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3・つかの間の幸せ
あなたに触れられて(1)
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「清広さんは、酷い人だね」
「すまない」
「私と広春を悲しませるくらいなら……。幼い頃の約束なんて、律儀に守らなくてもいいんだよ」
「やはり、今の仕事を辞めるべきだろうか……」
つぐみは喉まで出かかった言葉を、必死に飲み込込む。
(そんな危険な仕事は今すぐ辞めて、ずっと私のそばにいると約束してほしい、なんて……。そんなことを言う資格など、私には、ない……)
つぐみは彼と再会してから、酷い態度を取ってきた。
こうして彼と再び交際することになり、ともに暮らすようになっただけでも感謝するべき立場だ。
だから――。
(これ以上は望んではいけない。求めたら、罰が当たる)
素直に彼へ「仕事をやめてほしい」とは言えずに胸の前で腕を組むと、清広から視線を反らした。
「それくらい、自分で考えたら?」
「すまない、つぐみ……。本当に……」
つぐみを自宅に連れてきてから、彼は謝罪をしてばかりだ。
(謝らなきゃいけないのは、私の方なのに……)
つぐみの心の中では、さまざまな感情が荒れ狂っていた。
怒り、悲しみ、困惑。そして、驚き。
「もう二度と、縁起の悪い話を口にしないで」
「ああ……」
「最悪の状況なんて、考えたくもない……」
命さえ繋がっていれば、破局しても再び巡り会える。今のつぐみと清広のように。
だが、命が失われてしまえば、元も子もない。
もう二度と彼に愛を囁いてもらうこともできなければ、こうして触れ合うことすら敵わないのだ。
今までと同じように、女手1つで広春を育てていくことになる。
(心を許した瞬間、私の元からいなくなってしまったら……)
つぐみは今度こそ、立ち直れないだろう。
(悪い方向に考えるから、苦しくなるんだ……)
もしもの可能性に怯えたところで、どうにもならない。
そう何度も己に言い聞かせ、唇を強く噛みしめることで心を落ち着かせる。
「つぐみ」
そんなこちらの姿を目にした彼は、こちらの口元に太くて大きい指先を触れた。
そこを撫でつけられると、ゾワゾワとした甘い痺れのような快感が身体中を駆け巡る。
(清広さんの指先が、私に触れてくれた……)
つぐみはそれに強い喜びを感じ、視線だけで「もう大丈夫」だと訴えかけた。
彼はその光景を前にして、ゆっくりとそこから指先を離す。
(喜ぶ暇があったら、これからの話をしなくちゃ……)
つぐみは1人の女から母親に戻ると、再びゆっくりと口を開いた。
「清広さんとともに暮らす上でのデメリットよりも、メリットの話をしたいの。いい?」
「もちろん。何不自由なく暮らせるだけの、蓄えはあるからな。全財産はつぐみに預ける。好きなように使ってくれ」
清広に金銭的な余裕がありそうなのは、高級マンションで暮らしている時点でわかりきっている。
わざわざ説明されるまでもないと、不機嫌そうに彼へ告げた。
「交際初日に全財産を預ける彼氏なんて、聞いたことがないよ……」
「結婚を前提としているからな。つぐみでなければ渡さない」
「いくらなんでも……」
「そう警戒するな。言葉通りに受け取ってくれ。広春も、もうすぐ小学生になる。何かと、入り用だろう?」
清広はつぐみに通帳やキャッシュカードの在処を指差しで伝えると、耳元で暗証番号を囁いた。
どうやら彼は本気で、ことらに金銭管理を任せるつもりのようだ。
(あり得ない……)
いくらつぐみが元婚約者で双方の両親とも面識があったとしても、復縁初日に「今まで稼いだ貯金を好きなだけ使ってくれ」と言わんばかりの態度を見せびらかされたところで、到底受け入れられなかった。
(清広さんのお金は、手をつけないで放置しておこう……)
つぐみだって、息子を育てながら保育士として生活してきたのだ。
それなりに蓄えはある。
結婚するまでは自分の財布から出そうと固く誓い、ほかにメリットはないのかと探るような視線を彼氏に向けた。
「すまない」
「私と広春を悲しませるくらいなら……。幼い頃の約束なんて、律儀に守らなくてもいいんだよ」
「やはり、今の仕事を辞めるべきだろうか……」
つぐみは喉まで出かかった言葉を、必死に飲み込込む。
(そんな危険な仕事は今すぐ辞めて、ずっと私のそばにいると約束してほしい、なんて……。そんなことを言う資格など、私には、ない……)
つぐみは彼と再会してから、酷い態度を取ってきた。
こうして彼と再び交際することになり、ともに暮らすようになっただけでも感謝するべき立場だ。
だから――。
(これ以上は望んではいけない。求めたら、罰が当たる)
素直に彼へ「仕事をやめてほしい」とは言えずに胸の前で腕を組むと、清広から視線を反らした。
「それくらい、自分で考えたら?」
「すまない、つぐみ……。本当に……」
つぐみを自宅に連れてきてから、彼は謝罪をしてばかりだ。
(謝らなきゃいけないのは、私の方なのに……)
つぐみの心の中では、さまざまな感情が荒れ狂っていた。
怒り、悲しみ、困惑。そして、驚き。
「もう二度と、縁起の悪い話を口にしないで」
「ああ……」
「最悪の状況なんて、考えたくもない……」
命さえ繋がっていれば、破局しても再び巡り会える。今のつぐみと清広のように。
だが、命が失われてしまえば、元も子もない。
もう二度と彼に愛を囁いてもらうこともできなければ、こうして触れ合うことすら敵わないのだ。
今までと同じように、女手1つで広春を育てていくことになる。
(心を許した瞬間、私の元からいなくなってしまったら……)
つぐみは今度こそ、立ち直れないだろう。
(悪い方向に考えるから、苦しくなるんだ……)
もしもの可能性に怯えたところで、どうにもならない。
そう何度も己に言い聞かせ、唇を強く噛みしめることで心を落ち着かせる。
「つぐみ」
そんなこちらの姿を目にした彼は、こちらの口元に太くて大きい指先を触れた。
そこを撫でつけられると、ゾワゾワとした甘い痺れのような快感が身体中を駆け巡る。
(清広さんの指先が、私に触れてくれた……)
つぐみはそれに強い喜びを感じ、視線だけで「もう大丈夫」だと訴えかけた。
彼はその光景を前にして、ゆっくりとそこから指先を離す。
(喜ぶ暇があったら、これからの話をしなくちゃ……)
つぐみは1人の女から母親に戻ると、再びゆっくりと口を開いた。
「清広さんとともに暮らす上でのデメリットよりも、メリットの話をしたいの。いい?」
「もちろん。何不自由なく暮らせるだけの、蓄えはあるからな。全財産はつぐみに預ける。好きなように使ってくれ」
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わざわざ説明されるまでもないと、不機嫌そうに彼へ告げた。
「交際初日に全財産を預ける彼氏なんて、聞いたことがないよ……」
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「そう警戒するな。言葉通りに受け取ってくれ。広春も、もうすぐ小学生になる。何かと、入り用だろう?」
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