の膝上に乗ったつぐみは居心地の悪さを感じながら、後ろから抱きしめてきた彼の両腕を否定することなく受け入れた。
「明日は、仕事か」
「うん。清広さんは……?」
「俺はしばらく休みだ」
「どのくらい?」
「正確なことはわからん。何もなければ、3日程度の猶予はある」
海上自衛官の勤務形態をよく知らないつぐみにとって、清広のふんわりとした返答には驚くしかない。
保育士は基本シフト制で、人手が足りない時に呼び出されることはあっても、週に一度は必ず休みがあるからだ。
「1日中一緒にいられるのは、今日だけかもしれないんだ……」
「ああ。だから、どうしても今日中につぐみと話をつけておきたかった……」
つぐみは清広が急いで距離を詰めてきた理由を知り、後ろを振り返って彼の顔を見つめた。
聞こえてきた声音がどこか、寂しそうに感じられたからだ。
「仕事、忙しいの?」
「そうだな」
「軽い気持ちで勧めて、ごめんなさい。私、自衛隊がどう言うところなのか、知らなくて……」
「いや……。この仕事が好きでなければ、ここまで続けられないさ」
責任を感じて謝罪をすれば、清広は気に病む必要はないとこちらの頭を優しく撫でつけた。
つぐみは気持ちよさそうに瞳を細め、穏やかな口調で彼に告げた。
「私と、同じだね」
「つぐみと?」
「うん。親御さんの対応とか、同僚との人間関係とか……。大変なことばかりだけど……。保育士を続けて来られたのは、子どもが好きだからなの……」
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それでもどうにかここまでこの職業を続けて来られたのは、仕事を止めたら広春を路頭に迷わせてしまうと危惧したからだ。
「仕事、楽しいか」
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清広は優しい声で、こちらに問いかけた。
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